Chapter19.6-カメラは魔法より強し-

プロンプトは、寝過ごした。はっと、起きた時は、襖の間から差し込む日が、明らかに高くなっていて、慌てて飛び起きた。


うわっ、寝坊?!なんで?!


慌てて腕時計を見る…と、日焼けした白いあとが残っているばかりで時計がない…


え?!時計は?!軍用品をシドに改造してもらった特別仕様なのに?!


慌ててバタバタと布団を捲し上げる…とそこで、ノクトの布団がもの抜けのからなのに気がついた。ノクトの…バックパックもない。


あ… と、昨夜のやり取りを思い出す。時計、貸したんだっけ…

夜中になったはずのアラーム、全然気がつかなかったなぁ、と、頭をかき、土間へ出た。もう、とうに朝食の時間は終わったのだろう。誰もおらず、綺麗に片付いてある… その、調理台の上にふたり分のおにぎりと、付け合せが、お盆に乗せてあって、薄い布をかけて置いてあった。


「ありがとう〜っ♪」


プロンプトは迷わずお盆を取ると、ばあ様が寛いでいる居間に上がった。


「おはようございます…寝坊しました」


プロンプトは恥ずかしそうに、頭を下げた。


「なっさけねぇな、いちんち畑やって、へばったかよ」


婆様はいつものように縁側で茶をすすりながら辛辣なことをいい、しかし、しっかりと、プロンプトのためにお茶を入れてくれた。

てへへへへ。

出来の悪い孫のように愛嬌で誤魔化して、お茶を飲む。


「ヒゲのはどうした?」

「あ、ノクト? ええ、ええと」


昨夜にうちに言い訳を考えていたはずなのに、すっかり飛んでいる。


「あ、えーと…そうだ!車に、荷物取りに!そんで、近くをハイキングして、何日かキャンプもするって!」


はーん?

婆様は興味なさそうに聞き流して、


「じゃあよ、それ、みんな食べんかい」

「はーい!」


昨日の重労働のせいか、すっかりお腹を減らしていたプロンプトは、元気よく返事をした。

あー、プロンプト起きた!

