Chapter19.7-御山の使い-

アラネアは、納得がいかない。

今朝、ノクトがひとりで姿を消して、怒ったばかりだ。だというのに…今度は、夜になってもプロンプトが家に戻ってこなかった。クブニが、サヨイと一緒に出かけたところを見かけたので、家の者は誰も心配していなかった。


「そうかぁ、サヨイかぁ…」


と、シシヤはなぜかニヤニヤと笑って、満足そうに酒を飲んでいた。アラネアはぶすっとしている。


「あーちゃん、そう、すねないで」


ギンガは笑った。


「大人には大人の事情があるんよ」


ふん、とアラネアは、半開きになった縁側から外へ出る。月が煌々と山の上で輝いていた。

ルーナは、どこにいるんだろう?

アラネアは不思議に思う。ここへ来れば、すぐにでもルーナに会えると思っていたのに。

クブニがアラネアの気を引こうと、自分も縁側に出て、持ち出した小さな木製の笛を吹き始めた。手作りなんだろう、細い竹でこさえたそれは、音程は怪しかったが、不思議と儚げな音を奏でていた。


ああ… ルーナは、何か、歌を知っているかな?


なぜかアラネアの脳裏に、歌を歌うルーナの姿が浮かんだ。アラネアの思い浮かべるルーナは…いつでもやさしく笑っている。でも、なんだか、いつも寂しそうだ。


ノクトは…ルーナに会いに行ったのかな? だったら、一緒に行きたかったのに…


アラネアは、仕方がないなぁ とため息をつきながら、だらしのない大人二人を許すことにした。あの二人のことだから、きっと、あーちゃんが必要になってすぐに呼びに来る…

アラネアはいつものように、親子が雑魚寝する大部屋の布団のひとつに、もぐりこむ。クブニも真似して布団に入ってくる。クブニはいつも、何か話しかけてくるのだが、アラネアは、答える前に寝てしまうのだ…

ノクト…プロンプト… アラネアは、クブニの言葉に答えるかわりに寝言を言った。


ピチュピチュ…

いつもの通り、気の早い小鳥の声で、アラネアは目を覚ました。日はまだのぼっておらず、外はかろうじて白み始めたばかりだ。昨日、たくさん飲んだのだろう。シシヤが酷いいびきを立てている。ギンガや、チャンキも、いつもどおり、敷き詰めた布団の両端に、大の字になっている。ばあ様は、やっぱり自分の小さな部屋で休んでいるんだろう。

隣で寝ていたはずのクブニは、寝ている間にギンガのすぐ横に寄り添うように移動している…これも、いつもの朝の光景だ。

アラネアは、ひとりごそごそと布団を抜け出した。廊下をちょっと行った先の、ノクトたちの部屋をのぞく…やっぱり二人は帰っていない。

ふん! と機嫌悪く、そのまま居間のほうへ出た。そして、雨戸を開ける。朝の早いアラネアは、ここへきてから、いつの間にか雨戸を開けるのが自分の仕事みたいになっていた。

ここは…もしかしたら、自分の家かもしれないな、とアラネアは思った。しかし、すぐに首を振る。ノクトもプロンプトもいないのに、自分の家であるわけがない。


もう、今日は絶対!二人を捕まえるぞ!!


アラネアは心に決めて、ガッツポーズをした。このポーズはプロンプトがいつもやっているやつだ。真似をしてみたらとても元気になったので、気に入っているのだ。

そうこうしているうちに空は明るくなってきた。家の者が起きてくる気配があった。一番は、いつでもばあ様だ。ばあ様は、居間に入るなり頷いて、今日もまず、朝一番のお茶を入れることから始める。ばあ様がお茶を入れている間に、起きてくるのはギンガだ。ギンガは、ばあ様にちょっとだけ頭を下げて台所に入る。しかし、そのすぐあとにチャンキが続く。…チャンキより、シシヤが早く起きることもあるが、昨日たくさん酒を飲んだから、寝坊したようだ。

