Chapter 22.9 -出陣-

ノクトは、目をつぶりながら、ぐんぐんと上昇していく浮上感を味わっていた。

遠くの方で、高度を読み上げる操縦士の声が響く。


ー高度500、1000、1500…


なれない機関銃を両手に抱えている。体は、座席に固定されているが、膝に抱えた機関銃の方が浮上を明確に示していた…しっかりと支えなければ膝から浮き上がってしまうのだ。


相当なスピードで上がっているな…


ー2000、2500、3000…


乗り込むとき見上げた空は、雲ひとつ無かった…上昇に当たっては、光の変化はよくわからない。しかし、目を閉じると浮上感はよりはっきりと感じられた。上昇する揚陸艇においていかれそうになる重い体…ノクトは腹に力を入れた。


ー3500、4000、4500…


安定飛行までもう少しかかるな…

脳裏に走馬灯のように、この1,2日の出来事が思い出されていた…


ぱっと、音がするように切り替わる画面。白昼夢のようにそれは生々しい…見えるのは、まだ、うだるような高い日差しの中で、丘の上に立つゴダールの姿…


本部を出て、すぐに、ゴダールに呼び止められた。ノクトは、不信感をあらわにしながら、その背中を風車の見える丘まで追いかけたのだ。


ー30年前の戦争のことを、お前に話していなかったと思ってな


ゴダールはまた、いつもの不適な笑みを浮かべていた。


ートルドーは面識はないが…どうも心理戦をやるのが好きらしいな。心理的なゆさぶりをかけて、優位に立つ…小ざかしいが効果はあるようだ。どうだ?


ノクトは思わず目をそらしていた。


ーうるせぇ…とっとと本題に入れ


ノクトの声はいつになく毒々しかった。ゴダールは、拗ねたこどもにするように、余裕のある笑を浮かべていた。


ー30年前ルシスの前線に立った。まだ、魔導兵が本格的に導入される前だ…


場面が切り替わる…見てきたわけでもないのに、昔の…ルシスと帝国との前線の様子が見える…帝国軍は、その激しい戦闘の最前線に、多くの階級の低い男達を配置していた。富も無く、学もない…そういう男達が、正義の名の下に、徴収され、武器を持たされてそこにいる…ひたすら、不安な表情を浮かべて。


ー多くの平民達は、徴兵されて、少なくとも3年の間前線で生き延びる必要があった。言い訳はしない…当時から、正義の戦争などと思ったことは一度もないが、俺は生き延びたかった。徴収されたのは、ちょうどエドが生まれたころだ…


ゴダールは懐かしむように言う。ノクトの脳裏には、若き日のゴダールの勇ましい姿が見えてくるようだった…エドに似ている横顔。しかし、エドよりは一回り小さい…振り回す剣は、恐ろしく勢いがあり、その先に触れるだけで、ルシスの兵達はみな、凪倒されていく…。


ーなんとしても生き延びてやると思った


ゴダールの声が響く…前線で剣を振るうゴダールの顔には、ただ、必死に生き延びようとするそれだ。


ー心底うんざりしたよ…剣の道を志していたものとして、無意味な殺し合いに…その戦争を取り仕切っている奴はみな、どこか遠くの安全な場所で、ただ漫然と、兵士を駒のように見立てて指示を出しているだけだ。俺のすぐ目の前では、敵味方の何千何万の兵士が、毎日苦痛と恐怖にまみれながら死んでいく…


30年前だ…肉弾戦中心と聞いている。わずかな重兵器の合間で、無数の人体が横たわる…的を威嚇するわめき声、絶望の叫び…苦痛の表情で倒れる兵士達…腕が飛び、頭が飛び、戦車は、倒れている人々を肉片としながら、ひたすら前へと進む…


ー俺は生き残るために人を殺しながら、この無意味な争いに巻き込まれない方法を必死に考えた…


唖然として惨状を眺めるゴダールの姿が見えるようだった。


ー俺は3年を生き延びて、なんとか里へ帰ってきた。そして…この里がなるべく戦闘に巻き込まれ無いようにすればどうすればいいか、…少なくとも自分の息子を、前線に送り込まずに済むにはどうすればいいか、策を練った…貴族や…ユスパウの領主にも手を回した…


ゴダールは、懐かしそうに思い出しながら、笑っている。彼の笑顔にはいかなる言い訳もなかった。


ー家内はな…ああ見えて、若い頃は体が弱かった。エドは何度も涙をのんで、ようやく生まれた子だった。エドの…戸籍上の名前を教えてやろう。”エーデル”だ。戸籍上…同名の双子の兄妹ということになっている。混乱の中で兄は死んだことになった…奴を長いこと、道場から遠ざけていたのも、戦場から遠ざけるためだ...


