Chapter18.9-大きいアラネア-

うひやああ

本家アラネアの登場がよほど嬉しかったのだろうか。プロンプトはおかしなテンションで反撃を始めていた。といっても、魔道兵の多くは2隻の飛行艇の攻撃に引き付けられていて、こちらは、車を守るために残党を片付けているようなものだ。

大きいアラネアは一太刀ふるごとに、なぎ倒すように魔道兵を蹴散らしていく。その動きは、まったく10年前と遜色がない。

プロンプトがまだまだ美しいといっていたが…確かに、ここから見る限り10年の月日が感じられない。

ばけものだな… ノクトは苦笑する。

小さいほうのアラネアは、大きいアラネアの動きに見とれて、自分も真似をするように魔道兵の固まっているところへ突っ込んでいった。アラネアのその小さな体に似合わず、かなりの衝撃があったものと見えて、魔道兵たち数体がなぎ倒されていた。

「おい!!アラネア、調子に乗るな!!」

ノクトが慌てて助太刀に走りよる。

「はあ?!なんだって?!」

アラネアが次の一団をなぎ倒しながら、ノクトを睨み付ける。

「ちがう、ガキのほうだから!」

ノクトは慌てて、小さいアラネアのほうを指差して見せた。大きいアラネアは、首を少しかしげて、それから、まあ、いいや、というほうに、次の集団に踊りかかった。

ったく…ややこしいな

車の周囲がおよそ片付いたので、プロンプトも姉貴分のそばに行って加勢していた。

「姉さん、あの子もアラネアって名前なの。あーちゃんって呼んでるけど」

「ふーん、そうなんだ?チビの癖に、なかなかやるじゃない」

大きいアラネアはふふん、と笑って、魔道兵に突っ込んでいくこどもの姿を見ていた。

日がとっぷりと暮れたころ、魔道兵のほとんどは片がついていた。2隻の飛行艇は開けたところに降り立って、乗り込んでいた一隊が残党を片付けに出てきた。1隻は崖下ちかく、残る1隻は頭領のアラネアに誘導されて、ノクトたちの車両のそばにつけた。

ノクトたちはもう戦闘をやめて、のこりの掃討を彼らに任せた。

ノクトとプロンプトは、ぐったりと疲れきって、車にもたれかかる様にして座り込む。

「し、死ぬかと思ったね…」

「そだな…」

小さいアラネアは、まだ元気と見えて、大きいアラネアのそばにいって興味津々その黒い兜の中を覗こうとしている。2隻の飛行艇は魔道兵を照らすべく大型の照明であたりを照らしていたが、それでも大きいアラネアの黒の衣装は、夜の中に溶け込んで見えた。