家の者たちがつぎつぎと起きて台所で立ち働きはじめると、アラネアは、縁側から庭に下りて、とりあえず、辺りをぐるっと走り回る。ここを朝走ると、いい匂いがする。今朝、芽が出たばかりの草や、開いたばかりの花の匂いがする。毎日、昨日とは少しだけ違う、いい匂いがするのだ。

はああああ…たくさんの匂いを嗅いで、胸が大きく膨らんだ。アラネアは満足する。ここは、本当に生きている匂いがするな…

家の方からいい匂いが漂ってくる。昨日、クブニとアラネアが川からとってきた小魚が、炭で焼かれているのだろう。アラネアは空腹を感じて、家の方へ向かった。いつものように、縁側でばあ様が朝一番のお茶を飲み終えて、たたずんでいるところだった。アラネアはその横から家に上がろうとした。

その時、背後から、誰か人の気配があったので、振り向いた。道の向こうから女の子が二人、こちらに向かってくるところだった。二人は、この辺の子たちとはちょっと違った服装をしていた…布地は一緒だが、なんだか模様が違う。ほかの子達よりも複雑に…そして、ちょっと素敵に見える。しかも、髪の毛は、ゆったりと赤い紐で結っていた。

女の子ふたりはよく似た顔している。一人はアラネアよりすっと丈が高く、お姉さんに見えた。もう一人はアラネアより少し小さい。どちらも、賢そうに、そして美しく見える。アラネアはちょっと気後れした。


「あれま」


縁側で一緒に女の子たちに気がついたばあ様は、驚きの声をあげ、すぐに台所にいる家の者たちに知らせに行った。


「ソノ様と、スイ様がお見えじゃぞ」


ばあ様の慌てた声が聞こえてきた。へえ、ソノとスイって言うんだな。

二人がアラネアの目の前まできて、無表情に頭を下げた。アラネアは、ちょこんと真似をして頭を下げる。


「ソノ、と、スイ?」


「はい、そうです」


お姉さんの方が、丁寧に答えた。


「アラネアだぞ。あーちゃんでいいぞ」


「アラネアさんですか…どうぞよろしくお願いいたします」


二人はそろって頭を下げた。


「父の使いで参りました…こちらのお宅にいらっしゃる、ノクティス様のご友人をお迎えにあがりました」


「ノクト!」


アラネアはその名前を聞いて飛び上がる。


「ノクトはどこに?!」


「さぁ…それは、父からは聞いておりませんが。アラネアさん…もうひとりの方はどちらに?」


「プロンプトはいないぞ!」


アラネアはぶっきらぼうに答えた。その時、家の中からシシヤが、恐縮した様子で出てきて、


「これは、ソノさま、スイさま。わざわざお越しいただいて…どうぞ、朝飯ができたところですから、上がってくださいませ」


と、やけに丁寧に挨拶した。


「いえ、父には急ぐよう言われておりますので…」


「そうですか…しかし、プロンプトさんは、オヨケ爺のところへ行っておりますので。すぐに使いをやりましょう」


「それには及びません。オヨケさまのところなら、よく存じています。これから、自分らで伺います」


「そうですか…」


シシヤは大変恐縮して、何度も頭を下げた。


「アラネアさん…朝ごはんをお召し上がりになりますか?私どもは一足先に、プロンプトさんをお迎えに参ります」


「一緒に行く!」


アラネアは迷わず答えて、二人のあとに続いた。


プロンプトは、酷い後悔の中にいた…ここの酒は、ダメだって言ったのに! しかし、結局、昨日はオヨケ爺のすすめるままに飲みすぎてしまったのだ。ノクトの身の安全がわかって、気が抜けたのもあるが、しかし、一番悪かったのは、サヨイがお酌したことだった。サヨイの、大人の色香に、プロンプトはすっかりまいってしまった。まるで、動じない様子で、オヨケ爺までも軽くあしらうサヨイは、プロンプトなんかは、もう、簡単に手のひらで転がせるのだ。プロンプトは、転がされる幸福感で、どうにでもなってしまいそうだった。

しかし、どんどん!! と激しく雨戸を叩く音で目が覚めてみると、その幸福感はふっとんでいた。なにぜ、酷い頭痛…そして、この酒臭い空間に、オヨケ爺の激しいいびきは聞こえてきても、サヨイの気配はない。


…だよなぁ


ちゃぶ台の横に、毛布もかぶらずに転がっている自分を見つけて、プロンプトはげんなりした。


サヨイさん…黙って消えるなんて…


と言っても、たぶん、サヨイがこの家を後にするころには、二人とも酔いつぶれていたのだろう。


どんどんどん!!!

