Chapter 22.10 -ボンガロ奪還-

最後の夕日が差し込む中、慌しく揚陸艇は上昇して行った。その様子を、ノクトは地上から見上げて見送る。来た時よりも急上昇じゃなかろうか…間もなく、空の上で星のように白い点になって見える揚陸低が、上空停止をして、東のファグナを目指して彗星のように飛び去るのを見る。


ハルマ…あっちは頼んだぞ


ノクトの気持ちは、今は静かで、とげとげしさもない。

わかりきったことだったが、午後に入って、つぎつぎと、ガラール市の惨状と生存者なしの報告が入り、ハルマはやはり胸を痛めているように見えた。しかし、領主としてすべての地域の報告を聞き終えて、ハルマは無線に向かって呼びかけた。


ーガラールの調査、ご苦労だった。計画にしたがいすべての地域の調査が完了した。以上にて、ガラールに生存者なし。ユスパウ家の相続人もすべて死亡したものとみなし、ここに、第28代、ユスパウ領主として、正式な統治を宣言する


厳かなその宣言は、聴いている者がわずか20名弱の隊員だけだったが…ノクトには、まるで、この、静かに眠るガラールの廃墟と、そして、荒野の続くユスパウ領全土が、新しい領主の声に耳を傾けているように思えた。


担ぎ出されただけの阿呆か…


ノクトは、昼間トルドーが呟いた言葉を思い出して、しみじみとなる。阿呆だ…それを知りながら、オレらは、それぞれに何かを引きうけて立っている…ただ、それだけだ。


ノクトの脳裏に、突如として、タルコットと交わした2国間協議の日程が思い出された。あと、30日は残されていたっけ? こっちが片付いて…まだ間に合うはずだ。


まずは、生きて帰ることだな…ノクトは笑う。


「よし、準備できたな。では、これより潜入部隊出発だ。遅れるな…夜更け前にボンガロに接近…深夜には潜入する。遅れたものはその場においていく。体力の限界を感じたものは勝手に離脱して各自、チパシまで帰還しろ」


トルドーは急に、緊張感ある指導者の顔をして、威圧的に部隊に指令を発する。ノクトは、他の隊員に混じって、素直に応じた。


選ばれた12名の潜入部隊は精鋭のようだ。彼らの動きにそつが無いので、ノクトは気後れするほどだった。おいおい… 実戦経験はあるとはいえ、特殊部隊の訓練までは受けていない。これで、シフトでも使えれば、まだカバーできそうだが…念じてみても、胸の石は、ぴくりとも反応しなかった。確かに気休めのお守りだったな…ノクトは苦笑する。


ボンガロの市街地に近づいた頃、日はとうに沈んで、真っ暗の廃墟にぽつぽつと明かりが灯るのが見えた。要塞の外へ出て居住をはじめた市民たちが、火をおこしているようだった。導力灯の明かりが見えるのは、ゴルゴドス要塞だけだ。要塞は、そこだけ、場違いのように煌々と明かりを点して、夜空を明るく染めている。町を見下ろす高台から、一行は要塞の様子を伺っている。トルドーは、一同を低い姿勢で待機させながら、しきりに腕時計の時刻を確認する…何かを待っているようだった。しばらくして…要塞の一画の照明が静かに落ちるのが見えた。…内通者が、突入経路を確保したようだった。


よし… トルドーは小さく囁いて、暗視ゴーグルをした先導員に合図を送る。ノクトも、はじめて身に着ける暗視ゴーグルの位置を調整して、その背中に続いた。

要塞の裏手…光の途絶えた一画…その中心に、肉眼ではわからないほの暗い赤の光が灯っている。それが一定のリズムで点滅を繰り返していた。先導する隊員にはメッセージがわかるようだ…手を振って、左右に分かれるように支持をする。作戦では、2箇所から潜入し、二人一組になりながら、昨日一日で叩き込まれた48人のヴァーサタイル部隊の人員を探し出し…サイレント式の小銃で目立たないようにひとりずつ排除することになっていた。ノクトは、ゴーグルとマスクで顔を隠したブラントンと連れ立って、左手のグループに混じり、そこだけ照明が消えている塀の1画に、垂らされているロープをよじ登っていく。上った順から足音を立てずに、要塞の本体となるタワーを目指す…要塞の中心にタワーが立っているのは、ファグナと同じだ。当時の帝国軍要塞の一般的な構造らしい。しかし、このゴルゴドスは、ファグナに比べれば新しい要塞で、概観を見ただけでもずっと近代的に感じる。その分、制御が中央コンピューターに頼っていて、制圧がしやすいんだ…トルドーは作戦説明時に、ニヤッと笑っていた。


