Chapter 22.12 -御雷(みかづち)-

はあああ… プロンプトが、悔しそうな長いため息をついていた。傾きかけたビルの屋上から…屋上と言うよりはただの屋根だが、プロンプトは双眼鏡を覗き込んで、辺りの瓦礫と瓦礫の合間を丁寧に見ていく…揚陸艇どころか、犬一匹、ハト一羽の姿もない。


「完全な無人だな…」


ノクトは、もはや双眼鏡を覗き込むのも、やめてしまった。ただ、ぼんやりと遠くを見る。見るというよりは気配を感じ取ろうとしている。しかし、…遠くの方に、他の隊員が、やはり諦めがちに周囲を探索している気配以外には、何も感じない。


「そろそろ行くぞ…」


ノクトは時計を見て、プロンプトに声を駆ける。帝都、中心地よりやや北側…魔高炉のその口が、かろうじて見える位置に、一行は何とか着陸地点を見つけて降り立った。しかし、これまでのところ、周辺の探索で収穫は無い。ヘリコプターの着陸地点まで集合すると決めれらた時間が、迫っていた。


プロンプトは諦めがつかない様子で、いつまでも双眼鏡を覗いている。


「向こうも追いかけれられてるってわかってるし…追跡を逃れるために、一度帝都を離れたって可能性もあるだろ」


プロンプトはようやく双眼鏡を下ろしたが…納得のいかない表情をしていた。


「…ヴァーサタイルなら、たぶん、そんな回りくどいことはしない」


「ヴァーサタイルじゃないだろ…奴はお前が倒した」


「そうだけど…でも、なんか似てると思って」


亡霊でも追いかけているのか… 


ノクトは心配そうに親友の横顔を見た。もやもやと落ち着かない気持ちは理解できる…偽者なら偽者だと、はっきり確認できればいいんだが。


ーノクティス陛下、プロンプト。時間です。


無線から指揮官の声が聞こえた。時間を過ぎて戻らなかったのは二人だけなのだろう。


ーああ、悪い。いますぐ向かう


ノクトは無線に応じた。まだ、納得のいかないプロンプトに近づき、慰めるようにその肩に手を触れた。


「さあ、行こう…どの道、帝都にはまた来ることになるさ」


はあああ… プロンプトはまた、長いため息をついた。しかし、ようやく、気持ちを切り替えたのか、いつもの笑顔を見せて、ノクトに頷いた。


「ごめん…心配させた?」


「ばあか」


ノクトは、照れ隠しに笑って、来たときと同じように、隣の少し低い建物の屋根に飛び移る。今日、散々心配させたのはオレのほうだしな…


考えてみれば、昨日は一日、ガラールの捜索をして、昼間に短い仮眠を取った後は…そのままボンガロの奪還作戦に突入していたのだ。もう1昼夜眠っていない、と思い出して、ノクトは急に疲れを感じる。ああ…早く、どかっと、家のベッドで眠りたい…ルーナを、抱きしめてやりたい。


途端にノクトの意識は、凄惨な戦場を離れて、チパシの我が家に向かった。そして、強烈な眠気が襲ってくる。


「やべぇ…超眠くなってきた…」


「ええ?! もう、やめてよ。担いでくの、やだよ?!」


プロンプトが、口を尖らせながら、ノクトの後を追ってビルから飛び移ろうとした。


ごごごごごご… 突然地鳴りがして、二人は硬直する。


なんだ?


一瞬の間をおいて… ごごごごごごごご… 次の地鳴りとともに、大地が大きく揺れ始めた。


「じ、地震?!」


ノクトの方へ飛び移ろうとしたプロンプトは、一旦、身を引く。倒壊しかかったそのビルは…ノクトの立っている建物よりさらに揺れが激しい。


しばらくして…揺れが収まった。


ーノクティス陛下、プロンプト、応答願う。ご無事ですか?


慌てた声が無線から響いた。


ーああ、大丈夫だ。地震か?


ーわかりません…早めに出発します。すぐに着陸地点まで帰還を


ー了解だ


プロンプトも、もうぐすぐずはしていなかった。ノクトの立っている隣の建物まで、ひょいっと跳躍する。


「急ごう…」


二人は顔を見合わせて頷き、来た道を戻ろうと駆け出した…といっても、倒壊した建物を適当に渡りながら、進んできた。およそのヘリの位置はわかるものの…戻るのは簡単ではない。


「なんだろうね、今の…ただの地震かな」


ノクトの脳裏に、帝都に眠る最終兵器のことがよぎったが…口には出さないでおいた。


二人は、建物の屋根沿いに進んで、また、隣の建物に移る。ビル街のこの辺りは…魔高炉を中心とした帝都の製造業の中心であった。魔高炉のすぐ周辺には、無尽蔵のエネルギーを利用して24時間稼動し続けた巨大な工場群が続いてる…そこから少し離れたこの場所は、事務所や製造業者の管理部門が立ち並ぶオフィス街であったらしい。今見えるのは、傾いたビルの群れ…その大半は一部が崩れ落ちている。崩れかけたネオンや看板が、ここかしこに目につく。きっと、にぎやかな通りだったに違いない。