庭の向こうからアラネアと、クブニが走ってきた。


「プロンプト!ノクトは?」

「うんと、うぐっ!」


慌てたプロンプトは、おにぎりを喉に詰まらせた。お茶を飲んでゲホゲホと咳き込むと、アラネアとクブニが、一緒になってゲラゲラ笑った。


「も、もう!こっちは苦しいんだから、ちょっとは心配してよ!」


プロンプトは涙目で訴える。


「悪い悪い」


全然悪びれていないアラネアの様子が、ノクトに似ていて可笑しい。


「あ、えーとね。ノクトは一度車に戻って荷物取りに行ったよ。それから2、3日出かけるって」

「え?!」

と、アラネアは驚いて

「ひとりで?!」


それから明らかに不満の顔をして、ぷうっと、頬を膨らませる。


「ひとりで行くなんて、ズルい!」

「まあ、まあ… ノクトも、たまには1人になりたいんだよ」


アラネアはプンプンして、クブニと、どこかへ行ってしまった。

追いかけると言いだすんじゃ、と思ってたプロンプトは、ほっと、胸をなでおろした。これで、オレも今日はのんびりできるっと、と思って立ち上がる。


「じゃあ、オレ、今日はあちこち写真を撮りにいってくるから!」

ばあ様は気のない返事をして、勝手にしろ、というように軽く手を振った。


プロンプトは機材のバックを背負って、意気揚々とクブニの家を出た。


「今日も、いい天気~!」


プロンプトのテンションも上がった。この田園風景…青々とした森…こんなのみたら、みんな驚くよなぁ。


あぜ道では早速子どもたちが遊んでいるのに出くわして、プロンプトはシャッターを切る。日差しの中で真っ黒に焼けながら駆け回る子どもたち… 


わぁあああ とこどもたちはカメラに気がついて寄ってきた。なにそれ?! とプロンプトに群がる。


「わ、まって!順番!順番!」


プロンプトはこどもたちに写真を見せてやる。


「これが、オレたちが来た、ルシスっていう国だよ」


イグニスたちと4人で映った王宮の写真を見せる。コンクリートの建物に、わああと、歓声があがる。それから荒野の写真…


「なんにもねぇな!」

「この谷の外はさぁ、ずっと10年間、暗闇の世界だったんだよ。だから植物もあんまり育たなかったし、お化けがたくさんでてさ」

「おばけ?!」


プロンプトが不適な笑みを浮かべながら、シガイの写真を一枚見せる。その途端、

きゃーーーー と奇声をあげて、こどもたちはクモの子を散らすように逃げていった。遠くで、ケタケタと笑う声と、うえーん、と泣く声が聞こえた。


あらら…小さい子には刺激が強かったかしら。苦笑いしながら、また、ふらふらと歩き出す。


あの恐ろしい闇の時代を知らずに育ったこどもたち、幸せだよね…でも、ルシスだって今頃…


プロンプトは、山の向こうを眺めた。確かあっちがルシスの方…と思って、美しい山並みにレンズを向け、シャッターを切った。


あと数年すれば…ううん、この一年で、きっと、世界はこんな風に回復していくんだ。


プロンプトに自然と笑みが浮かんだ。


それからぶらぶらとあぜ道を進んだ。そうだ、あの寄り合いにも行ってみよう…酔っ払ってろくに写真に取れなかったんだっけ。かわいい娘たちの顔が浮かぶ。あの子達…近くに住んでるのかな?会えるかしら…

うっすらとした記憶の中で、ノノカの膝枕が思い浮かぶ…夢だったのか、自信がないが、その柔らかい腿の感触が思い出される気がして…プロンプトは顔を赤らめた。


彼女たち…反則でしょ、あれは。


寄り合いは、あのときの喧騒とはうってかわって、静かだった。雨戸は開け放されており、奥の間のほうで、誰かが集まっておしゃべりに興じているようだ。


りっぱだなぁ… プロンプトは、その大きな茅葺の屋根に惚れ惚れして、シャッターを切る。寄り合いの建物は、その回りを立派な石垣に囲まれており、広い庭は、よく刈りそろえられた植木が並でいた。昔の領主の家かなにかだろうか…


あら… とシャッター音に気がついたおばさんが、縁側まで顔を出した。

「お客さんじゃないの、ちょうどいい!これから昼飯にするんで、あんたもいらっしゃい」

人のいい顔をにこにこして手招きする。プロンプトは、わっ と嬉しそうな顔をして、餌付けをされた子犬のように、母屋に寄っていった。奥から、わらわらと数人の、じいさんやおばさんが出てきて、若い客を喜んで囲った。


「ええと、なにしてたんですか?」

「あん?まあ、ここをちこっと掃除してな。あとは、畑をサボって陽気にな」

ぎゃぎゃぎゃ、と、歯の抜けた爺さんは不思議な笑い声を発した。若干酒臭かった。ははん、昼間からご機嫌か…


間もなく奥の台所から、花見でもするのかという、華やかなお重が運ばれてきて、案の定、酒のビンが何本か当たり前のように添えられてくる。まあ、ほれ、と早速プロンプトの杯に酒が注がれたが、プロンプトは苦笑いしながら、嘗める程度にしておいた。これ、強いんだよね…喉越しに似合わず。飲んだ翌日のしんどさを思い出す。


すっかり陽気になっているお年寄り連中を眺めながら、お愛想程度にお付き合いをして、寄り合いを後にした。


その先はまだ、いったことのない地域だ。小川は、この集落を縦断するように流れている。上流の方へ行ってみたら、面白い画が撮れるかもな…プロンプトは川沿いに進むことにした。寄り合いを抜けると、民家はまばらになり、集落のはずれ…という感じだ。川辺に咲く花々にカメラを向けながら進む…そいや、この川、釣りができるんじゃないかな。昨夜の夕飯に川魚の塩焼きが出たのを思い出した。いつもなら、すぐに釣りの話しになるのに、ノクトはまったく気に留めていなかったっけ…


ノクト、いま、どの辺にいるんだろう… もう、社までついたのかな。プロンプトは急に不安になって、あたりの山々を見渡した。どの辺の山なのかも聞いていなかった。


御山って言ってたっけ…


その時、小川の先でばしゃばしゃと音がした。ちょっと先の方で、こどもたちが遊んでいるのが見えた。はだしになって、川に入り、何かをさらっている。プロンプトは興味がわいて、こどもたちの方へ近寄った。