ノクトたちのグループは、3階部分の一画、一つの窓にほの暗い赤い点滅が見えているところを目指して進んでいた。その脇に、ちょうど、通気用の配管が通っており、先導する隊員が器用に配管を這い登りながら、後続のためにロープを設置する。点滅した箇所の窓は開かれており、内通者が合図の手を振っていた。


内通者がいる分、順調だな… ここまで要塞は静かで、潜入に気付かれた気配は無い。ノクトは感心して、自分もロープによじ登る。自分の腕だけで体重を持ち上げるのは、よほどの苦労だ…特殊訓練も受けていないノクトは、ひどく息を切らせながら登るしかなかった。後に続いていたブラントンが、無言でにやけているのがわかった。


建物の内部に入って、二人一組になって分散する…およそ、要人であるヴァーサタイル部隊の待機場所は11階以上の各階となっていて、最上部にその多くが集っているという情報だった。25階最上部の制圧は、銃撃戦と予測されていたので…その前に、各階の制圧を静かにすすめる手はずとなっていた。最上部突入の合図は、トルドー率いる数名が、20階にある中央管制室を制圧し、通信網を掌握して、全館にトルドー少将の帰還連絡と指揮権の掌握を宣言することにあった。同時に、内通していた各小隊の隊長が、少将への支持表明と、反対勢力への投降をアナウンスする…うまくすればだ。これで8割の勢力は無血状態で掌握できた。


そこまでうまくいくのだろうか… ノクトは半信半疑でありながら、また、祈る気持ちも起こる。要塞の掌握が速やかに完了すれば、一般市民への巻き添えは皆無と期待できた。


二人は、他のペアが非常階段を折れて11階の廊下をそのまま進んで行ったのを見届けたので、ノクトたちは12階を目指した。12階は…上級兵の休憩室があったはずだ。あらかじめ、ターゲットの滞在可能性の高い位置はマッピングされている。室内に入り、照明が灯ったので、二人は暗視ゴーグルを廊下の隅に隠して、接近戦に備えた。ブラントンが、無言で天井の方を示した。天井には照明を支える支柱が通っており、あそこを伝いながら狙えば、気付かれずに近づけそうだった。ノクトは、壁際の配水管を伝って天井にあがり、支柱の上を進む。ブラントンは分かれて、廊下の物影に器用に身を隠しながら、奥へと進む。二人は絶妙に歩調を合わせながら廊下を進んだ…その先の扉が開く音がして、緊張が走る。二人は、じっと息を潜めてまつ…先の廊下から、連れ立ってあるく二人連れの兵の姿が現れた…片方の男の右頬に、目立つ傷、そして、その隣の口もどが、特徴的な前歯の抜け落ちた跡…二人とも、ターゲットのプロファイルにあった顔だ。


いよいよか… ノクトの心臓が波打った。今ごろになって、暗殺に躊躇う何て...そんな場合ではない。気がつかれたら、他のチームを危険にさらすことになる。ノクトは、小銃の狙いを定めて、確実にしとめられる距離…ノクトの真下まで歩いてくるのを待つ…


ノクトが引き金を引く前に、びゅっ びゅっ と鈍い音がして、二人の男は、ざっとその場に崩れ落ちた。廊下の端に隠れていたブラントンが、ノクトより先に、狙いを定めたようだった。ノクトは…内心ホッとしながら…しかし、自分が引き金を引くのと、彼が引くのとに、何の違いがあるだろうかと、自分を戒める。


ブラントンが、廊下の下から合図するので、ノクトは天井の支柱から、そっと下へ降り立った。静かに死んだ二人の男を、騒ぎにならないよう、目立たぬ場所に隠さねばならなかった。ブラントンは、すぐ脇に倉庫を見つけて、ノクトに合図すると、二人で一つずつの遺体を運び入れ、なるべく目立たないよう、その前に積荷を重ねて隠した。


ーB12、2名排除


ブラントンが、短く、無線に呼びかける。特殊部隊用の無線は、ぱっと見、腕時計としか思えない小型の物だ。傍受の危険があったため、一度の呼びかけは2秒までと説明されていた。もちろん、名前の応答はなしだ。


ーC11 1名排除


つぎつぎと短い連絡が入り、作戦は順調に進行しているようだった。人が死んでるって報告だよな…ノクトは、淡々と受け止める自分を感じる。


ブラントンが、次へ進むとあごで合図をするので、ノクトは再び廊下へ出た。先ほど、二人が出てきた仮眠室に、他にも人がいるかもしれない…廊下の先を慎重に進んで、二人で扉の両脇に張り付く。ブラントンが、そっと、そのセンサー式の自動扉を開けさせる…大きないびきが聞こえて、2段ベッドにうつぶせになって男が寝ているのが見えた。ノクトは静かに中に進入し、銃を寝ている男に向ける…そして


