Chapter20.5-声-

「ノクト!鼻の下、伸びてる!」


「ほら!また伸びてる!」


ことあるごとに、プロンプトが突っ込む。


「るせーな…」


と口では言いつつ、どうしても顔がにやけてしまう。ルーナと古い民家で住まうようになってから数日がたっていた。昼間は、ブディの依頼でプロンプトと、送電線の修理に当たって、日が傾き始めると早々にルーナの待つ家へと帰る毎日だ。肝心の、送電線の修理は、当初プロンプトが思ったほどには簡単にはいかなかった。もとより、風車の立つ丘から、集落までの距離はそれなりにあるし、途中の小川を避けるために、深く地中を通している箇所がある。プロンプトのはじめの思い付きでは、肉眼で断線した箇所がすぐに特定できると思ったのだが…しかし、通電を調べる旧式のチェッカーを感電防止のゴム手袋をはめて恐る恐る送電線に差し込んでいく地道な作業を繰り返しても、断線した箇所の特定ができないでいた。


「あとから分岐させたりとか…増設したりとかしてるんだろうな。送電線の全体像がわかんないと厳しいなぁ...」


今日は風車のほうからやってみようと、ノクトと二人で送電線を追っていたものの…結果は芳しくなかった。プロンプトは頭を抱える。うっかり、簡単に直せるみたいなことを口走ったものだから、ブディたちの期待は高かった…


ノクトは親友のプレッシャーなどあまり気にとめてもいなかったが、さすがに地道な作業が続いて嫌になってきていた。破れかけの羽で悠然と回る風車を眺め、


「もう、面倒だから、通信機のほうをこっちに移してきたらどうだ?」


と言ってみた。

うーん、と唸りながらプロンプトが、風車の足元にある予備用の蓄電器を調べる。


「そうねぇ…ゴダールさんちの通信室から、通信装置だけなら持ち運べるか。…建物裏のでかい配電設備は移設が難しいよなぁ。それだと、通信機は使えても、町の電源は確保できないよ?」


「しかたねぇだろ。とりあえずは、谷と連絡を取るのが先決だ」


わかった…とプロンプトはこれ以上何の進展がないのも心苦しいらしく、ノクトの提案を受け入れた。そうと決まれば、集落に戻ってブディたちと相談をしたほうがいい。ノクトは早々に、引き上げにかかる。


「…もう!ノクト、待ってよね?!」


風車の機械を見ていたプロンプトは、ぶーぶーいいながら慌ててノクトを追いかけた。


「ほら、また、鼻の下伸びてる」


「るせーっての。伸ばさせとけ」


ノクトは、悪態をつきながら、すでににやにやしていた。


「あーちゃんだってさ、結構我慢してんのよ? ノクトばっかルーナ様を独占してずるいって、いつもぶつぶつ文句言ってるんだから。オレも超同感!!」


「アラネアはなんだかんだと、昼間はアルミナやルーナと一緒に居るんだろう?」


「そうだけど…って、じゃあ、オレは?!」


「お前、ルーナに何の用がある」


ノクト、冷たい!! とプロンプトは大げさに騒いでみせる。ルーナ様はみんなのものなんだからね… 


ったく…神凪をアイドルか何かと勘違いしてないか?


ノクトは呆れて、相手にもしない。にやけ顔のまま、ぶつくさ言うプロンプトを連れて、本部に入った。本部は、今日も、支援を求める住民や、難民の対応で慌てふためく世話役たちでごった返していた。通電チェッカーのやたらとでかい機械を部屋の隅に片付けながら、ブディの姿を探す。顔見知りの世話役を捕まえて、ブディのいく先を聞くと、エドと西の牧草地の視察にいったということだ。わずかに残った家畜を次の繁殖期に最大限増やしたい…安全な牧草地の確保は急務だった。