わあああ、プロンプトだぁ…! 子どもたちにはすっかり名前を覚えられている。

プロンプトは、土手から手を振って、ほら、写真とるよぉ!と声をかける。こどもたちは恥ずかしそうにきゃっきゃっと笑ったて、顔を隠したり、わざと変な顔をしてみせた。


「ねえ、何やってんの?」

「エビをとってんだよ」

「エビ?! この川で取れるの?!」


ほら、と言って、男の子が、手製の竹かごを引き上げる。覗いみると、白く透き通った小さなエビが、跳ねまわっていた。


「おおお!これ、食べれるの?!」

「食うか?」


男のは一匹を捕まえてプロンプトに差し出した。


「え?!このまま!?」

「うまいぞ」


プロンプトが戸惑っているのを見て、自分でその一匹を口に放り込んだ。男の子は、いかにもうまそうに、つるっとエビをひと飲みした。

へぇえええ…うまそうだな

プロンプトも、ごくりとつばを飲み込んだ。


「ほら」

と言って、男の子はもう一度、エビを捕まえてプロンプトに差し出してくれた。エビは、尾を押さえられて、男の子の手の中でぴちぴとと跳ね回っていた。逃がさないように慎重に受け取って、恐る恐る口に入れる。


ぴちぴち… 口の中でエビが跳ねる。

うひょっ プロンプトは慌てて口をあけそうになるのを押さえて、そして、思い切ってぷちっとひと嚙みした。その途端、エビの甘さが口に広がった。そのままごくりと飲み込んで、


「んまい!!!甘エビだ!!」


感動してみせる。

うきゃうきゃうきゃ…こどもたちは、大げさなプロンプトのリアクションに大喜びだった。


「もっと取ってやるよ」

「うん、ありがと!」


プロンプトはしばらくその場にしゃがみこんで、こどもたちの仕掛けや、その手に乗せてくれた美しいエビの写真を取った。


「あ、そういえばさ…君たち、御山ってしてる?」


何気なく聞いたのだが、その途端に、小さな女の子はギョッとして、そばにいた男の子にしがみつく。男の子は、馬鹿にしたみたいに笑って、


「御山なら、ほら、あれだよ」


と、指をさしてみせる。

川上の左手に、こんもりとしている山が見える。さほど大きな山ではない。


「へええ。あそこに社があるんだ?」
「近づいたらなんねえぞ」
と、一番体の大きなガキ大将風情が、脅しけるように言う。

「近づいたら死ぬぞお」
他の男の子も、囃し立てる。
「え?!死ぬの?!なんで?!」
しがみついていた女の子は、怖い話はもうやだ、と言うように首を振る。

「霧に殺されるんだ」
「霧の中を死ぬまでさまようんだ」
男の子たちはそろってニヤニヤと笑うが、小さな女の子は心底気味悪だっているようだった。

あれかな、こどもたちの、肝試し的な…


「わかった、入らないようにするよ」


礼を言って、プロンプトは子どもたちのそばを離れた。そのまま、御山を見てこようと上流に向かったが、急に薄気味悪さを感じた。

もともと、怪談とか、苦手なんだよね… 

子どもの前では平然を装っていたけど、内心はドキドキしていた。急に静かになったな、と、思って振り返ってみると、先ほどの場所に、子どもたちの姿はなかった…

ぞぞぞ… と背中に悪寒が走って、プロンプトは身ぶるいする。まだ、十分に日は高くて、変わらすのどかな風景が広がっているのに。

プロンプトは、武器を構えるように、カメラを構えて、気を紛らわせようと、無駄にシャッターを切った。


ちょっと近くまで行って、それから帰ってこよう…


ビクビクしながら川沿いの道を進む。時折、魚が川の中で跳ね、プロンプトを驚かせた。御山は、ここからみる限りは霧がかかっているようには見えなかった。


これじゃ、なかったかな…?

川沿いの道を離れて、少し山の中に分け入ってみた…その先に、神社の参道のように石段がはじまっているのが見えた。木々の合間から覗く石段が、いい雰囲気だったので、プロンプトは怖さも忘れて思わずカメラを構えたーその時、レンズ越しに、急に地面から霧が沸き立角が見えた。


うわわわわ!
プロンプトは慌ててシャッターをおしたが、そのまま川の方まで走って戻った。振り返ると、まるで追いかけるように霧が沸き立つ…それどころか、先ほどまで晴れていた空に、雲がかかりはじめていた…

マジ、やだ!今、ひとりだし!!

プロンプトは、すっかり縮み上がって、元来た道を走り始めた。息が上がっても、足を止めなかった。ようやく、立ち止まって冷静になったのは、寄り合いのそばまで来てからだ。寄り合いの建物から賑やかな歌声が聞こえて来た。息を整ようと、苦しそうに前かがみになる。そして、ようやく顔を上げると、来た道の方を振り返った。そこには、よく晴れた夕暮れの空があった。御山は、手前の山陰に隠れて見えないが…しかし、その先の空も、見渡す限り晴れている。

こ、これは、マジだよね?!