雨戸が激しく打たれる。隙間から漏れる光で…もう朝がきていることは分かる。そんなに寝過ごしたかなぁ…と思って、なんとかプロンプトは体を起こした。


ープロンプトおおおおおお!起きろおおおおおおおおおおお!


アラネアの声が雨戸越しに響く。あ、あーちゃんか。プロンプトは、よろよろと雨戸に擦り寄って、そのひとつを、なんとか横に動かした…


「あーちゃん…ごめん…」


雨戸の隙間から顔出して、オレ、動けない…と言おうとしたが、黙る。アラネアの後ろに、目を見張るような美しい女の子が二人、ちょこんと立っていた。漆黒の髪を、ゆったりと紅の紐で結わえてあり、目も、髪と同じように曇りの無い黒い瞳をしていた。


お母さんは、きっと、とんでもない美人だぞ…


プロンプトはごくりとつばを飲み込む。


「プロンプト!起きろ!ノクトを迎えに行くぞ!」


「え?!あああ、そうか?!」


プロンプトはようやく、昨日の夜にオヨケ爺が迎えがくる、と言っていたことを思い出した。これがお迎えか…


確かに、女の子は、ただ美しいばかりでなく、神主の関係者らしく神々しさも感じる。プロンプトはすっかり恐縮して、慌てて顔を洗いに流しに向い、口をゆすいだり、なんなりと出来る限りの身なりを整えて、そして、表へ出てきた。晴れた空から容赦なく日差しが降りかかり、深酒のプロンプトにはこたえた。


「プロンプトさん、お休みのところ申し訳ありません」


ソノは、バカ丁寧に、酔いの残るプロンプトに頭を下げた。プロンプトは、自分もバカみたいに自分も頭を下げた。


「いえいえいえ。なんかすみません!」


アラネアは飽きれてその様子を見ていた。


「プロンプト、こっちはソノとスイだぞ」


「あ、そうですか。どうも」


プロンプトは、また、頭を下げた。


「それでは、参りましょうか・・・早い方がよいと思いますので」


「はい!」


図体ばかりでかいプロンプトが、へこへこしながら小さな女の子たちの後から続く。妙な一行が、朝の村を静かに行進していた。村人たちは家々から顔を出して、一行をものめずらしそうに眺めたり、ソノたちに向かって慇懃に頭を下げたりした。


クブニの家の前に差し掛かると、ギンガが包みを持って待っていた。


「弁当を用意いたしましたので、みなさまでどうぞ」


いつになくかしこまったギンガに荷物を手渡されて、プロンプトもなぜかかしこまって、


「あ、ありがとうございます」


とぎこちなく頭を下げた。

ソノとスイも、丁寧にギンガに頭を下げ、そしてまた先へと進んだ。歩き出してすぐに、アラネアの腹がなる。


「アラネアさん、どこかでお弁当を召し上がりますか?」


ソノは、ちょっと立ち止まり、美しい顔でアラネアを見た。アラネアは、プロンプトから握り飯の包みをもらって、歩きながらほおばった。ソノは、それを見て、ちょっと驚いた顔をしたが、すぐにもとの冷静な表情に戻って、アラネアの横を歩いた。