「どうする?追いかけるか…」


二人で相談しているところへ


「プロンプト!なにサボってんの!」


と、突然、キリクがプロンプトの背後から首にまとわりついてきた。キリクは、相変わらずノクトを目の敵にしているが、プロンプトはお気に入りらしい…このところ、やたらと絡んでくる。


「キリク、ちょうどいいところにきたな。ブディのあとを追いたいんだが、場所がわかるか?」


キリクは、ノクトの質問に、あっかんべぇ、とこどものように舌を出した。


「ボク、あんたの小間使いじゃ、ないんで。あ、でも、プロンプトと二人なら、探してきてやってもいいけど」


ノクトは苦笑して


「おう、いいぞ。二人で行ってきてくれ」


プロンプトは迷惑顔で、ノクトに助けを求めた。


「いいじゃん…夕方戻って来るのを待てば…」


「はーい、文句言わずにしゅっぱーつ!」


キリクはご機嫌な様子で、強引にプロンプトの腕を引っ張って本部を出て行ってしまった。ノクトは、内心ほっとした。

一昨日、用があって集落の中を通ったときに目にした光景を思い出す。通りの隅っこで、キリクがルーナと話し込んでいた。キリクは熱っぽく、目を潤ませながら、こともあろうがルーナの手を握っていた。といっても…ルーナのほうは、母親のような笑顔を浮かべながらその手をしっかりと包み込んでいた。二人は熱心に話をしている様子で、ノクトは踏み込むべきかと迷いながら、そのまま物陰から様子を伺っていたのだ。キリクは、最後にルーナの手にキスをして、それからそっと離れた。気になりながら、ルーナに聞くのが躊躇われた。どうみてもルーナのほうにやましさは感じられなかったし、なんだか小さいことを気にする男だと思われるのも、悔しい気がして…


プロンプトが気を引いて、ルーナにまとわりつかなくなれば、助かるな…


まとわりつかれているプロンプトは、キリクがやたらとスキンシップを取りたがるので、ちょっと気味悪がっている。ノクトは、親友をダシにしていることに一縷の呵責も感じていない。キリクもプロンプトも童顔でかわいらしい顔をしているので、傍から見ると、仲の良い兄弟がじゃれているようにしか見えないのだ。


さて…こっちは、あいつらを待ってる間に、通信機を見てみるか…


ノクトはゴダールの屋敷のほうへ足を向けた。

ゴダールの家は代々集落をおさめていた家柄だけあって、古いが堂々とした大きな屋敷だ。低い生垣に囲まれて、2階建ての母屋と、いくつかの離れの建物、倉庫などが立ち並ぶ。妻子だけでなくて自分の母親(なんと!10年前に倒れかけた高齢の母親は生き延びていた)と、従兄弟の家族と、離れには従来の古い使いの者たち、そしてこの混乱の中で、ハルマをはじめとする集落外の出身の世話役達が住み込んでいて、ここだけでちょっとした集団を築いている。家の敷地の中には家畜も飼われており、畑も作られていた。もともと、家の外にも大きな畑を持っていて、敷地内の畑は年寄りの趣味のために作られていた小さなものだった。しかし、この10年で村の貴重な食料源となった。敷地ぎりぎりまで拡大されていた畑で、今日も、数人の使いの者たちが畑でせっせと汗をたらしている。

畑で使いの者たちと働いていたゴダールの妻が、すぐにノクトに気がついて、顔を上げた。


「あら、ノクティス様…」


といいかけて、いけない、と口を閉じる。


「まあ何度も、慣れないことですみません…タルコットさんとお呼びしないといけなかったですね」


「いや、いいさ。気にしないでくれ」


ノクトは苦笑した。実際、ルーナとノクトの間でも、どうしても間違えてしまって、お互いをノヴィア、タルコットと呼ぶことを忘れてしまう。だんだんと二人も大胆になってきて、今では、ほとんど本名で呼び合っていた。それを真似して、アラネアやプロンプトも、あまり警戒もなく本名で呼んでくる。