ーお前の親父がしたこととは、多分間逆だろう…俺は、あいつさえ生き延びれば、世界が滅びてもいいとさえ思っていた…多分、いまでもな。これが、お前の知りたがっていた真実かな? 失望か…憤りか…感じているのはどっちだ?


ゴダールの笑みが、眼前に迫るような気がして…ノクトははっとして、目を開けた。


ー5000、5500、6000…


揚陸艇はまだ、上昇を続けている。貨物室では、重く沈黙したまま…トルドーとその部下が、じっと急上昇の衝撃に絶えて、座席についていた。


ノクトは、また、目をつぶった。ゴダールの告白を聞いたときの感情が思い出された…失望でも怒りでもない…懐かしさだ。レギスは、彼とはまったく間逆のことをしたが…その心情は同じだったろう…ノクトにはそう思えて仕方がなかった。


白昼夢は、また、ぱっと、音がして切り替わる。夕暮れの家…疲れきったルーナの姿が玄関をくぐる。


ーああ、ノクティス…どうぞ、夕飯ができるまで休んでいて…


ルーナは疲れた顔に精一杯の微笑を浮かべて、夫を労おうとしている。ノクトは、こみ上げるものがって、たまらず、そのまま抱き寄せた。


ー悪いな…心配かけて。疲れているみたいだ…


ルーナはホッとため息をついて、夫を抱きしめ返した。


ー大丈夫です…無事に帰ってきてくれましたから


ノクトは、胸が苦しくなって、さらに強くルーナを抱きしめる。ノクティス…? ルーナは夫の様子が可笑しいのを感じたのか、訝しげにその顔を覗きこんだ。目を見つめられるのが怖かった。ノクトは、視線を遮るように、もう一度抱きしめて、ルーナの顔を自分の胸にうずめた。


ー…二日後に、また、発つことになった。ボンガロの奪還作戦に参加する…


ルーナは、はっ…と呼吸を止めて、身を硬くしていた。それから、小刻みに肩が震えているのがわかった。


ールーナ…大丈夫だ。すぐに戻る…必ず…


ノクトはさらに強く抱きしめようとした…が、ルーナは腕を激しく振り払って、そして、ノクトの頬をひっぱいたいた。


ぱーんっ!! と小気味良い音が、いままさに平手打ちを食らったように鳴り響いた。ノクトは、驚いて一瞬目を開けた。しかし、そこにあるのは静かな揚陸艇の貨物室だ…背後の操舵室ではまだ、高度を読み上げている…ノクトはまた、目をつぶった。


すぐに、ルーナの泣き顔が思い出された…怒りか悲しみかわからない表情で、ノクトを見ている。


ー約束…したのに…必ず傍にいると…!!


激しい感情をあらわにして…頭を振る。押さえつけようの無い、深い怒り…深い悲しみ…彼女自身が、感情に翻弄されているように見える…押さえつけるように、うめき声が漏れた…


ー貴方はなんで…いつも一人で、危険なところへ行くのですか…傍にいると約束したのに


あああ… ルーナは激しき泣き声が、ノクトの耳にいつまでも反響していた…


ぱっと、また、画面が切り替わる。もうそろそろ、高度が安定するはずだが…夢うつつに、ノクトは考えていた。しかし、はっきりと見えてくるのは…薄暗いお堂の内部だ…古い小さな石像の方を向いて、アルミナが怒ったように沈黙していた。


ーアルミナ…これは受け取れない


困惑するノクトの声が聞こえていた…そして、手元に、あの白い小さな石のネックレス。


ーお願いよ…生きるか死ぬかの時に…お守りだと思って持って行って


アルミナは、ノクトの方を見ようとしなかった。


ーここから…祈るだけなら私もできるの…他には何もできないのよ


アルミナの声は、怒りに震えているようだった。いったいどれだけの押し問答を繰り返しただろう…ノクトは、ほおっと深いため息をつきながら、胸元に手を触れる。レジスタンスから支給された防弾チョッキの下に、小さな硬いものを感じた。