「うまいぞ、食うか?」


アラネアは、握り飯のひとつを、ソノとスイの方へ差し出す。二人は、顔を見合わせたが、ソノの方が首を振り、


「ご親切に有難うございます。しかし、食事は家で済ませましたので、お気遣いは不要です」


と、丁重に断った。

ふーん。アラネアは、つまらなそうに唸ると、今度はプロンプトの方へ差し出す。


「あー、ありがと」


プロンプトは、一瞬迷ったが、お握りを受け取って、かぶりついた。炊き立てのご飯で作られたつやつやの握り飯を見ると、にわかに食欲がわいたのだ。


「うまい!!」


シンプルな塩にぎりは、二日酔いには格別だった。


「だよなぁ」


アラネアも満足して、もうひとつ、お握りを取り出す。二人がうまそうにお握りに噛り付く様子を、小さいスイはじっと眺めていて、ごくりと喉を鳴らした。


「食うか?まだあるぞ?」


アラネアはすぐに様子に気がついて、持っていた包みの最後のお握りを差し出した。スイは、はっとして、恥ずかしそうに下を向いた。姉は、妹の様子に困惑していた。


「いけませんよ。アラネアさんは朝ごはんもまだなのですから」


「みんなで食べようよ。まだ、こっちにもあるからさ」


と、プロンプトはさきほど受け取った風呂敷の中から、他のおにぎりの包みを取り出した。スイはぱあっと顔を明るくして、そして、許可を求めるように姉の顔を見る。

はあ… 姉は、ため息をついて


「では…歩きながらでは少々行儀が悪いので、少し座りましょうか」


と、隠しからさっと、藤色の風呂敷を取り出すと、それを芝の綺麗な上に敷いて、妹を座らせた。スイはうれしそうにさっと、アラネアからお握りを受け取ると、姉の敷いた風呂敷に、きちんと足をそろえて腰を下ろした。


「さ、ソノちゃんもどうぞ」


プロンプトはにこにこして、もうひとつの包みを広げる。


「いえ、私は…」


ソノは、はじめ遠慮していたが、プロンプトの親切をむげに断るのも悪いと思ったのか、最後には恥ずかしそうにそっとお握りを受け取った。


「ああ、どうぞ、オレのハンカチでよければ」


とプロンプトは気の利くところを見せて、自分のハンカチをスイの隣の芝に敷いた。ソノは顔を真っ赤にして、ちょっと頭を下げると、やはりきちんと足をそろえてその上に座った。その様子をみて、なんだかアラネアはほっとして、自分は二人の前の地面にどかっとお尻を下ろした。プロンプトもすぐその隣に尻を下ろした。

4人は顔を見合わせる。スイはもう、無邪気におにぎりに夢中になっていたが、ソノはまだ少し恥ずかしそうに俯いていた。


ぷぷぷぷぷぷ。


アラネアが笑い出す。


ふふふ

プロンプトもつられた。


ソノも、堪えきれず、くくくく と笑いを漏らした。


「ピクニックみたいだねぇ。あー、いい気持ち!」


プロンプトはぐっと伸びをした。


「でも…ひとついただきましたら、すぐに行きませんと」


「大丈夫!オレ、ソノちゃんが怒られないように、ちゃんと説明するから」


ソノは顔を赤らめて、そして小さくうなづいた。ようやく安心したように、自分もお握りを食べ始める。


「おいしい!」


あっという間に平らげた妹の方が、ぱっと顔を明るくして言った。


「…ええ、ほんと。美味しいですね」


ソノも、にっこり笑って同意した。

結局4人は、もらったお握りを全部平らげてしまってから、ようやく腰を上げた。今度は、和気藹々とおしゃべりをしながら、4人は並んで歩いていた。


「ソノちゃんとスイちゃんは、御山に住んでいるんだねぇ」


「ええ… たまに、使いでこちらへ参ります」


「御山ってどのくらいで登れる?」


「私どもと一緒であれば…2時間ほどかと」


ソノは恥ずかしそうに下を向きながら、しかし、プロンプトと話しているのは嬉しいようだった。アラネアは、いつのまにか姉貴風をふかせて、おしゃべりに忙しい姉に代わって、スイの手を引いていた。