どん! ノクトは、銃の柄で思わず男の後頭部を殴った。ぐえっ…と短い音がして、男が気絶するのがわかった。両腕はがっくりとたれ…しかし呼吸は聞こえた。ブラントンが、沈黙してその様子を見ていた。ノクトは、すかさず気絶した男の両腕を後ろに組ませて、ロープで縛り上げる。シーツを割くと、それを男の口にかませるように巻きつけた。両足も、同様に縛り上げ、そして目立たないようにベッドの下の空間に寝かせる。


ブラントンの目は、静かにノクトのすることを見ていたが、特に抗議の様子は見せなかった。淡々と次のターゲットへ向かうよう合図をして、二人で慎重に廊下を出た。円筒側のタワーは、基本的に外周1周の長い湾曲した廊下と、十字に円筒を突き抜ける廊下で、1フロアが4つの区画に分かれている。その、中心をつらぬく廊下に差し掛かって、二人はまた、緊張を覚えた。廊下の曲がった先に…人の気配がしたのだ。大胆にも、ブラントンが、さっと、外周にそって廊下の向こう側にすべりこんだ。二人で、廊下を挟み合うような形になって、誰かが歩いてくるのを待ち受けた…ブラントンは、廊下の先に銃を構えていたが…引き金を引くより早く、ノクトの両手がターゲットを捉えて、口を押さえつつ、さっと引き倒し、また、後頭部を打つ… う…という声がして男が気絶するのがわかった。首の後ろにあった蛇の刺青を見る…これもヴァーサタイルの部隊の一人として、プロファイルに特定されていた男だ。


二人は迷わず先ほどの仮眠室まで男を担いでいって、そして、先ほどと同様に縛り上げてベッドの下に放り込む…2段ベッドが二つのこの部屋では、これ以上、隠すのは難しそうだった。あとは、布団に入れて毛布でもかけておくか…


ーC11完了 3名排除


ーD13完了 4名排除


ーE14完了 2名排除


もう14階まで排除が進んでいると聞いて、二人は焦る。20階まで到達する頃には、全員が最上部へ向かわなければならない。しかしこの12階は仮眠室の関係で、もとより、ターゲットの数は多いと踏んでいた。ブラントンは、ノクトを促して先ほどの廊下の分かれ道まで戻ると、今度は反対側へ抜ける廊下へ入る…慎重に左右に気を配りながら進む。仮眠室は、対角の区画にもう一つあったはずだ。廊下は静かで人の気配が無かった…ちょうど対角まで抜けて、外周の廊下まで抜け、もう一つの仮眠室の扉に近づく…先ほどと同じく、扉の両脇に二人が立ち、そして今度はノクトが、その自動扉を開いた…慎重に様子を伺うが、人の気配が無い。中を覗くと、男がひとり倒れていた。すでに、頭を打ち抜かれていた。


ノクトは唖然としたが、ブラントンは何かを察して、元来た廊下を戻る。一つ目の仮眠室に差し掛かると扉が開けられていた…ノクトが思わず中へ入る。潜入部隊の黒い制服を来た男が、ベッド下を覗き込むようにしゃがみこんでいたのを、ノクトたちに気がついて立ち上がった。黒いマスクで目しかわからないが、ワグのようだ。部屋の中には硝煙の臭いが立ち込めていた…


あ… とノクトは立ち尽くした。


「やはり…ノクトさんでしたか。すみません、ひとり目を覚ましそうでしたので...排除しました」


ワグはすまなそうに言った。ノクトは目を伏せ…かろうじて、首を振った。


ーB12完了、5名排除


すかさず、ノクトの背後でブラントンが無線報告しているのが聞こえる。


「次に行きましょう…ワグ、お前はA班のはずだが」


「完了連絡が遅かったので…少将に言われてこちらの班をサポートに。その必要はなかったようですね」


「では、A班に戻れ」


「了解です」


非常階段まで一緒に戻り、ワグはひとり先を急いで上の階まで進んだ。


ーC15完了 2名排除


ーD16完了 3名排除


次々と、フロア制圧の連絡が入る。ブラントンは急ぎで、18階まですすみ、その廊下に入った。慎重に廊下を進もうとしたときー


ーA20突入する


という短い連絡が入った。間もなく…頭上で派手な銃撃の音が聞こえてきた。そして、けたたましく鳴り響く、サイレン。


はじまったか… ノクトは焦ったが、ブラントンは冷静に頷き、フロアの先に目を見据える…ばたばたと慌てた足音が、聞こえた。物陰に隠れながら見ていると、その先廊下を、複数がエレベータの方へかけていくのが見えた。ブラントンは手に合図をして、銃をマシンガン持ち替えていた。ノクトも銃を持ちかけて、ブラントンの少し後に続いて廊下を進む…そのとき、二人の男が非常階段を目指そうとこちらの廊下に侵入してきた。


ダダダダダ...