「ふふ。こいつが気になる?かぶってみるか?」

アラネアは兜を脱いで、小さいアラネアの頭に被せてやった。喜んだアラネアは、その頭をノクトたちに見せにくる。

「どうだ?!かっこいいか?!」

「ああ、かっこいい、かっこいい…」

ノクトは棒読みで答える。チビのうしろから大きいのもやってきて、

「情けないねぇ。女二人ぴんぴんしてるのに、そっちは伸びてるの」

と、厳しい言葉をかける。

「…あはははは。ねぇさん、かんべんしてぇ。昨日も激しくやったばっかりなんだから」

プロンプトが泣き言を言う。

「シャンアール城は無事か?」

ノクトがぐったりと座ったまま聞く。

「ああ、あっちはウェッジ隊が片付けたから。今、ウェッジが城に入って城主と話をしてみるみたいよ。さっきちらっと聞いたところでは、人的被害はなし」

「そうか。よかった…助かったわ」

アラネアはノクトを見下ろしたまま、呆れたようにため息をつく。

「まったく、人助けするキャパもないくせに、あんたたちもよくやるわね。3人で乗り込んでどうするつもりだったの?」

「…さあな。ほかにできることも思いつかなかったからな」

「あきれた。10年前の旅でもそんな感じだったの?つくづく悪運が強いわね」

「どーも」

それから4人は、ケルカノに新しく立ち上がった支援協会の本部と連絡を取るために飛行艇に入った。飛行艇の通信機はかろうじて電波を受信していた。

「気づいていると思うけど、ケルカノでアコルド軍のちゃちゃが入ったのよね。それで、無線のチャンネルを変えたから」

アラネアは無線の新しいチャネルを二人に教えた。

ー支援本部、アラネアよ。ああ、大きいほうのね

と呼びかけたところ、いきなり野太い笑い声があがった。だぶん、リカルドだろう。

ー本部のリカルドだ。その調子だと間に合ったようだな。

ーええ、ぎりぎりね。実際、死にそうになってたわよ。ね?

ノクトは苦虫をつぶしたような顔をして、通信を代わった。

ーこちら調査班。シャンアールの状況はすでに報告を受けていると思うが…

ーああ、さっきウェッジから連絡を受けている。無事、領主とも話が通じたし、こちらは問題ない。大手柄だったな。自ら囮になって魔道兵を引き付けたって?

けけけけけけけけ。

リカルドが相変わらず、嫌味な笑いを返す。

ー…そのつもりはなかったんだがな。結果的にそうなった。

ノクトは軽い頭痛を感じた。

ーところで、ブランシェル手前に設置した中継器がたぶん故障したと思う

ー了解。それはいいさ。飛行艇が手に入ったからな。あとはこっちで必要なだけ設置させてもらう。これにてアコルド政府の依頼は完了だ。ご苦労だったな。

ーそれじゃぁ…

ー軍と通信したんだろ?あいつらには、せいぜい、かわいそうな最後だったって、恩着せておくぜ?

けけけけけけけけ。

ノクトは苦笑する。しかし、協会に対しても大儀は果たせたようでほっとしていた。

ーそうだ、バンアールの領民たちは…

ー昼ごろ、無事についたよ。英雄だってな!さらに名を上げたな。協会としては、このまま旅に送り出すのは、おしいくらいだよ。だが…行くんだろ?

ーああ…行く。世話になったな

ーばーか…

二人の間に、しばし沈黙が横たわった。たかだか数日の付き合いだったが、深い信頼が生まれているような気がしていた。

いつの間にか、頼りにしてたな…

ーカメリアとグスタフは…大丈夫なのか?

ー心配するなよ。それはこっちの話だ。オレに任せておけばいい

リカルドは、わざと明るい声を送ってきた。ノクトには、荒っぽい男の、いつにない心遣いが、よく分かった。

頼んだぜ…

ー了解だ。あんたがいれば、問題ないな。

ーそういうこった。では、いい旅を!また会えるのを楽しみにしてるぜ

ーああ、そうだな。

通信は切れた。

横に立って聞いていたアラネアは、にやにやと笑っている。

「なんだよ」

「別に。グラディオたちが聞いたら、やきもち焼くんじゃない?なかなか、モテモテみたいよね」

ノクトは、相手にしまいと話題を変えて

「ところで、グラディオたちは、ケルカノに来ているのか?」

と聞いてみた。

「来てないわよ。うちの部隊の半分とハンターをつれてきたの。一応、いっておくけど、私もちゃんと長官をやめて、ハンター協会の所属できたんだからね」

「そうか…いいのか、レスタルムのほうは」

「いいもなにも、日が昇ってから暇で暇で!」

と、アラネアは大げさに首を振って見せた。

「こっちの方が仕事がたくさんあるみたいだから。さっそく退屈しなくってよかったわ」

満足そうに笑う。

そりゃ、よかったな…

ノクトは呆れて、苦笑する。

はた、と見ると、通信機の横で、プロンプトが小さいアラネアを抱きかかえたまま眠っていた。抱きかかえられたアラネアも、今は、もう、すやすやと眠っている。

無理もないな… 

ノクトは、大きいアラネアと顔を見合わせて笑った。


翌朝、日の出とともに飛行艇はノクトたちの車を載せて離陸した。はじめて空を飛ぶ様子に、小さいアラネアは目を丸くして窓に張り付いていた。飛行艇で行けば、目指すタガニア山脈まではすぐだ。