「お父さんて、神主さん?」


「いえ…父は、神主様の手伝いをしているものです。私の口からは詳しいことは…」


「あ、そうだよね。ごめんごめん!」


プロンプトは話を替えようと、カメラを持ち出して、3人に向けた。


「ほら、写真を撮るよー!」


なれないのか二人の姉妹は固まったようになった。


「あはははは。シノもスイも可笑しいぞ!!石みたいだ!!」


アラネアがげらげら笑うと、シノは少しむっとした顔をした。


「そんなことないよぉ、ほら、3人とも、とてもかわいく写ってる」


プロンプトはにこっと笑いながら、撮ったばかりの写真をモニターで見せてやる。シノは、やっぱり顔を赤らめて、スイは、わっ と、素直に興奮してみせた。

4人はすっかり打ち解けた感じになって、おしゃべりをしながらのんびりと道を進んだ。時折、村の子どもたちが、不思議そうに一行の様子を見た。ひそひそと、おい、シノのやつがわらってやがるぜ、なんて言っている男の子の声も聞こえた。


ふーん、まあ、あのころのダンシーにとっては、ちょっと近寄りがたい美人だよねぇ


プロンプトは可笑しくて仕方がなかった。


ようやく一行は御山の入り口まで来た。プロンプトは昨日の恐怖体験を思い出して、背中がぞわっとした。しかし、今日は正式なお迎えがある…怖いことは何も起こらないはずだ、と気を持ち直す。案の定、石段からまっすぐあがりはじめても、霧は湧いてこなかった。

もとより、怖いもの知らずのアラネアは、石段をとんとんと駆け上がってしまう。


「あの!あまりお一人で進まれては!」


シノが慌てている。

やっぱり、この子達とそばにいないといけないんだな…プロンプトはアラネアの後を追いかけて、大またで石段をあがった。


「あーちゃん!!ダメだよ!!この山は特別な山なの!!勝手にあがっていっちゃだめなの!!」


ぜーぜー息を上がらせながらなんとか追いつく。アラネアは不思議そうな顔をしていた。


「なぜだ?」


「なぜって…この村の人にとって大切にしてきた特別な場所なんだよ。だから、勝手に入ってもいけないし、登るときは、ちゃんと、シノちゃんやスイちゃんと一緒じゃなきゃいけない。でないと、神様のバチがあたるんだよ」


ふーん… とアラネアは納得がいかないようだが、それでも、ちゃんと、シノたちが来るのを待っていた。


「プロンプトさん、ありがとうございます!」


シノは、スイの手を引いて、ようやく二人の下にたどり着いた。


「アラネアさん、スイがまだ小さいので、もう少しゆっくり登ってもらえますか?」


「おう、わかった!」


そうかぁ、スイは小さいもんな。アラネア納得して、スイの隣についた。スイの横顔は、お人形みたいでとてもかわいい… よし、スイを笑わせてあげるか。


「スイ、スイ、面白いものがあるぞ!」


と言って、突然、プロンプトのカメラの紐をひっぱる。


「うわっ 危ないからやめて!!」


プロンプトが悲鳴を上げる。アラネアは、はっとして、手を離してから、


「あれ、あれ見せてよ、あの、歯の黒いの!」


「ああ、あれね…」


プロンプトはにやにやしながら、こどもたちに、つい数日前、黒い木の実を食べて撮った写真を見せてやった。

あ! と 姉妹は素直に驚いた顔をして、それから、妹の方は堪えきれずに、ぷぷぷぷぷぷぷ…と噴出した。


「し、失礼ですよ…」


と、姉は妹をたしなめたが、あはははははははははは!!!!!!アラネアが、腹を抱えて笑い出す。プロンプトも、うはははははははははは!!!やっぱサイコーこれ!!!と叫んだ。姉は、3人が笑う姿に呆気にとられながら、そして…


「あははははあははははは!!!!」


と、突然、堰を切ったように笑い始めた。妹のスイがびっくりして、一瞬姉を見たが、アラネアがシノを指差しながら、また笑い出したので、スイもまた、つられて笑い出した。4人がバカみたいに笑っている声が、静かな参道にしばらく響いていた。