ノクトは、えいっ…と勢いをつけて、また、隣のビルに移った。ヘリは、倒壊しかかったビルの、辛うじて残っていた屋上のヘリポートに降りたのだ。中腹が捩れてつぶれるように崩れており、もともと何階建てのビルだったのか判然としない。ノクトが、今しがみついたビルは、比較的その高さを保っており、非常階段を使って上まで上がれば、ヘリが降り立った場所まで見渡せるはずだった。その横を、町工場の屋根が続いていて、来るときはその屋根伝いに進んできたのだ。


ノクトは、腐食して不安定なむき出しの階段を登った。今のところ、揺れはない…やはりただの地震だったのだろうか。少し安堵して、あとから、スキップするように追いかけてくるプロンプトを見る。合図する用に、右手を上げて笑顔を返してきた。


あいつの気分も切り替わったか


ノクトも笑い返して、そして残りの階段を一気に屋上まで駆け上がる。工場の屋根の先の、倒壊しかかったビルのヘリポートが見え、ヘリが、二人の到着を待っていた。


ー待たせて悪いな。あと少しだ。他の連中は?


ーみな、戻っています。足元にお気をつけて


ノクトは、苦笑して、無線を切る。やっぱり、素人扱いだな。最後の最後で足を滑らしたら、それこそ笑い話にもならないと思い、ノクトは慎重に工場の屋根に移った。


ごごごごごご… 嫌な地鳴りがまた響いた。振り返ると、不安そうなプロンプトが屋上の上に顔を出していた。


ごごごごごご… そして、また、揺れはじめる。


ごごごごごごごごごご… 揺れは、途切れ途切れに、しかし、徐々に強くなっていく…ノクトは工場の屋根の上でバランスを取りながら、身をかがめる。


「ノクト! 大丈夫?!」


「揺れが収まるまで、そっちで待て!!」


プロンプトは心配そうにビルの上からノクトの様子を見ている。工場は明らかにもろく、揺れる度に、どこかしこの壁が崩れ落ちた。


ごごごごごごご… 


揺れが絶え間なく、そして強くなってきた…もはや、屋根の上に立っていられなくなり、ノクトはしがみつくように身を伏せた。


ごごごごごごごご…  地鳴りに重なるように、大きな音がして、一つ向こうの棟の工場が、建物ごと崩れていくのが見えた。


やべえな… 


「ノクト!!戻って!」


プロンプトの必死な声が聞こえる…ノクトは冷や汗を垂らしながら、何とか体の向きを変えて、プロンプトの待つ隣のビルに戻ろうとする。しかし、地鳴りと揺れは酷くなるばかりだ…


くそっ… シフトでも使えれば!


無様に屋根を這いながら、少しずつ前へ進もうとするが、激しく突き上げる揺れに、屋根にしがみつくのがやっとだ。

突然、地鳴りに混じって大地が避けるような大きな音がなり響いた。振り向くと、ヘリコプターのさらに先…魔高炉に近い場所から、ごうごうと音を立てながら、地上数百mにも登る巨大な土煙が沸き起こっていた。


なんだ、爆発? それとも、噴火か?! 


「ノクト!!!早く!!」


プロンプトの叫び声が響く。しかし、地鳴りが酷くなり、それさえもかき消されそうであった。


あ… 


ノクトは、思わず声を上げて、固まる。灰色の土煙の中から、強大な人の影のようなものが見えた…そして、獣のような咆哮。


ぐあんぐあんぐあんぐあん…


あまりの音量に耳をふさぎ、身を伏せる。音量が大きすぎて、音として捉えられない…体でその空圧を感じた。しかし、じっとしてもいられなかった。揺れはまだ続いているが…その姿が今ははっきりと煙の中から現れていた。それまで、ノクトを心配そうに見ていたプロンプトも、目を見開いてその姿を見つめる。


これまでの…どの野獣までも巨大な…人型のなにか。高さは…その辺りの5,6階建のビルより遥かに高い。その肌は…ここからは、青黒く見える。頭は、体の大きさから比べると、不釣合いに小さく感じた…首元に巨大な鎖が食い込んでいるのが見える。まるで、そのせいで、頭部の成長だけが止まってしまったみたいだ。その顔は…煙に隠れてよくわからない。人の物か、獣のものか、魔導兵か、それとも、シガイなのか…


帝都に眠っていた…最終兵器


ノクトはごくりと、つばを飲み込む。


ぐおんぐおんぐおんぐおん…


巨人は苦しそうに叫び声を上げる...あまりの音量にまた耳を伏せる…全身に空圧を感じながら、ノクトは無線に向かって叫んだ。


ーすぐに離陸しろ!!!すぐだ!!!!


ごおおおおおおおおおお!!!!!


巨人が体を震わすたびに、周囲の建物がことごとくずれるのが見える。頼む、早く離陸してくれ… ノクトは祈るようにヘリを見た。そのプロペラはやがて回転を始めて、その空圧に揺れるようにして浮上した。


ー一次退避します!