「実は通信機を見せてもらおうと思ってきたんだが…ゴダールは留守か?」


「さあ、どうかしら。いつも呼ばれてどっかにいちゃうから…どうぞ、よろしかったらお好きに見てください」


「助かる。そうさせてもらうわ」


ノクトは勝手知ったる屋敷に上がりこんで、玄関から左奥の通信室に入った。狭い部屋の半分は、旧式のやたら大きい通信機の本体で埋まってしまっている。その脇で、ちょうど、ハルマが壁に備え付けられた棚から何か書類を探している最中だった。


「ん?何かようか?」


ハルマはノクトに気がついて顔を上げる。


「ちょっと通信機をな…どうも、断線箇所がすぐには特定できそうにないんで、通信機ごと、風車まで持っていこうと思ってるんだが」


「はあん、なるほどねぇ…持ち運べんのかね?これは」


ハルマはちらっと通信機のほうを覗き込む。


「どうかな…台車か何かあればいけそうだが、持って運ぶにはしんどそうだな」


「荷台につんで、ロバに引かせたらどうだ。精密機械か?」


うーん、と二人は、機械にはあまり詳しくなく、無責任に唸ってながめるばかりだった。


「やっぱりブディたちを待つか…今、キリクとプロンプトで呼びに行ってもらってるんだ」


「だな…オレもこういう細かいのはさっぱりでな」


と、ハルマは頭を掻いた。


「あんたは何をやってんだ? 良ければ手伝うぞ」


とノクトはハルマの手に持った書類を覗き込んだ。


「じゃあ、暇つぶしに手伝ってもらうか…この辺りの土地権利関係の書類をまとめててね」


「なんだってそんなものが?」


ハルマは苦笑して


「お天道様がのぼって、また土地が使えるとなりゃ…もとの地権者も黙ってないんだよ。こっちは、数百人分の住居と食料の計画を立てなきゃいかんてのに。この期に及んで権利を主張する輩が多くてな。まあ、だいたいは村長権限でなんとかなるんだが、ゴダールも義理を通す方だから、計画に当たってはひとりひとり利権者の承諾は得るつもりらしい」


ふーん、とノクトは感心して、とりあえず棚に無数に押し込まれた紙束を手にとって見た。このあたりは…領主との権利譲渡に関する交渉…ずいぶん、古い記録も残っているようだ。


「その点、ルシスは王様が命令を出せばいいんだろ? 楽そうだよな。ニフルハイムは皇帝、領主ともども消えちまったし…しばらく混沌とするだろう」


そこまでの権限ねぇよ、とノクトは内心苦笑しながら、


「あんたも、領主の血筋だろう…あんたの権限でどうにかなるんじゃないのか?」


ハルマは首を振った。


「よせよ。そんなこと、証明できるやつはひとりもいないんだぞ。例え世話役達が口を揃えて証言したとしても…いまさら、この荒廃した領有権を主張して、誰が従うんだ?」


それから、思い出したようにケラケラと笑って


「まさか、ルシスの王様と神凪までそろっているってな。その辺の連中には、信じがたいだろうな…」


とつぶやく。


「…と言っても、神凪はちょっと目立ちすぎか」


ノクトは次の書類に手を掛けながら、え、と顔を向けた。


「…そうか?」


ハルマは呆れたように肩をすくめた。


「あんたも鈍いな…この一月半ばかり誰も彼女に気をとめていなかったのにな。お前さんが現れたこの数日で、見違えるように美しくなった。あの霞んでいた髪の色までが…嘘みたいに金ぴかに光ってる。この荒れ果てた土地にあって、なんだよ、あのオーラは…すれ違うものたちがみな振り返ってその美しさを拝んでるぞ」