「まあ、いけないわ…こんなところで大声を出すなんて。父に叱られてしまう」


と、涙をぬぐいならシノは言ったが、笑顔だった。


「本当だね。もう、神聖な山なのに…あーちゃんが笑わすんだもん」


「ちがうぞ!これは、ノクトの顔が一番オモシロイ!!」


写真にならんでいる3人は、みな、唇と歯が真っ黒になった状態で、にっと笑っている。アラネアとプロンプトはふざけた顔をしているが、ノクトだけが、真面目な顔をしてそんな口をさらしているので、余計滑稽に写っていた。


「ほんとだー!ノクトが一番ヤバイ!」


プロンプトは、また笑いがこみ上げてきた。


「まあ、この方がノクトさんですか」


と、シノは驚いて写真をのぞいた。


4人はあれこれ写真をのぞいたり、写真を撮ったり、それから、アラネアが考案したじゃんけんで進む段数を決める遊びをしたりして、なかなか進まなかった。日差しはゆっくりと傾いた。途中でお腹がすいたので、包みに残っていた蒸し芋をみんなで食べた。シノも、スイも、どんどん大胆になって行くようで、誰も風呂敷を敷いたりはしなかった。

イモを食べ終えて、さすがに昼もとおに過ぎただろうと一行が焦り始めたとき、そのまま上へあがる石段と、横へそれる道とに分かれた。そのまま上へ上がろうとしたアラネアをシノは止めて、


「上ヘ勝手に上がってはいけません。こちらに参ります」


と、横にそれる方の道を指差す。


「こっちは…?」


「はい、私たちの家があります。この御山を守る一族が住まっている地域です」


「ほ、ほお」


プロンプトは感心して、きっとこの美しい姉妹の母親にも会えるに違いないと、心を躍らせた。しかし、一行が道を折れて先に進もうとしたときだ。


ーおーい


と、頭上の方から呼びかける声がして、一行は立ち止まった。石段の上の方から、誰かが慌てて降りてくるのが見えた。途端に、シノは顔が青ざめ、縮こまった。


「父です…こんなに遅くなってしまって。きっと怒られます…」


シノはしょんぼりと俯いた。

え?怖そうな人かな… と、プロンプトも構えて見上げる。石段から、髭をあごまで生やした男が降りてくる…服装は、神職らしい、白くて長いローブだ。しかし、近づいてみると、顔はまるで穏やかで、見るからに娘には甘い人物に見えた。


「大丈夫じゃないかなぁ…」


プロンプトも安心して、つぶやく。


「随分時間が掛かったな!」


息を切らせながら男は、一行の前にたどり着いた。


「父様!!遅くなってしまってごめんなさい!!」


シノが体を硬くして頭を下げる。スイも、それを見て、慌てて頭を下げた。


「いや…無事ならいいんだが…こちらが、ご友人の方々だね」


と、父親はまったく腹を立てた様子も無く、やや生真面目な娘の対応に困惑しているようにも見えた。


「はい、プロンプトさんと、アラネアさんをお連れしました」


「そうか…よかった」


それから改めてプロンプトに向き直り、


「私は…ここで神職を務める、ユハ・リーベリという者だ」


「あ…!」


プロンプトは、ノクトから聞いた話を思い出していた。たしか、オルティシエでは別の名前を名乗っていた神官…


「ルーナ様を連れ出した人ですね!」


と、ずばり言われて、ユハは困った顔をする。


「話はおいおいとして…ノクティス陛下はこの上にいる。お連れしよう」


ユハは、はやばやと話を打ち切って、もときた石段を登り始めた。姉妹とはここでわかれた。シノは名残惜しそうにお辞儀をして一行を見送ったが、やがて、妹と二人で家の方へ歩いていった。アラネアは、石段の上から、二人に手を振る。


シノおおお、スイいいいい!また遊ぼうなぁあああああ


シノが律儀に、またお辞儀をしているのが遠くから見えた。





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