ー高度10000m…安定走行に入ります


ぐぐん… 揚陸艇は急激に止まって、座っていたものは、ゆれ戻しの衝撃を受けていた。やれやれ…兵士達は、呆れたように呟いた。


「どうもあらっぽい操縦士だな…」


不満をあらわにしてトルドーが呟く。


「操舵室の方がゆれがマシだろ。あんたもあっちへ座ればよかったんだ…」


ノクトは不機嫌に返した。トルドーは、首を振って


「ファグナの船だ…弁えるさ。我々は単なる積荷だから気にするな」


ふん、ノクトは気に食わないと言った様子で、目をそらす。その様子を、精鋭部隊の軍服に身を包んだ、ヨール、ワグ、キイス、ブラントン、ニーチェと言った、今は顔見知りとなったレジスタンスチームの面々が、やや呆れ顔で見ている。結局、揚陸艇に乗り込んだレジスタンス要員は、ノクトを含め12名…操舵室に、ユスパウ領の調査部隊として、補佐が5名いるが、明日、調査部隊がハルマとともにファグナ市へ引き上げた後、ボンガロに潜入するのはこの12名となる。


プロンプトは、地上部隊に組み入れられていた。明日はトルドーがこの12名の潜入部隊および、地上よりボンガロに接近中に他の部隊についての全面的な指揮権を握る。一方、揚陸艇に乗り込んだ人員の今日一日の指揮権はハルマにあった。ガラール市の調査がその目的だ。


ー隊員、34分休憩。ガラール市上空に入ったらすぐに着陸準備


「揚陸艇だと早いな…たかだか30分程度か」


キイスが、作戦に出るために短く刈ってしまった髪を、しきりに気にして撫でている。ゴダールの弟子であり、もともと帝国軍人でトルドーの部隊にもいた経験を持つ彼は、久しぶりの実線に興奮気味のようだ。


トルドー少将は徐に席から立ち上がって、操舵室に入っていく。ハルマ…ちょっといいか

…という声が聞こえてくる。ああ… 二人は小さな声で話しを始めたようだった。


貨物室は所狭しと武器弾薬、それに、作戦中に必要な食料など積んでいて、隊員が歩き回るほどのスペースは無い。多くの者は、ただ座席に座ったまま、心持ち、伸びなどをするのがせいぜいだ。ノクトたちが持ち込んでいたあの軍用ジープは、地上部隊が使用するといっていた…所有者はノクトのはずだが、許可を求められた覚えも無い。


明日からのボンガロ奪還作戦…昨夜遅くの作戦会議でその全容が知らされたが、わずか1両日中に制圧の予定とあって、ノクトも驚かずにいられなかった…戦争をしかけるというよりは、ほとんどが、この12名の潜入部隊による、ヴァーサタイル一味の暗殺計画だ…トルドーは作戦を指示しながら、この12名が一番汚く、危険な仕事になることを何度も念を押して、ノクトに参加の意思を確認していた。ノクトは…一度指揮下に入ればその指令に従うと誓った。そこには、意地もあったかもしれない。


一国の主が暗殺部隊か… イグニスが聞いたら大目玉だな。


しかし、ノクトにしてみれば、誰かがそれをやる作戦に噛んでいる以上、手を下さずとも無関係ではいられまい、と思う。誰かがやらねばならないなら…自分が手を汚すべきだ。なぜか、今のノクトには、そう強く思える。


トルドー少将を支持する者は、まだ軍の内部に残っている。内通者とコンタクトを取り…潜入部隊がまず、60%とのヴァーサタイル部隊の撲滅を図る。その総勢は50名程度だということだ。その上で、要塞の主要部を、内通者と協力して制圧する…地上部隊の突破口を開いたら一気に攻勢をかける。首謀者、自称ヴァーサタイルと、ヴィクトワール・ド・ノアイユを討ち取れば制圧完了…それがトルドーの書いた筋書きだ。


要塞内に残った市民の避難誘導はどうするんだ? ノクトは、ファグナでの苦い記憶を思い出して、トルドーに迫った。

避難誘導は地上部隊が行う…潜入部隊がうまくやれば、ファグナにような大規模な戦闘には発展しないはずだ、とトルドーは自信を見せていた。内通者によれば...今は市民の多くは要塞の敷地の外に追い出されて、廃墟の町に移住しているという。


ほおお、とまた、長いため息をついて、ノクトは小さなスリットの窓を見やった。うっとうしいほどの日差しが、そこから見えるまっさらな空に降り注いでいた。


トルドー少将が貨物室に戻って自分の座席に付いた。


「ほら、もう上空だ。今日一日でガラール全市を調査するんだ…さくさく動けよ」


トルドーはめんどくさそうに、隊員達に呼びかけていた。


揚陸艇は間もなく着陸態勢に入った…と言っても、壊滅的なその廃墟にあって着陸位置を決めるには時間がかかった。隊員達は低空飛行する揚陸艇のスリットの窓に張り付いて、下界の様子に見入った。