必死な声が、無線に届いた。背後に風圧の酷い雑音が聞こえる…ざざざざ…妙なノイズも入る。


ノクトは、自分のことを忘れて、上昇していくヘリコプターを見ていた。やや、左右に揺れながら浮上したヘリコプターが…しかし、やがて安定した様子で、西に向かって離脱していくのが見えた。


よかった… ノクトはホッとため息をつく。


「ノクト!!!今のうち!早く!!!」


プロンプトの声がして、我に帰った。大地の揺れは収まっていた。ノクトは、さっと身を翻して、工場の屋根の上を走る。


「こっち!」


プロンプトが屋上から手を伸ばしていた。さっと、飛び移ろうとしたとき…


ぐあああああああああああああ!!!!!!!!


再び、咆哮が鳴り響いた。飛び上がったノクトは風圧に飛ばされて、隣のビルの壁に叩きつけられた。そして壁沿いにずれ落ちる…


「ノクトおおおおおおお!!!」


プロンプトの絶叫が聞こえる。ノクトは、落下しながら必死に手を伸ばし、辛うじて、ガラスの抜け落ちていた小さな窓に手をかける。


ぐ… 激痛が手に走り、顔をしかめた。ガラスの破片がまだ残っていたようだ。鋭利なものが手に食い込んだのがわかる。しかし、躊躇っている時間はない。痛みに耐えながら体を引き上げ、窓に身を乗り上げる。


「ノクト!!!」


「中に入る!!お前も、退避しろ!!」


わかった!! 慌てた声が辛うじて聞こえて、そして気配が遠のいた。ノクトは、そのまま窓から身を押し込み、ビルの内部へと転がり落ちた。


ぐおおおおおおおおおお・・・・・ 咆哮が続いて、ビルが振動していた。


ーノクティス陛下! プロンプト! 応答してください!!


ノクトは血に染まった右手からガラスの破片を引き抜きつつ…


ーノクトだ。帝都郊外まで退避しろ。何とか、プロンプトと徒歩で向かう


指揮官は一瞬、戸惑うように息を呑むのが聞こえた。しかし、間もなくして


ー了解です…西に進みます。どうぞご無事で


覚悟を決めた声が聞こえ、通信が終わる。


ープロンプト、聞こえるか?


ー聞こえるよ。入れるところを探してるけど見付かんない!!


ー慌てるな。こっちから出る…さっきの非常階段で合流しよう


ー了解


ごおおおおおおおおおおおお!!!!


また、大きな振動が伝わる。ノクトはガラスを抜き終えて、取り急ぎ止血用の布を強く巻きつける。ちらっと、窓から外を眺めると、遠くの方で、巨人が、怒り狂う様子で腕を振り上げ、周囲を破壊しているのが見えた。

巨人は、おもむろに身を起こし、そして、息を吸い込んでいた…風船のようにその巨大な胸が膨らむ。そして、その横顔に赤い目が光るのが見えた。


がああああああああああああああああああああああああああああ!!!!


建物がまた、強烈に振動して、どこかで何かが崩れ落ちる音が響いた。


なんだ?! ノクトは、強烈な頭痛を感じながら、頭を押さえ込む。風圧?! いや、音波?! なにか正体のわからない衝撃を体に受けているのを感じる。辛うじて、目を開けると…巨人の口が巨大に開き…そこから西側に向かって、何がを噴出している…色もかたちもない…しかし、その口から先に吐き出されたなにかが、陽炎のように空間をゆがめ、その先にある建物をことごとく破壊していくのが見えた。


マジか…あんなもの、正面から受けたら…


ーノクト?! まだなの?!


ーわるい、今行く!!


ノクトは、今、見たものの衝撃で、手の痛みを忘れるほどだった。ただ、恐怖に追い立てるように、ちょうど反対の端にあるはずの非常階段を目指して、用務室のような小さな部屋を出た。中は…広い部屋に延々と並ぶコンピューターと、事務机。何かの事務所だったのだろう。蛍光灯は落ちて、書類が散乱している。ノクトは、それらを踏み越えながら、部屋を駆け抜けて、扉から廊下へ出る。この建物はそんなに広くはないはず…出た先はエレベータホールだ。床が明らかに傾いてる。半開きのエレベータから、暗い空洞が見える…正面を走り抜けて反対側の扉をあける。バックヤードの広い空間と、非常階段に続く扉が見えた。扉は…ゆがんでいた。