プロンプトは、先ほど一枚だけシャッターを切った写真を、見てみた。

…霧がない。写っていたのは、青々とした木々の合間から、平和な日差しが差し込む石段の風景だ。


オレ…確かに、レンズ越しにあの霧を見たんだ…


「あら、プロンプトさん」


声をかけられて振り返ると、風呂敷に包んだ荷物を両腕に抱え、サヨイが立っていた。


「どうしたの、顔色が悪い」

「あ、えええと…」


プロンプトは、悪さを見つけられたみたいにどきどきしながら…しかし、サヨイなら、ノクトの味方のはず…と思い直した。


「あの、御山…て、入っちゃいけないんですか?」


思い切って話題を振ってみる。


「ああ…」


とサヨイはちょっと困った顔をして、首を傾げてから。


「あそこは…よく霧が掛かるので、慣れない人が入るのは危険なの」

「それ…魔法ですよね」


途端に、サヨイは難しい顔して、そして、じっとプロンプトの目を見つめ返した。プロンプトも、真剣な目をして見返した。二人の間にけん制しあうような、緊張した空気が張り詰めた。


「ノクトが…御山に入りました」


プロンプトが思い切って切り出した。

サヨイは、はっと表情を変えた。


「それは…いつ?」

と、心配そうな表情を見せる。


「昨日の夜中です」

「まあ…」


それから、考え込むようにぎゅっと目を閉じて、俯いた。プロンプトは、すがりたい気持ちで、サヨイが何か言い出すのをじっと待っていた。

やがて、サヨイが目を開けたとき、その目は何か覚悟したように強い力を放っていた。


「わかりました。ちょっとこちらで待っていて」


サヨイはそういうと、一人で寄り合いに入っていき、縁側で賑やかにしているおじいたちに荷物を受け渡した。しばらく和やかな会話が交わされたが、ほどなくしてサヨイは、通りまで戻ってきた。


「さ、行きましょう」

「え、は、はい?!」


サヨイが怖い顔をしているので行き先を聞くのも躊躇われた。プロンプトは、ただ、颯爽と歩くサヨイの後に続いた。はじめはクブニの家に向かうのかと思われたが、やがてその前を通り過ぎた。


「ええと、どこへ行くんですか?」


プロンプトは恐る恐る聞く。


「オヨケ爺のところへ。御山のことなら、オヨケ爺に頼むしかありませんから」


サヨイは振り向きもせずに答えた。

時々、二人を見つけたこどもたちがわああ っとよってきて、何事かとはやし立てたが、サヨイが、きっと 厳しい目を向けたので、こどもたちは自然と押し黙って二人から離れた。


サヨイねぇさん…頼りになるわぁ


プロンプトは心強かった。

サヨイは迷いなく道を折れて、オヨケ爺の家へまっすぐに進む。日が暮れてきて、その足が速くなる。オヨケ爺は、日暮に向けて、ちょうど雨戸を閉めようとしていたところだった。二人が怖い顔をして向かってくるのが見えて、おやっ と不思議そうに縁側に立ち尽くしていた。


「なんだい、変わった組み合わせだな」

「オヨケ爺、忙しい時間に悪いんだけど、上げてもらえる?急用なの」


サヨイは物も言わせぬ勢いで、そのまま爺さんの家の玄関から上がりこんだ。プロンプトはどぎまぎしながら、ちょっと爺さんに頭を下げ、そして自分もサヨイのあとに続いた。

サヨイは勝手知ったるようにまず、雨戸を閉めるのを手伝った。それから、断りもせずに台所に入って、3人分の茶をいれ、つまめるようにと漬物まで出してきた。


「酒はねぇのかい」


ふん、とオヨケ爺が不満そうに言う。

サヨイは、聞いちゃいない様子で、黙ったままちゃぶ台に、お茶を並べる。オヨケ爺さんは、しぶしぶお茶を飲んだ。サヨイが、自分はお茶を飲まずにじっとその様子を見つめている。何事がはじまるのかとプロンプトは緊張して、ただ、サヨイとお爺を交互に眺めた。

オヨケ爺さんがお茶を2,3口すすって、それから、湯飲みをちゃぶ台に戻したときだ。黙っていたサヨイは、ちゃぶ台から少し後ろに下がって、三つ指をつき、真剣な目をしてオヨケ爺さんに向かい合った。


「ノクトさんが、昨夜御山に入ったそうです。どうぞ、助けてやって」


そして、頭をたたみにこすり付けるようにして、下げる。

プロンプトは、その、よどみのない動作が、あまりに美しく、ひとつの様式美であるように感心してしまった。しかし、サヨイは、すぐに、プロンプトが呆然と自分を見ているのに気がついて、