女は変わるよなぁ とハルマは、首を振った。


「はじめ正体を知らされたときは、信じられなかったぞ…あんまり、昔のイメージと見劣りしたからさ」


おっと、失礼! とハルマは失言をわびるように自分で額を叩いた。ノクトはなぜか、顔がにやけてしまうのを止められなかった。


「…へへ、お幸せなことで」


ハルマはノクトのにやけ顔をみて、ほほえましく笑みを浮かべる。ノクトは、ちょっと恥ずかしくなって顔を赤らめながら、照れ隠しに


「ところで、あんたはどうしてチパシに?」


と話題をふってみた。


「なぜ命拾いしたってか? まったく悪運が強かったのさ…あの時、ゴダールのところにちょうど弟子入りしてたんでな」


「弟子入り?」


「やつは、帝国でも有名な剣の名士…知らないのか?」


ゴダール… ノクトは一応考えてはみたが、思い当たらず、首を振った。


「若い頃数年に渡って弟子入りしてたんだが、ちょうど10年前くらいに、もう一度剣を鍛え直すとかうそぶいて、潜り込んでな。もっと正確に言うと…逃げてきたんだ」


「逃げて?」


「オジキからな。闇が訪れるさらに数年前だ… あそこの嫡男がルシスの前線で死んじまって」


あ…と、ノクトはちょっと複雑な表情をした。ハルマは、気にするな、とでも言うように笑ってみせる。


「オジキはどんくさくてな。どうも政治的取引が下手で、他のそういったドンくさい領主と同じように、皇帝に忠誠心を見せるために嫡男を戦争に取られた。前線に送られないようにあの手この手で皇帝に貢ぐのが恒例さ。ヘマをやって気に入られなかったやつから、前線に送られる。実際には、皇帝よりも宰相のご機嫌のほうが大事だったようだが…それで、跡継ぎが死んでしまった。オジキにはあと、娘が二人残っていた。家を継がせるには娘達に適当な婿を取らせるか…親類から適当な養子を取るのが通例だ」


「...なんで逃げた?領主になれたんだろ?」


ハルマは大きなため息をついた。昔を思い出すように、しばし、宙を見上げて。


「簡単に言うと、激しい跡目争いが起こってんで嫌気が差して飛び出してきた。分家の男もオレ一人ではなかったからな。オレの親は…血眼になって、オジキの娘との縁談を進めようとしたり…まあ、狂ってたよ。こんな小さな領の分家なんざ、貴族と言ってもかなりの半端者で、自分の農場一つ持っていればいいほうだった。そんなに金が欲しいもんかねぇ…とまあ、最後まで、すねかじったままゴダールんとこにもぐりこんだオレが言えることじゃねぇが」


ハルマは、あ、と言って、お目当ての書類を見つけたらしく、机の上に重ねていく。ノクトも、ちょうどそれっぽい書類を見つけたので、その上に重ねた。


「で、お前さんはどうして、ルシスを出て? 婚約者を迎えに行くとしても、とても正気には思えないな。取り巻きは許したのか?」


次の棚に手を伸ばしながら、ハルマが質問してきた。


うううん…とノクトは唸った。


「…どうしても譲れなくて、飛び出してきたようなもんだ」


「へぇぇ、一国の主が、やるねぇ。そりゃ、神凪も美しさを取り戻すってもんだな」


ノクトは恥ずかしそうに俯いて、笑った。その時、部屋の外ががやがやとにぎやかになった。ノクトが、廊下を覗き込むと、ブディと、プロンプトとキリクが、こちらに向かってくるところだった。


「おお、ご苦労さん」


狭い通信室を覗き込むようにした3人に向かって、ハルマが声を掛ける。


「ハルマ…悪いな。一旦、通信機を出してしまいたいが、そっちは後にしてもらっていいか」


ブディがすまなそうに言う。部屋が狭くて、とてもこの人数が同時に作業はできなかった。


「ああ、いいよ。ノクトにも手伝ってもらって大分集まったからな。とりあえず、これだけ持って、本部で整理をしておくよ」


ハルマは、集まった書類をダンボールに押し込んで通信室を出て行った。

通信機の運び出しは思いの外、手間がかかった。何せ設置されたから20年近くがたっている代物で、機械は直接床に、ねじで固定してあった。電源ケーブルをたどると、外の配電装置に直接つないであることが分かり、結局、壁に穴をあけて、ケーブルを取り外す羽目になった。プロンプトは、ことが進むごとに、冷や汗を掻く…やばい、こんだけ大事になって、通信機が動かなかったらどうしよう…