ばん! と体当たりをした。しかし、開かない。


「ノクト?!」


少し上の方からプロンプトの声が聞こえた。間もなく、ばたばたと駆け下りる足音が聞こえてくる。


「ああ、ここだ! 扉がゆがんで開かない」


その時、また咆哮が聞こえた…建物を破壊する音が…さっきより、近づいたようだ。ノクトは、必死にまた体当たりをした。だめだ…びくりともしない。

がん!! 外から、プロンプトも体当たりをしている音が聞こえてきた。


「プロンプト! 無理っぽい…そのまま、とにかく離れろ。やつが近づいてきているぞ」


「馬鹿いわないでよ!!」


怒った声が返ってくる。ははは…ノクトは力なく笑って


「わーったって…じゃあ、こうしよう。次の階へ降りる。どこかで開く扉があるだろ」


「わかった。この下ね!!」


プロンプトが先に駆け下りる音が聞こえる。ノクトは、振り返った…非常階段がダメだとすると…エレベータか。


ごおおおおおおお… また、咆哮が聞こえて、建物が激しく振動した。ばらばらと天井から破片が落ちてくる。いつ倒壊するかわからないな…ノクトは慌ててエレベータホールまで戻った。半分口をあけたエレベータを覗き込む…肝心の箱は、遥か下の方にひしゃげているのが見えた。扉の脇に、メンテナンス用の細い梯子を見つける。いかにも危うそうだが…迷っている時間はない。ノクトはさっとはしごに飛びついた。その時、右手に激痛が走り、ケガをしていることを思い出した。いつの間にか、手に巻きつけた白い布は、すっかり血に染まっていた。


深く切ったな… 


ノクトは、痛みに顔をしかめながら梯子を降りた…一階分降りたところで、エレベータの扉を開けようとするが…ここもゆがんでびくともしない。ノクトは左手首の無線に口を寄せて


ープロンプト。どうだ、どっかあいたか? こっちはエレベータの中をはしごで降りてる。ひとつ下の階には出られそうにない。


ーノクト、さっきの階から今、3つ降りてきてるんだ。ここ、なんとか隙間から出られそう!


ー了解。3つ下だな。降りてみる。


ごおおおおおおおおおおお!!!!


また、激しい揺れが来て、ノクトは梯子にしがみついた。エレベータ内に残るロープが、大きく揺れている。ここでも、ぱらぱらと何かが天井から落ちてくる…急がないと。ノクトは、揺れが収まらないうちから、慎重に梯子に手をかけて降りていく。


先ほどから、絶え間ない地響き…そして、何かを破壊する音。徐々にだが、近づいているような気がする…なぜだ。奴は何を目指している?ノクトは、右手の激痛に顔をしかめながら、次の一手を考えていた。


あんなの相手に、どうにもできない…一度は退却して…


その時、この真っ暗なエレベータホールで、薄暗く光るものがあるのに気がついた。はっとして、ノクトは、首に下げいたチェーンを引っ張り出した。ノクトの防弾チョッキの下から…ほのかに光る白い石が現れる。ノクトは、途端に、不思議な感覚を思い出していた。


…なんだ、これ…


ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお.!!!!!


急な揺れが来て、石に気を取られていたノクトは大きく体制を崩した。大きく左右に建物が揺れる…辛うじて壁に張り付いていた梯子が、ばきっとどこかで割れるが聞こえた。そして、梯子は建物から離れるように傾き…やがて崩れ落ちる。ノクトは、崩れ落ちた梯子の破片をつかみながら、そのまま宙に投げ出された。


くそっ… 落下しながら右手でつかんでいた長い金属片を、咄嗟に外へ向けて差し出していた。血に染まった右手が、ほのかに光っているのが見えていた。懐かしいその感触…ノクトは、はっとして右手に念じる。思い出したように、体が反応し、一瞬にして金属片が、開きかかっていたエレベータの入り口あたりに突き刺さり、続いてノクトの体が引きずられるようにその金属片に向かって飛んだ。…暗闇に、しばし青い軌跡が残った。


はあはあはあ… ノクトは息を切らせながら、エレベータの入り口のヘリにしがみついていた。右手は…しっかりと投げつけた金属片をつかんでいた。


シフト…か


胸元の白い石が、徐々に強い光を放つ。


ーノクト?!大丈夫?!


心配するプロンプトの声が聞こえてきた。


ーああ、大丈夫だ。なんとか、下の階についた。今、そっちへ行く


ノクトは、荒い息を吐きながら無線に応える。そして、右手の激痛に耐えながら、なんとか体を引き上げると、エレベータホールから非常階段に向かって走った。非常階段につづく扉が、ずれ落ちているのが見えた。上半分に空間ができて、そこからプロンプトが顔をのぞかせていた。


「ノクト、こっち!」


「ああ!」


プロンプトの手を借りて、ずれ落ちた扉の上を乗り越えた。


「ノクト、怪我したの?!」


握った右手を見て、プロンプトが叫ぶ。


「大丈夫…大したことない」


と言いつつ、ノクトは痛みに顔をゆがめていた。その時、また、咆哮…ぐらぐらと大きく建物が揺れて、ノクトとプロンプトは寄り添うように、非常階段にしがみ付いた。建物の揺れは収まらない…ごごごごご…足元から妙な地響きが聞こえて、ビルの下の方から土ぼこりが沸き立つのが見えた…


まずい、崩れるぞ…


ノクトは咄嗟に、隣にいたプロンプトのわき腹を左手で抱えた。そして、右手で腰に装着していたジャックナイフをつかみ、隣のビルの非常階段めがけて投げつける。突如として、ノクトの体がナイフに引き寄せられるように飛んだ。しっかりと左手に力を入れる…左腕が吹き飛ぶかと言うほどの衝撃を受けた…しかし、歯を食いしばって左腕を引き寄せた。