「さ、プロンプトさんからもお願いして」


と言うので、プロンプトは慌てて、自分もサヨイを真似て、土下座をした。


「勝手に入ってすみませんでした!ノクトを助けて下さい!!!」


はああ… とあきれたようなため息が、爺さんのほうから聞こえた。


「そういうことかい…」


サヨイがなかなか頭を上げないので、プロンプトも、ちらちらとサヨイの様子を伺いながら、じっと頭を下げたまま耐えた。


「こらえ性の無い男だね。あんだけ釘を刺したんだが…」


オヨケ爺はうなるばかりで、良い返事をしない。サヨイは耐えかねて顔を上げると、


「あんたも情けがあるだろう。こんな遠くまで大切な人を探してにきたんだよ。神主様は何かご存知なはずじゃないか」

「サヨイ!」


とオヨケ爺は、激しくしかりつけて


「めったなことをいうもんでねぇ!お前、掟を破るたぁ、その覚悟があるのか!」


サヨイは、さっと青ざめて、そして口惜しそうに唇をかんだ。途端に勢いを失ったサヨイを見て、プロンプトは、形勢が不利になったと感じた。


なんとか…しなくっちゃ…


「あ、あの…これ、見てください!!」


プロンプトは、カメラを取り出して、先ほど御山を撮った写真をモニターに写しだした。このような最新式のカメラを見るのも珍しいらしく、二人は、しげしげとカメラを眺める。


「これ、さっき、撮ってきた御山の写真です…綺麗でしょ」


森の中にたたずむ石段に、柔らかい午後の光が差し込んでいた。なかなか趣がある写真に、サヨイは、感心したようにため息をついた。


「綺麗な写真ね」

「そうでしょう」


プロンプトは、にやっと笑って


「でも、これ、オレが見たときには霧に覆われていたんです。ものすごい勢いでね…」


二人は、プロンプトが何を言わんとしているのかわからない、と言った表情をした。


「ええと、こほん」


プロンプトは思わせぶりに溜めて


「つまりね…霧はオレの目には見えたけど、カメラには写らない。…神主さんの魔法は、カメラには効かないんだ」


プロンプトは後には引けない、と思って、出来る限り強気に見せた。二人は驚いて写真に見入っていた。お爺は…難しい顔をして腕組をする。


「助けてくれないなら…オレ、これからノクトを助けに行きます。このカメラが、あれば、たぶんあの山も上れるはず。オレの目をごまかせても、カメラはごまかせないから」


そして、もういてもたってもいられなくて、立ち上がろうとした。オヨケ爺は、いまいましげに、


「まあ、まて!」


と、プロンプトを止めた。


プロンプトは…顔色を変えないまま、しかし、内心では形勢が逆転していることを感じて、大人しく、元の位置に座った。


ふうううう… とオヨケ爺は、息を吐く。辺りはもう真っ暗になっていて、ちゃぶ台の裸電球が、やたらと寂しい光をはなっている。


「まあ、まて…神主も、命まではとるまいて」


オヨケ爺は、すっかり元気がなくなっていた。


「外の機械には、村の神様の力が効かないか…そうかい…」


と残念そうにつぶやいた。


「そりゃ…」


とサヨイは何かを言いかけて、それから慌てて口摘んだ。

3人の間に、妙な沈黙が訪れた。


「ええと…じゃあ、ノクトは」

「ああ…いまごろ、上でも困って、こっちに使いをよこすだろうて。今日来なければ…明日だな。明日の朝まで待ちな」

「ほんと?!ほんとに、ノクトは無事なの?!」

「…ほんとさ。神主が今の代になってから、ほんとに命をとられたもんは、ただひとりもおらんよ。オレのこどものころにはな、それはそれは厳しく、見せしめに死んだものもいたもんさ」


はああ… とお爺は気が抜けた様子で、ちゃぶ台のまえで姿勢を崩した。


「おい、酒くらいだしてくれよ…」


はいはい…サヨイはもう笑顔になって、そそくさと台所へ消えた。プロンプトも、爺様と同じように力が抜けて、へたへたとたたみの上に伸びた。


「よかったぁ…オレ、もうどうしたらいいか、わからなくて」

「たくよ、外のもんは、とにかくせっかちでいかんよぉ」


オヨケ爺は迷惑顔で言った。


この調子なら…きっといずれは、ルーナ様に合わせてもらえるんだな。


プロンプトはすっかり安堵して、台所で立ち働くサヨイの後姿を、うっとりしながら眺めていた。







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