馬に引かせる荷台に、必要な機材を積み込み終わったら、もうすっかり夕方になっていた。


「続きは明日だな…頼むぞ」


いよいよ明日には通信が再開できるだろう…期待高まるブディが笑顔をプロンプトに向けていた。

夕食を取りに、一行がいつものようにルーナの家に向かっていた。プロンプトはすっかり肩を落として、プレッシャーに顔を暗くしていた。キリクは、つい先日もそうであったように、今日もくっついてきて、一緒に食事にありつくつもりらしい。


「大丈夫だよ!ほら、オレも手伝うから!」


からからと笑って、プロンプトの肩を叩く。


「キリク、機械いじり得意なの?」


プロンプトが疑わしげにその顔を見る。


「いや、あちきはバイクいじりのみ!」


かかかかか! 何が楽しいか腰に腕を当てて豪快に笑っていた。


こいつに機械がいじれんなら、とっくに直ってるだろ…ノクトは呆れ顔で2人のやりとりを見ていた。


ノクトが古い民家のドアを叩く。外はすっかり暗くなっていた。待ちきれないように、さっとドア開き、ルーナが満面な笑顔を向ける。1日の終わりを告げる、幸せな瞬間だ。

「お帰りなさい」

「悪いな、少し遅くなった…」

ルーナは笑って首を振った。あまりの愛らしさに、いますぐ抱きしめてキスをしたい衝動に駆られたが、部屋の中にも大勢の気配がしたので、ぐっと堪える。

「もう、いつまで見とれてんの?!」

キリクが文句を言いながら、ノクトを押しのけて先に家に入ろうとする。

「キリクも、いらっしゃい。ちょうどよかった、他にもお客さまがいらしてるの。今日は賑やかよ」

キリクは、通りぎわにさり気なくルーナの手を取って軽く口づけした。

「ノヴィア、今日も綺麗だね」

ウィンクして、あ!と意表を突かれたノクトを嘲笑うように鼻で笑って、ひとりスタスタと食卓についた。

このやろ…わざとやってやがるな

ルーナは、もうキリクったら、と可笑しそうに笑っているだけだ。

「ええと、ルーナ様、今日もお邪魔します!」

と未だに緊張した様子で、プロンプトも頭を下げて中に入った。

「はい、プロンプト様もお疲れ様です」

笑顔を向けられるだけで、プロンプトはすぐに赤くなった。

ノクトがなるべく平然と、家の主らしく最後に家に入って、食卓についた。時折見かける若い赤髪の女性が、恥ずかしそうに、お邪魔しています、と頭を下げた。


「レイだぞ!」


隣に座るアラネアが紹介する。手にノートを持っているところを見ると、勉強でも教えてもらっていたのか。

「レイは先生だ!」

アラネアは目をキラキラさせて言う。

「いえ!私はその、途中まで教師の勉強をしていただけで…!」

レイは慌てた様子で顔を赤くして、首を振った。

「レイは、よく難民のこどもたちの相手をしてくれているんです。とても、こどもたちの扱いに慣れて、今日も、大騒ぎだったこどもたちが、急に黙ってレイの読み聞かせる紙芝居に夢中になって…」