気がついたときには、二人で激しい息をしながら隣のビルの非常階段の上にいた。その背後で、今しがた二人が立っていたはずのビルが、見る見る崩れていった…


「し、シフト?!」


プロンプトは、苦しそうに息をしながら、叫ぶ。


「ああ…人を抱えて飛んだのは初めてだな…」


ノクトの声も、途切れがちだった。


「うえ…オレ、酔ったかも。それに腹にすごい衝撃…」


「文句言うな…」


隣のビルがけたたましく崩れ落ちて、もうもうと土煙が上がった。ノクトは口を押さえながら手招きして、非常階段を登った。屋上まで上がって見渡せば、やつが今どの辺りにいるか、わかるはずだ…プロンプトも、苦しそうにしながら、ノクトの後を続く。先ほどのビルよりは頑丈そうだ…地響きが続いているがそれほどの振動は感じない。


一気に駆け上って、屋上へ出た。まだ、屋上を取り囲むフェンスが、頑丈に取り残されていた。ノクトは、北の方を振り返る…巨人は明らかに距離を縮めて、その顔がようやくはっきりと見えた。


体と同じ青黒い肌に、大きく裂けた口…目は落ち窪んで、その奥から赤い光が見える…鼻はそぎ落とされているかのように、穴だけが開いていた。耳は…ない。辛うじて、耳の辺りにくぼみが見えるだけだ。


人…といえば、人なのかもしれない。シガイと言われれば、そう見える。そして、魔導兵かと問われれば…確かに、そのうつろに光る赤い目は、それに似ている。


やつが急に、すくっと立ち上がった。ノクトは嫌な予感がした…あいつ、こっちが見えているのか? 巨人からすれば、まるで遠くに止まる2匹のハエのような存在の二人が。しかし、ノクトには、巨人の赤い目が…ノクトを見たような気がしたのだ。


そして、やつが、ノクトたちを正面に見すえながら、大きく息を吸い始めたのがわかった…


まずいっ…


「プロンプト!! こっちだ、急げ!!」


ノクトは叫んで、建物の西側にかけていく。そちらに、数m突き出た給水塔があり、その向こうに…大きな通りを挟んだ向かい側のビルの、高い看板が見えた。ノクトが給水塔によじ登り、プロンプトもそれに続く。そして、わけもわからず上がってきたプロンプトを正面から抱きかかえた。


「ええ?! なに?!」


プロンプトは明らかに動揺を見せたが、ノクトは構わずに、左手で抱きとめるようにしつつ、右手でジャックナイフを投げた。途端に、二人の体はナイフを追いかけて看板めがけて飛んでいった…


と、同時に、耳を貫くような大音量が鳴り響いた… 音と言うのにはあまりも大きすぎる。ぐあんぐあんぐあん…世界の終わりを告げるような音。背中に風圧を感じて、ノクトはもはや魔力ではなく、違う力によって吹き飛ばされようとしているのを感じていた。


耳がやられたか… 一瞬、何も聞こえなくなって、そして目も閉じた。次の瞬間、激しく、看板の板に打ちつけられる感触があったが、看板の方が、そのまま大きく傾いて向こう側に倒れた。がわん、がっしゃん、と、看板の裏側の足組みが激しく破壊される音が聞こえて、我に返った。巨大な看板はその足元から綺麗に倒れて、隣のビルの屋上に引っかかるような形で横倒しになっていた。


「うううっ」


と、苦しそうに、プロンプトがノクトの胸の中で唸ったので、ノクトは慌てて体を起こした。


「おい、大丈夫か?!」


「ひどいっ…オレのこと、盾にした?!」


ぶつくさと文句を言いながら、プロンプトが起き上がったので、ノクトはほっとして、その頭を小突いた。


「ったく、文句言うなっての」


ごおおおおおおおおおおおお… と地響きが起こって、二人はまた、巨人の方を見た。…背後の光景が全く変わっていた。そこだけ、まるで、空間が剥ぎ取られたように、何もなくなっている…残っているのはぽっかりと溝を彫られた地面。巨人は自分の咆哮で築いたその道を、両腕を使って張って進んでくる…地響きの正体はこれか。


「な、なに、これ?!」


「ぼおっとすんな!」


ノクトは倒れた看板の上を走りぬけて、隣のビルを目指した。


あの、得体の知れない攻撃は、どうやら続けてはできないようだな…ノクトは、ビルの頭によじ登りながら冷静に考えていた…何かが、おかしい…あいつは、闇雲に進んでいるんじゃない。明らかに、オレらを追いかけている。いや…