「調査なんて…必要あるのか?」


誰かが呆れたように呟く。ノクトも、隊員達に混じって下の様子を見たが…執拗に破壊された町並みに、生存者の調査は絶望的に思えた。


ー着陸地点、特定完了しました。至急、着陸準備を


隊員達は慌てて座席に着き、シートベルトを締める。すでに低空飛行にいたから、高度が下がるのは早かった。やがて、ががががと音ともに何かに着陸した。スリットの窓から見ると地上ではないようだが…


ー着陸完了 


アナウンスと共にすぐに開口部が開いた…着陸したのは何かの建物の屋上のようだ。隊員達はすぐに開口部から外に出る。ノクトも後に続いた。


建物の屋上は…地上、10階立てくらいだろうか…破壊された町並みがよく見渡せる。これ以上高い建物は、ほとんど残っていない。見渡す限り…廃墟、廃墟…遠くの地平線まで、辛うじて、もともと街だったときの、放射上に伸びた道路の後が見える。


すぐに、操舵室にいたハルマや、チパシから派遣されたメンバーも降りてきて、地図を広げて現在地を確かめようとしていた。


「あの…辛うじて、立っている長い塔が、多分、ごみ処理場だろ…あのドームの跡が、総合競技場だな…とすると…おい、だいたいの位置がわかった。隊員、聞けよ」


ハルマが声を張り上げて、現在地を知らせる。それぞれの班の班長が、地図に現在地を書き記し、そして、割り当てられた地域を見定める。


「当初の予定より、西よりに拠点がずれている…1地点ずつ調査範囲を西にずらしてくれるか。時間あわせを…無線の定期連絡を30分おきとする。万が一、生存者発見の場合は、すぐに連絡をよこせ。救援部隊を派遣する。死体は、ユスパウの紋章だけ気にしておけ…まあ、オジキの遺体発見はあまり期待していないさ…適当にな」


調査班は二人ずつペアになって、割り当てられた地域に向かって、出発した。ノクトは、ハルマとトルドー、そして、2名の隊員とともに待機組みになっていた。


「ユスパウの屋敷と、領軍の本拠地はどこなんだ?」


トルドーの質問にハルマは顔をしかめながら、たぶん…と自信なさそうに一画を差す。


「あの辺と思うがね…見る影もない…これではまったくわからんな。市内の戦闘が激しかったとは聞いていたが…」


崩れた街なみのあちこちに、最後まで抵抗したと見られる戦車の残骸が転がっていた。破壊された建物以外に見えるものが無い…辛うじて、建物の合間から、逞しく伸びた木々が見えるだけだ。


「美しい街だったんだがな…」


ハルマは、力なく肩を落とす。


「まあ、いいだろ。捜索は名目上のこと…ちょっと、ノクティスも来てくれ」


トルドーは気楽な感じで呼びかけて、揚陸艇の中へ戻っていく。ハルマがそれに続いていたので、ノクトもしぶしぶその後に続いた。操舵室に入ると、人払いされた操縦士も、外へ出て行くところだった。操舵室には、トルドーとハルマとノクトの3人だけとなった。


「時間を無駄にせずに今後の相談と行こう…まあ、奪還が成功したらの話を今からするのも可笑しいかもしれないが…この作戦の成功率はそれなりに高いと思っているんでな」


「成功してもらわないと困る」


ハルマはすぐに突っ込んだ。


「実線では何が起こるかわからんさ…まあ、それは置いておいて、その先だ。我々がめでたくボンガロを制圧したとよう」


「我々…じゃない、あんたが、だろ」


ノクトはとげとげしく言う。


「…どちらでもいいさ。いちいち、つっかかるな、話が進まない」


トルドーは、いつものように、めんどくさそうに言った。


「めでたく掌握してだ…いずれ問題になる。帝都のことだ。あそこに眠る得たいの知れない怪物の始末もあるとしてだが…魔高炉のことだ。これが次の争いの種だな」


ニフルハイムの全土のエネルギー源となっていた魔高炉…地下何千mと掘り下げて巨大な地下火山の無尽蔵のエネルギーを汲み取る夢の動力源…それこそ、復興に欠くことのできないものだった。