ルーナが補足すると、レイはますます強く首を振った。よほど、控えめなのだろう。

「ただ…こどもが好きな、だけですから…」

そして、もう自分の話題はやめて欲しそうに俯いてしまった。プロンプトがその様子を見て気を利かせたのか、突然、

「そういや、オレ、今日、チョコボ乗った!!」

と叫ぶ。

「へええ、この村、チョコボ飼ってるんだな」

「そうなんだよおおお!!裏の牧場に!!オレ全然、気づかなかったよ!!」

嬉しそうにカメラのモニターにとった写真を映して、テーブルに回してみせる。写真には、大はしゃぎしてチョコボに頬をすり寄せるプロンプトの姿が写っていた。それから、チョコボに乗って颯爽と走り抜けながら、ピースするキリクの姿も。

こいつら、なんだかんだ仲良いよな…ノクトはクスッと笑った。

アラネアが写真を見て、私も乗りたい!!と言った。言うと思ったわ…ノクトは聞かないふりをして、ルーナの手料理を黙々と頬張る。

「こどもには…ちょっと無理かな?」

プロンプトが冷や汗をかいて、なだめる。

「もうちょい、背が高くないとね!」

アラネアの隣に座っていたキリクが、ポンポンとその頭を叩いた。アラネアは、うー、と、不満そうに唸った。

それから一行は、通信機を明日移設することや、明日からレイがアラネアの勉強を見てくれることになったことなど、和やかに会話を楽しんでお開きとなった。

客人たちをルーナと笑顔で見送って、戸を閉めると、ノクトはほっとした。レイが遠慮して早めに失礼する…と言ってくれなかったら、キリクたちはもっと居座ったかもしれない。
ノクトは、そばにいたいがばかりに、食器を片付けているルーナの隣に立って、自分も腕を捲る。

「残りはオレが洗うわ」

気を利かせた客人たちは、おおよその食器は洗っていくのだが、最後に残ったカップなどが流しに残っていた。ルーナは、ノクトに家事をさせるのをはじめこそ躊躇ったが、ノクトがただ自分の側にいたいだけなのだとわかって、今は嬉しそうにノクトがするに任せている。

「ノクティス様…お疲れじゃありませんか?今日は遅くまでかかってらしたのに」

少し気遣うように顔を覗き込んだ…その顔がまた愛らしくて、ノクトは思わず濡れた手のまま、ルーナを引き寄せて、キスをした。

あら… ルーナがちょっとびっくりした顔をしたので、恥ずかしそうに俯いてそそくさと洗い物に戻る。

「ごめん、つい…」

ちらりと横目で見ると、ルーナは嬉しそうに微笑みながら、頬をそっとピンクに染めていた。

翌朝、まずはあのやっかいな通信機を壊さないように風車まで運ばないといけない。これが、なかなか神経を使う。その上、通信機を雨風から守るための小屋を、急ごしらえする必要があった。ノクトは、細かい仕事は遠慮したいと思って、エドと一緒に小屋を建てることにした。プロンプトとキリクとブディとで、通信機を運ぶ。
大工仕事もまったく不慣れだが、エドの指示に従って材料を抑えたり、ノコギリを入れたりすればよかったので気が楽だった。エドは慣れた手つきで、サクサク小屋を組み立てていく…あまり戦力になっていない自分が情けなくなりつつ、その鮮やかな手際を眺める。

ノクトが言われた通り板を組み合わせて抑えていると、端から順にエドがどんどん釘を打ち込む。ほとんど1、2撃で綺麗に打ち込まれてしまうから、驚きだ。

「うまいもんだな…」

「田舎だからね、この程度のことは子どもの頃からやらされてる」

唇の端をくっとあげて笑う仕草がゴダールに似ていた。

「オヤジさん、有名な剣士らしいな…」

あっはっはつ と、エドは大きな声で笑った。

「それを言ったのはハルマかい? 知る人ぞ知る、だよ。10年前までは、剣なんて格式ばった貴族のお遊びにしかならんと思ってたな。この、銃火器の発達した時代にだよ? ハルマは親父の一番弟子だが、オレの方はまったく本腰を入れてなくて…それがどうだい。この10年、物資の補給が絶たれると、銃火器はすぐに使いものにならなくなった。親父に頭を下げて、叩き直してもらったよ」