ノクトは、ビルの端まで来て、立ち止まると、恋人でも待ち構えるように両腕を広げた。


「ほら、来いよ」


「うわっ、なんか照れる」


「ばあか」


ノクトは笑いながら、プロンプトを抱きとめると、再び、ナイフをその隣の建物へと投げつける…電波塔のある高いビルの細い、非常階段に降り立ち、再び屋上を目指す。


ごおおおおお…


咆哮と地響きが、背後のビルの向こうから聞こえてきた。少しだけ距離が稼げたか…隣でプロンプトもホッと息をついているのが聞こえた。


「ノクト、魔力戻ったんだね?」


「さあな…いつまで使えるかわからん」


「これからどうする? ヘリが西の方で待機しているんだっけ…」


「そうだな…」


ノクトは考え込むようにして、辺りを見渡した。西の方に目を向けると…このビルから少し行けば、郊外へ向けて走る大きな道路に出られそうだ。


「…ここ降りて、あの道路を行けば西へでられそうだな」


「そうだね」


ごおおおお… 唸る声がまた、少しずつ、近づいてくるのが聞こえた。


「あいつ…追いかけてきてる」


「ああ…」


ノクトは、ちょっと考え込むように黙った。あいつが追いかけているのは…オレだ。すぐに、プロンプトはノクトの様子に気がついた。


「ちょっと!」


プロンプトは怒った声を出して、ノクトの肩を強く叩く。ノクトは、はっとして顔を上げた。


「許さないよ…」


プロンプトの目が座っている。


「なんだよ、急に…」


「ひとりでなんとかしようと考えてるでしょ。ふざけないでよ」


ノクトは誤魔化そうとして、笑おうと口角を上げたのだが、その顔は引きつってしまった。お見通しか…観念したように、俯いて、首を振る。


「あいつは…どうやらオレに用があるみたいだ」


「ノクトを追いかけてきているんだね」


プロンプトは、怖い顔のまま頷く。


「二人で切り抜ければいい…でしょ?」


ごおおおおお… やつの地鳴りと唸り声が近づいてくる。ビルを挟んで、その姿は見えないはずなのに。


ノクトは、迷いを打ち消すようにもう一度頭を振った。そして、ようやく顔を上げて、プロンプトに笑いかけた。


「そうだな…お前のいう通りだ」


プロンプトも、微笑み返した。


「で、どうするかな…このまま西へ向かっても、追いつかれるだろうな」


「ひたすらシフトで移動して、引き離せないかな」


うーん… とノクトは唸りながら、西に向かって伸びる道路を眺めた。小さな建物が続いている…しかし、人を抱えながらシフトをし続けるのも、どこまで体力が持つか。


「ノクト、あれ、なんだろう?!」


プロンプトが驚いた声で、遠くの方を指差した。プロンプトが指差すはるか先に…細い光が立ち上っているのが見えた。


なんだ?


ノクトも目を凝らす。天を貫くように地上から立ち上る光の柱。それが、徐々に太く、強い光を放っている。呼応するように、ノクトの胸元の石の光も、強くなった。


「ノクト!」


プロンプトは驚いて、ノクトを見た。


「ああ…この石は、実は…」


「いや、そうじゃない。ノクトも光ってるよ! ほら…その目も…赤く...六神を召還するときみたいに」


え… とノクトは驚いて、思わず目元に手を当てた。その手が、確かに光を放っていた。それと同時に、自分の体に、強い魔力が集まってきているのを感じた。この感覚…確かに、あの時と似ている。


ノクトははっとして、さらに強く立ち上る光の柱を見た。


「ノクト、あっちにも!」


プロンプトが周囲を指差してみる。遠くに目をやると、他にも数箇所、遠くの方から光が立ち上るのが見えた。しかし、はじめに見つけたものに比べると細い光だ。


はじめに見えた光の柱は、今は煌々と、その光が地上から天へ向かって流れているのがわかった。ちょうど、魔高炉とは魔逆の方向…北東、その先にあるのは。


「あれって、もしかして…チパシかな?」


プロンプトが不思議そうに呟く。


ごおおおおおおおおおおおおおお!!!!!


突如として大きな音がして、すぐ背後のビルから土煙が立ち上る。建物を破壊しながら、巨人がノクトたちの方へ向かってくるのが見えた...


「ノクト、どうする?!」


ノクトは、自分の体に問う…体は何をすべきか知っているようだった。しかし…一瞬のためらいがあって目を伏せる。テヨの警告が一瞬頭をよぎった。それを吹き飛ばすように、やつの咆哮が怒り、その息が二人にもかかった。

ノクトは決意して、顔を上げた。


「プロンプト、時間を稼げるか?! どっかから攻撃して、少しの間、やつの気を引いてくれ!」


「わかった!」


プロンプトはすぐに飛び出して、ビルの屋根つたいに進むと、隣のビルにものすごい跳躍をして見せて、巨人の真横に着いた。そして、注意を引くように発砲する。巨人は、さほどの痛手でもなさそうだが、うっとうしそうに、プロンプトの方へゆっくりと体を向けた。


今のうちに… ノクトは、自分もより高いところを目指して、隣のビルへとシフトする。円筒型のそのビルは、この辺りの建物の中では飛びぬけて高い…ようやく巨人を見下ろせる高さとなった。ノクトは器用にシフトを繰り返しながらその頂上を目指した。