「いっそのことこちらで掌握したいと思っているんだが、一勢力での支配は、争いを生むからな。そこで、ニフルハイムで連盟をでっち上げようと思ってる」


「連盟か…つまり、自治区がすべて同等に権利を有するってわけだな」


ハルマは、トルドーの提案に食い入るように身を乗り出した。


「そうだ。それなら文句のつけようが無いだろう。今のところ、ファグナとユスパウと、ボンガロと…それと、多分、シャンアールの話ならつけられそうだな」


と言って、トルドーはノクトの顔を見た。


「…なんでオレを見る。オレは部外者だろ」


「そういうな…復興しようと思えばテネブラエも、復興できるぞ。それに…チパシと繋がってる隠れ里にも恩恵はあるだろ」


ノクトは、素直にうんといえないものの、考え込むように唸る。ハルマは、慰めるようにその肩に手を置いた。


「ニフルハイムの安定が…他の世界にも必要なんだろ。ここは手を貸してくれないか」


ちっ… ノクトは自分だけがこどものように拗ねているような気がして、少し恥ずかしさも感じながら、目を伏せる。


「シャンアールに特別なつながりがあるわけじゃないが…話をするのに力を貸せるなら貸すさ」


「助かるな」


トルドーは飄々として言う。


「連盟誕生で、アコルドも文句は言わない…ニフルハイムのほかの地域も、いくらでも参加できるしな。とりあえず、支配権を独占しようという輩には、いい圧力になるだろう」


ノクトは、トルドーがあまりにも全うな主張をするので、それが素直に受け取れないようだった…個人的なわだかまりにこだわっている自分が、小さく思える。


「あんたは…いったい何がしたいんだ?」


ん? とトルドーは、訝しげにノクトの方を見て


「決まってる…早く引退したいよ。ここだけの話だがな…ゴルゴドスを追い出されたときは、ラッキーだと思ったな。そのまま、アコルドに亡命でもして、のんびり老後を過ごそうと思っていたんだが…」


トルドーは、疲れたように深いため息をついて見せた。


「それがどうだ…あとからあとからボンガロを離脱してきて、頼みもしないのに終結しやがった…まあ、君らならわかるだろう。結局、我々はいいように担ぎ上げられてるんだよ」


ノクトは、はっとして、その顔を見た。いつも、どこか覇気がない、不思議なレジスタンスの指導者の姿がそこにあった。ただめんどくさそうに… ノクトは急に親近感さえ覚える。あんなに反発していたのに…。


「あんたのやり方に気に食わないところは多いが…協力はするさ」


ノクトは悔し紛れに呟く。


「ああ、君は本当、幸運だな。君みたいな正攻法でここまで生きてこれたのは、幸運以外ないと思うね。私はそうも行かなくてな…帝国軍なんて、よほど汚ければ生き残れないようにできてる。私の10年前の最高階級は大佐だよ。しかも、この混乱の時代が訪れるほんの数ヶ月前に前任者がヘマやって突如粛清されたのさ…慌てて階級があがって、まず、私がしたことは何だと思う?」


力なく問われて、ハルマとノクトは顔を合わせる。


「髭を生やしたんだよ。部下に馬鹿にされないようにな」


ハルマとノクトは、思わず顔を見合わせて笑いを堪えたが、本人はしんどそうにまた、ため息を漏らしていた。


3人の話が終わって、ハルマはノクトを連れて、周囲の街並みを視察に出た。歩いてもあるいてもただ、虚しい廃墟が続く通りを二人で連れ立って歩いた。ゴートナダの遠征が、懐かしく思い出されるようだった。わずか数週間の間の出来事だ…


「お前には、すまないと思ってる…」


先を歩いていたハルマが突然切り出した。


「なんだよ、急に」


振り返ったハルマの顔は、苦悩にゆがんでいた。


「ファグナの交渉のようにな…ただ危険ならまだしも…汚い仕事をお前一人に押し付けただろ。本当にいいのか…お前の信条にとって」


ハルマは、なぜか泣きそうな目をして、ノクトを見ている。ノクトは、どの眼差しの中で、とんがっている自分の心が解けて行くような不思議な感覚を味わった。ノクトは笑った。


「なんかわかるなぁ、それ。オレもな、きっといままでそんな気持ちだったし…きっとこの先そんな気分になるんだろうな」


はん? ハルマはちょっとわからない、という顔をしたが、ノクトが普段の気軽さを取り戻して、親しみのある笑顔を向けたので、安堵したように自分も笑い返していた。









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