乾いた銃声が連続して響き、はじめの二人が倒れる。ブラントンの銃から煙が立っているのが見えた。途端に、複数人が廊下の影から応戦してくるのが見えた。ノクトは、物陰に身を寄せながら狙いを定める…


ダダダダダ…


廊下の影に立っていた男が、呻いて倒れるのが見えた。敵が怯んだのを見て、ブラントンがさらに先へ出たのが見えた。しかし、廊下の先に幾人かがまた応援に駆けつけているのが見える。ノクトは、ブラントンを援護すべく激しく銃を打ち込みながら自分も前へ出た。


ダダダダダ…


また、数人が倒れたようだ…しかし、応戦も激しくなってきた。


ーE18完了 


ーA20 応援求む!


ーC20へ到着


あちこちで銃撃戦の音を響かせながら無線が鳴り響いていた。


苦戦しているか… ノクトが唇を噛んだとき、館内放送からトルドーの声が聞こえてきた。


ーー私は、トルドー少将だ。ゴルゴドスの指揮権を奪還した。全軍に告ぐ、ヴィクトワール・ド・ノアイユ大尉およびヴァルサタール補佐官を反逆罪で拘束せよ。繰り返す…


よし! ノクトはブラントンを見た。ノクトより先で必死に応戦する姿があったが、館内放送で明らかに敵の勢いがそがれていた。ブラントンもノクトを見て、頷いた。


ーーこちら第3及び第5中隊、オルラルド中尉。第3小隊はこれより、トルドー少将指揮下に入る。他小隊は投降をせよ。


ーーこちら第6中隊、ミランダ。これより、少将指揮下に入ります。隊員は指揮に従い、他の部隊は投降を求めます。


ーー第1中隊も指揮に入った。ガンツ少尉だ。第10、第15中隊、投降完了。他の部隊の投降を願う


放送は予定通り、各部隊の支持表明が続いた。よし… ノクトは一気に攻勢に出ようと前へ出る…はやく18階を制圧して、上昇部へ向かわなければ。


その時、ノクトと一緒に前へ出ようとしたブラントンが、肩に銃撃を受けてよろめくのが見えた。


「ブラントン!!」


銃撃の音の中でノクトは叫び、発砲を続けながら庇うようにブラントンの傍に寄った。ブラントンは片膝をつきつつ、まだ、冷静な目で銃撃を続けていた。廊下の先で次々と敵兵が倒れていくのが見えた…館内放送の効果か、数人が離脱して、後方に退避していく気配もあった。


やがて銃撃が収まり、ノクトは、よろめくブラントンを抱えて、すぐ脇の倉庫の扉に入る。


「…ったく、ヘマやりやがって」


「すみません」


ブラントンが笑いながらマスクをずらす…呼吸が苦しいのか。


「肩だけです。銃弾は貫通しています」


ブラントンは冷静に告げて、積荷に持たれかかるように座った。


「顔色が悪いぞ」


「大丈夫です。陛下は上階へ進んでください」


「止血だけしておく」


ノクトは、内ポケットに収められていた止血用のハンカチを取り出して、ブラントンの血のにじみ出ていた左肩をきつく縛った。縛るとき、本人は少しだけ苦痛に顔をゆがませた。


「ありがとうございます…すみませんが、先を急いで下さい。私はここで」


「ああ、大人しくしてろ」


ノクトは踵を返して廊下を出た。出際、無線に呼びかける。


ーB18…あと数名と思うが、応援求む。ひとり負傷


先ほど銃撃していた先に進む…廊下に弾丸のあと…そして、倒れている死体をまたぎながら、廊下の突き当たりに出た。他の者は…退避したか。人の気配がない。廊下へさらに進む…ぱんっ !! と発砲があって慌てて身を引いた。


そしてまた銃撃が聞こえてきた。廊下の先…大きなコンテナを盾にして、二人、立て込んでいる…ノクトは、廊下の壁のわずかな凹みに身を隠して応戦する。

分が悪いな… 手に汗を掻いた。


ううっ と突然声がして、コンテナの先にいた二人が倒れるのが見えた…コンテナの後ろから駆けつけたのは他の班のメンバーのようだ。


「助かる!こっち半分は制圧済みだ」


ノクトが声を駆けると、手を振り、すぐに無線で


ーE18 制圧完了、最上部へ向かう!