ぐおおおおおおおおおおおお…


怒り狂った様子の巨人が、腕を振り上げて、プロンプトのいるビルに振り下ろそうとしているのが見えた。ノクトの背中がヒヤッとする。しかしプロンプトは、危なげない動きで、すんでのところで、隣のビルへと飛び移る。


ノクトはビルの頂上の、巨人が見える正面に立ち、右腕を天へと伸ばす…すべきことは体が知っていた。天はノクトに呼応するように、急に様相を変えた…一点の曇りも無く強烈な日差しを降り注いでいた空に、突然雲が沸き立つ。その雲は、ノクトに吸い寄せられるように、その頭上に渦巻いて集まってきた。ノクトの体がますます光った。強烈なまでに光り、光に耐えかねるのか、その皮膚に亀裂が走る。


力を使えば命を落とす…テヨの言葉がさっと頭を掠める。


悪いな…せっかく警告してくれたのに。


ノクトはふっと笑って、それからまた、覚悟の目を天に向ける。ぐあああああああ… と、やつの咆哮に混じって、ごろごろごろごろ…空が怪しげな音を立てる。異変に気がついたのか、巨人はその赤い目をしっかりとノクトの方へ向けて、今は、ゆっくりと上半身を引きずりながらこちらへ向かってきていた。ここからではわからないが…足がないのだろうか。体を引きずるその腕も、左右で明らかに太さや、関節の長さが異なる…全体としていびつなのだ。発達不良を起こした奇形児のように。


辺りはみるみるうちに、暗くなってきた。空の上で、ごろごろと雷鳴がとどろいた。


巨人はノクトの正面に迫った。二人は、今はしっかりとお互いの赤く光る目をにらみ合っている。


巨人はゆっくりと上体を起こす…その足もとに、やはり、いびつな2本の膝が見える…異様に小さい。やつは、ノクトを見据えながら、大きく息を吸い始めた…その胸がみるみる膨らんでいく…


正面からやりあうか…望むところだ


ノクトは、右手に充満する魔力を感じながら、その目を見据えた。巨人がいよいいよその口を閉じて、そして、一瞬の間。


「--------行け!!!!!!!」


ノクトは、かっと目を見開いて、まるで…神に命じるようにその右手を、巨人へと向けた。


すどん!!!


激しい雷鳴がとどろき、閃光が走る。一瞬、世界が真っ暗な闇になったかと思うと、次の瞬間は、まばゆい光に包まれ、何も見えなくなった。


ぎゃああああああああああああああああああああああ


空を劈くような叫び声が響いた…その声は、まるで赤子のようだった。苦しそうに天に向かって咆哮し、胸に吸い込んだ力は、空にうずまいていた雲を割いた。


どどん! と激しい地響きが続く…巨人が頭から倒れこみ…土煙が上がる。


やったか… 


しかし、巨人は苦しそうに呻きながら、まだ、体の動きを止めていない…

くそ、まだか… しかし、怯んでいる暇はない。魔力は…まだ、残っている。


ープロンプト!! 一気に、畳み掛けるぞ!!


ー了解!!


ノクトは、巨人の脳天を目指してナイフを投げつける。ノクトの体が、青い軌跡を描きながら、宙を飛ぶ…次の瞬間、巨人のその、分厚い皮膚の上に立っていた。と、当時に、プロンプトが、近くのビルから巨人の背中に飛び移るのが見えた。ノクトはすかさず、その脳天に向けて、銃を撃ちはなった。プロンプトの放つ発砲音も聞こえる。


ごおおおおおおおおおお!!!


巨人は苦しそうにうめき声を上げて、二人を振り払おうと手を振り上げた。その手は…かろうじて5本の指はあるものの、長さがまちまちで、関節も不ぞろいだ。指を曲げて二人をつかもうとするが…手の動きはぎこちなく、使い慣れていない赤子のようでもある。


効いてはいるみたいだが… ノクトは、暴れるその背中に、ナイフを突き立ててしがみ付きながら、次の手を考える。銃は弾を使い果たした… 残っているのは突き立てたこのジャックナイフだけ… もう一度、あの力が使えれば…と空を見上げる。雲はまだ渦巻いているが…力を溜めるにはかなりの時間がかかりそうだ。


うわあわあ… プロンプトが振り落とされそうになって、ノクトは慌ててシフトでその巨大な背中を移動する…すんでのところで、親友の腕をつかんだ。


「しっかりしろ!」


「さ、さんきゅー!」


しかし、プロンプトも弾切れのようだ…片手剣を腰から引き抜く。


「もう、頭を狙うしかねぇな…」


プロンプトも頷いた。しかし、やつは警戒するようにしきりに、頭や首の辺りを手でまさぐっていた。上体を起こさないところを見ると…先ほどの雷のダメージはかなりあったようだ。体を傾けたまま、苦しそうに蠢ている...


あと、少しなんだが…


「ノクト!!!あれ!!!」


プロンプトが、巨人の頭の前方を指差した。懐かしい魔導エンジンの音が聞こえて…猛スピードで向かってくる揚陸艇の姿が目に入った。


どおおおおんん!! 


揚陸艇の前方から煙があがり、砲撃音が鳴り響く。巨人の胸元に着弾…その衝撃で、巨大な背中が激しく揺れた。


ぐおおおおおおおお!!!!