と、日に焼けた太い腕を叩く。

「そうか…オレも稽古でもつけてもらうかな」


「やってみるかい? はじめは型から入るから、うんざりするぞ。オレも、そうだった…だが、この型が意外と、実戦で物をいうんだ」


ふうううん、とノクトは唸った。自分の型…といえば、剣の使い方は、グラディオの仕込だ。アミシティア家の型といえばそうなのだろう…しかし、自分も、型をやらされるのが嫌で、自我流を通して来た…それが通ったのも、ルシスの魔力があってこそだったと思う。今の自分ではどうだろうか…試されるのは恐い気もする。


「お、やっと来たな…」


エドが汗をぬぐいながら顔を上げた。丘をあがってくる者の姿が見えた。機械を抱えたプロンプトとキリクが、この日差しの中で汗をだらだらたらしながらやってくる。その後ろを、ブディが、大型の本体をつんだ荷台を慎重にロバに引かせて現れた。


「なんだよ、結局、抱えてきたのか」


ノクトが呆れたように声を掛ける。


「だってさぁ、結構道が悪くって。酷くゆれるんだもん」


プロンプトが、ぜーぜーと苦しそうに息をしながら答える。


「見てないで、手伝ってくれない?」


キリクは文句を言った。体つきが華奢なだけあって、腕力は弱いらしい…ノクトは苦笑して、荷物を受け取ってやる。持ってみると…これが意外と重かった。


「取り急ぎ、土台は作ったから、適当に設置してくれ。屋根はおいおい被せる」


エドが風車のすぐ傍に出来上がった土台を指差す。プロンプトは、いわれるままに、その上にどかっと、通信機のパーツを置いた。ノクトもそれに続いた。

プロンプトはすぐに、蓄電器からの配線に取り掛かった。ノクトは、ブディの持ってきた本体の設置を手伝った。やたらと重量のある本体は、ノクトとブディの二人ではなんともならず、結局キリクも手伝って、3人がかりで慎重に土台におろされた。そして、ばらばらにされたパーツを組み合わせていく…

高く上った日差しが容赦なく4人を焼いていた。

昼近くなって、エドの妻と、5歳になる息子が、差し入れを手にやってきた。エドはすぐに気がついて、二人に手を降って見せた。息子はよほど父親が大好きなのだろう…顔が見えると大喜びで掛けて来てその足元にしがみつく。


「お疲れ様です」


エドの妻は、ノクトたちに笑顔を向けて、持ってきたかごからレモネードの入ったビンを取り出し、人数分のコップに注いでいった。飾り気のない女性だったが、笑うとえくぼがかわいらしい。夫婦仲がいいのは、見ていてすぐにわかった。ノクトは、親子の仲睦まじい姿をみながら、胸に熱いものがこみ上げるのを感じる…幼い自分に重ねてもいただろう。もし、自分がこどもを持つなら…こんな風にいつでもそばにいたい。

日陰のない丘の上…あまりの日差しの強さに、エドの妻と息子も、そうそうに引き上げた。エドは手際よく、最後の仕上げにかかって、組み立てられた通信機の上に、屋根を設置した。


「はい!いよいよ、つなげますよ?!」


プロンプトは、蓄電器から強引にひっぱった配線を通信機につなぐ。そして、緊張した面持ちで風車のストッパーを引いた。風車は悠然と動き出し、すぐに発電を知らせる青いランプが灯った。プロンプトは緊張した面持ちで、続いて通信機のスイッチを入れる…通信機の起動を知らせる豆電球が灯った。


おおお と、見ていた一同は声を上げた。とりあえず、通信機は動いたのだ。風車の足場に強引に設置されたアンテナも機能しているようだ…プロンプトの発声に合わせて、電波の強弱を知らせるモニターの針が大きく震えた。