E班というとキイスだったかな… 確認をする間もなく、E班の二人は最上部へ向けて走り抜けていった。


ーC,D最上階突入!


ー地上班3G、外部制圧完了! これより最上部へ!


無線が激しい銃撃の音を伝えている。すっかり出遅れちまったな…ノクトは、焦りながら


ーB18 これより最上部へ向かう。ブラントンは退避中。おい、ブラントン、このまま上へ行くぞ


と無線に呼びかけた。しかし、ブラントンから応答が入らない。ノクトは、不思議に思って来た道を戻り始める…


ーおい、ブラントン!応答しろ


ノクトは、慌てて廊下を走り、先ほどの激しい銃撃戦の跡を通り、ブラントンを担ぎ込んだ倉庫へ飛び込む。先ほどと同じく積荷に背を持たれたままブラントンが座っていた…しかし、入ってきたノクトに反応をしない。


「ブラントン?!」


ノクトは慌てて駆け寄った…その顔は、目を見開いたまま、静かに微笑んで、動かなかった…


まさか… 肩の負傷だけだったはず!! 


その時、彼の右手が庇うように下腹部を押さえているのが見えた。ノクトは、そっとその手を動かしてみた…手の下から、腹に銃弾を受けて血がにじんでいるのが見えた。


そんな…


ノクトは、悲しみと言うより、恐怖と言うより…ただ、愕然として、動かなくなった男の体を見つめていた。ほんの数分前…15分はたっていないはずだ。言葉を交わしたばかりの…


ーおいB班、応答しろ


無線からトルドーの声が響いている。


ーおいB班。ノクティス!応答しろ!


ノクトは震えながら左腕を口元へ近づけて、無線に呼びかける…


ーB18… ノクトだ…ブラントン少尉が死亡した


「ノクティス!」


間をおかずに、声がして振り向く。トルドーが、ため息をついてそこに立っていた。放心するノクトの傍によって、ブラントンの遺体を見る。その間も、無線は頻繁に戦況を伝えている…最上階は激しい応戦にあっているようだった。


「…穏やかな顔をしているな」


「家族が…いるんだろ…人質になっているって聞いたが…」


ノクトの声は震えていた。トルドーはため息をついて、首を振る。


「こいつがそう言ったか? そのほうが、人質として価値があがるって思ったんだろうな…この指輪は死んだ婚約者のものだ。10年前の混乱のとき、助けられなくてな…見ろ。あっちに行くのがよほど嬉しかったように見える…迎えが来たんだろう」


そういわれてみると、ブラントンの目は、目の前の誰かに微笑みかけているように見えた。トルドーは、そっとそのまぶたを閉じてやる。


「ここにいたいならいろ…まだ、戦闘中だ。私は戻る」


さっと、トルドーが部屋を出たのを、ノクトも慌てて追いかける。そうだ、まだ終わってない…


「最上部までは制圧完了だ…あそこが粘ってる」


非常階段を慌しく登る…いくつかの階に、部隊のメンバーが警戒した様子で立っている。トルドーとノクトが通り過ぎると、軽く会釈をして返した。


23階ほどまであがってきたところだろうか…


ーこちら、プロンプト!!! 屋上突入完了!! ターゲット逃走した! 揚陸艇1機浮上!!


銃撃戦を背後に、激しく叫ぶ声が聞こえてきた。


ープロンプト! トルドーだ! 詳しく報告しろ!


ーだから揚陸艇で離陸したって!! 応戦してるけど、届かない! 首謀者2名乗ってる! 追いかけるものは何かないの?!


プロンプトの声が、非難がましく応えた。


ーこちらトルドー…地上部第10小隊、ヘリポートは掌握したか?


ー第10小隊、マーカス。ヘリポート掌握しています。離陸準備に10分ください


ープロンプト! 揚陸艇はどっちへ行った? 方向を目視で追え!


ー帝都だよ、帝都!


プロンプトは迷いなく断言した。


ー帝都方面へ逃走中!


トルドーは、ノクトの顔を見た。ノクトは頷く。


ープロンプト、ヘリポートへ10分以内に急行。ノクトと合流してヘリに乗り込め。第10小隊、残り要員選んで待機させろ


ー了解!!

ー了解!!


2重に応答があり、無線を切る。


「ヘリポートはタワー南側だ。急げ!」


非常階段を駆け下り始めたノクトの背中に、トルドーの怒鳴る声が聞こえた。














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