苦しそうに声が上がって、巨人は前の方へ倒れこもうとしていた。揚陸艇は、スピードを保ったまま、ノクトたちの頭上に差し掛かった。


「ノクティスさまああああああああああーーーーーーーーーーーー!!!!」


大きな声がして、二人の人影が揚陸艇から飛び降りてくるのが見えた。巨人の頭上をめがけて落下していく。


「タルコット?!」


プロンプトの裏返った声が響く…タルコットは、アラネアよろしく、竜騎士の巨大な槍を手にしていた…迷いなく、そのまま弾丸のように飛び込んで、巨人の脳天に槍を突き立てる。


鈍い音がして、槍は、脳天に深く突き刺さった。


ぎゃああああああああああああ!!!!


再び劈くような声が響き、そして背中が大きく揺れる。タルコットのすぐ後ろに、降り立ったキリクは、すかさず、巨人の首にまきつけっれた巨大な鎖を、両腕で抱えてひっぱりあげようとしていた… 


ノクトは、キリクの体が自分と同じように煌々と輝いているのに気がついた。それだけではない…キリクの体は不自然に膨張して…今は、怪物のように膨らんだ太い腕で、巨大な鎖を締め上げている。目は…やはり、真っ赤に燃えていた。


「キリクーーーーー!!ばか、やめろ!!!」


プロンプトが慌てた様子で叫んでいるのが聞こえた。キリクは不適に笑いながら、ぼこぼこに膨れ上がった両腕で、鎖を締め上げる… 脳天に槍を指したまま、やつがまた、苦しそうに呻いた。


「ノクティス様!!!!」


タルコットがノクトの方を振り向いて、腕を振り上げたかと思うと、背負っていたノクトの剣を鞘ごと投げてよこした。苦痛に激しく身を揺らす巨人の背中…ノクトは、ジャックナイフを先方に投げつけてシフトし、その剣を受け取る。


そして、剣を鞘から抜き取ると、タルコットの突き立てた槍の傍に剣を投げつける…タルコットがノクトを避けるように脇に飛びのが見えた。交差するように…ノクトは剣に飛び込む。ノクトは着地と同時にレギスの剣を引き抜き、やつの頭上を駆け上がる。苦しそうに光る赤い目と目の間に立ち…そして、その眉間に、高く振り上げた剣を突き下ろした…


赤い目は…ノクトを見て真ん中により…そして…


あああ… 


まるでため息をつくような弱々しい声を出した。巨体が、ゆっくりと倒れていった・


起こして、悪かったな… ノクトは剣にしがみ付きながら、その目に、最後の眼差しを送る。落ち窪んだ目の奥から赤い光が消え…そして、瞼が閉じられた。


その時、空が急に明るくなったかと思うと…ノクトの体から、力が消えていくのを感じた。やばい…魔力も終わりか。巨人の体は、今は、力なく崩れようとして、その背中に、一同が必死にしがみ付いているのが見えた。


「おい!! 落ちるなよっ…!!!」


ノクトは叫びながら、自分も剣にしがみ付いた。しかし、巨人はがっくりとその額を下にして、地面に倒れようとしている。やべえ…最後の最後で、潰されるとかごめんだぞ… ノクトは、冷や汗を垂らしながら、頭の上に這い登ろうと手を伸ばす…その手を、タルコットがつかんだ。タルコットは左手で槍をつかみながら、右手でノクトの体を引き上げた。


どどどどおおおおおん…


大きな地響きとともに、もうもうと立ち上る土煙…しばらく何も見えないなかで、咳き込む音だけが聞こえる…


「おい、大丈夫か…」


げほげほと言いながら、ノクトが声を駆ける。ごほごほっ…すぐそばでタルコットが咳き込んでいるのが聞こえた。。


「だ、だいじょうぶ…」


辛うじて、遠くの方で、プロンプトの声も聞こえる。やがて土煙が風に流されていき、プロンプトの傍に、キリクがぐったりと仰向けに倒れているのが見えた。プロンプトが庇うようにその体をしっかりと押さえていた。


「おい、大丈夫か…」


ノクトは慌てて、二人の傍に近寄った。キリクの体は、今は元の大きさに縮んでいたが、服が破れて露になった全身に、ひび割れたような酷い傷が見えた。今は痛々しいその胸に、辛うじて、女性らしいふくらみを認め、ノクトは遠慮がちに目をそらした。


「バカ、キリク!!! 力使うなって言われたでしょ?!」


プロンプトがかなきり声を上げると、キリクはいつものように笑って


「…だって、体が反応しちゃってさぁ。ごめんね…」


しかし、その声には力がない。プロンプトは泣きそうな目をしながら、自分の上着を脱ぐと、露になったキリクの上体にかけてやった。


ーこちらタルコット。ターゲットは沈黙。キリクが負傷しました…すぐに救援お願いします


タルコットがすかさず無線で呼びかけている…ノクトは、ほっとため息をついて、魔導エンジンの音が再び近づいてくるのを聞いた。






























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