「えええと!こほん!…こちら、チパシの風車前。プロンプトでーす。オルブビネのみなさま、応答してくださーい!」


プロンプトは、マイクに向かって話しかける。


ジジジジ… スピーカーはノイズを拾ったが、応答がない。


「あっちも、通信機に張り付いているわけじゃないし。間をおいて何度か呼びかえるしかねぇな」


ノクトは、慰めるようにプロンプトの肩を叩いた。


「とりあえず、お昼にしようよぉ」


と、キリクは、差し入れのかごに手を入れて、ライ麦のパンを取り出した。わっと、他のメンバーもかごに群がって、めぼしいものを手にした。プロンプトだけは、どうしても気が焦るのか、諦めきれずにまだ通信機に張り付いていた。


ーこちら、プロンプト。誰か、応答しませんかぁ?


もう、後にしろよ…とノクトが声を掛けようとしたとき…


ー…はい?!こちら、オルブビネ?!誰ですか??


と慌てた声が聞こえてきた。一同はまた、わっと沸き立って通信機の周囲に集まった。


ーこちら、プロンプトです!チパシの風車前から通信しています。どうぞ!


ーああ、プロンプトさん!!よかった!こちらは、学校の通信室から、イタキです!!いま、テヨを呼んできますね!!!


そして、通信機の向こうから、ばたばたと掛けて行く足音が聞こえた。イタキはよほど慌てているらしかった。


「やったね!!」


キリクがプロンプトとハイタッチした。ブディも、こぶしを固めてガッツポーズしている。プロンプトは、安堵して気が抜けたのだろう…ちょっと脱力している様子だ。


「キリク、頼む」


ブディがいうと、キリクは、おうよ、と勢いよく立ち上がって、そのまま身軽に、集落のほうへ掛けていった。ダゴールとアルミナを呼びにいったらしい。

しかし、その直後に、風が凪いだせいか、風車の動きが鈍くなった…明らかに電力が足りない…

ー…こちら…の… テヨ…


音は辛うじて受信しているが、途切れている。プロンプトが必死にマイクに呼びかける。


ーテヨさん?! こちらプロンプト! 今、電源が安定していなくて…聞こえていますか?

ー…て、…しか…でん…


ノクトは、悔しそうに風車を見上げる。電力は風しだいか…あるいは、羽を修理すればもう少しなんとかなるんだろうか…自然と、エドやブティも風車を見上げていた。男達の念が通じたのか、また風が強くなってきたように思える…


「その蓄電器…多少は電力をためられるんだよな?」


ノクトは、プロンプトに聞いた。


「うん…そうだね。ちょっと充電してみようか」


と言って、通信機のスイッチを切った。40分ほどたって、ようやく、慌てた様子で掛けてくるアルミナとキリクの姿が丘を登ってきた。キリクは時々振り返りながら、すぐに息があがって立ち止まってしまうアルミナに、発破をかけているようだった。丘をあがりきったときには、アルミナは、熱くなって真っ赤な顔をしていて、息はぜーぜーと激しい音を立てていた。


「アルミナ…通信をつなぐよ!」


プロンプトは、蓄電器のパラメータを見ながら、呼びかける。アルミナは、声は出なかったが真剣な顔で頷いて、通信機のマイクの前まで来た。プロンプトは通信機のスイッチを入れた。どうぞ、というように、アルミナに合図をしてみる。


ー…なに、もう、繋がってるの?


アルミナは、不思議そうにマイクのを見ながら呟く。その時、明らかに電波を受信して、スピーカーを通して音が聞こえてきた。何の音が、すぐにはわからなかった。


ーアルミナか…


その声は、誰のかわからないくらいに震えて、泣いているように聞こえた。


ーうん。そうだよ、テヨ。


アルミナは淡々と答えた。その途端、誰かの遠慮するようなため息と、泣き崩れるような嗚咽が聞こえていた。



















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