はじめ、タガニア山脈まで飛行艇で連れて行って欲しいというノクトの要請に、本家アラネアはいい顔をしなかった。

「あたし、あんたの臣下でもなんでもないのよ?」

と言っても、それはお決まりのノクトいじりだったようで、ノクトが意気消沈して黙ってしまうと、にっ と笑って、

「仕方がないわね。この貸しは高いから覚悟しておいて」

と付け加えた。

結局、アラネア隊から燃料の提供もしてくれ、ノクトたちは目的地のそばまで十分な物資のある状態でたどり着けることとなった。

シャンアールに立ち寄れば、最悪ケルカノに戻ることになる、と覚悟を決めていたが…ノクトは、飛行艇の窓から空を眺めながら、導きを感じずにいられなかった。そして、クオルテが伝えた意味がようやくわかるような気がしていた。

自分に必要なことが、すべて目の前に起こっている…それに従うだけでいいんだな。

この先も、何が起こっても受け止められるような、不思議な気分がしている。

「ほんとはさぁ、このまま、帝都のほうまで見て回ってこようと思ってたんだけど」

と、アラネアが残念そうに言う。

「釘刺されてるのよね。2国間協議の直前に、刺激するのはやめてくれって。意外と頭固いわよ、あの片目の軍曹」

プロンプトが、えええ?!と驚く。

「リカルドを頭が固いとか言う、姉さんは、どんだけなの?!」

「よく、長官が務まったよな…」

と、ノクトもプロンプトに同意する。当のアラネアはまったく聞いていないように二人に背を向けた。

「ところでさぁ、ねえ、アラネアちゃん?」

と、姉貴分は小さいアラネアの横にしゃがみこんだ。アラネアは、ちょうど、操縦席の機械が気になって覗き込み、操縦士を困らせているところだった。

「ふふん。あたしたち、同じ名前なのね」

お、おー

小さいアラネアは、何事かと姉貴分を見る。

「あなた、なかなかいい動きするじゃない。訓練すれば優秀な傭兵になれるわよ。どう?あたしと一緒にこない?」

え?… と、ノクトとプロンプトは二人のほうを見やり、じっと事の成り行きを見守る。

小さいアラネアは不思議そうな顔をして、しかし、なにやら迷っているようにも見えた。

「この頼りない二人にくっついていくのもいいんだけど、お姉さんにくっついてきても楽しいんだと思うんだなぁ」

「お、おお?」

うーん、と小さいアラネアは唸って見せて、それから、ちらっと、ノクトとプロンプトのほうを見た。それから、にかーっ と笑って

「ノクトと行く!あーちゃんが、助けてやらないといけないからな!」

と答えた。

「あははははは。そりゃそうだ。じゃあ、二人をよろしくね!」

大きいアラネアは、くしゃくしゃと小さいアラネアの頭をなでて笑った。

ノクトとプロンプトは顔を見合わせた。プロンプトはおかしそうに笑っていたが、ノクトは、ほっとしたんだかしないんだか…嬉しいんだか悲しんだか…単純ではない自分の感情を感じていた。もちろん、今となってはこの3人あってこその旅の仲間という気はしている。

ま、しゃーないな…

最後は自分を納得させるように呟いていた。

飛行艇は山脈を越えるために高度を上げていった。ユセロ地方に入ったのだろう。突然、砂地が白い雪化粧に変わる。その先は、見渡す限り雪山だ。そこから飛行艇は向きを変えて北上をする。雪景色が終わり、かつて、緑深い山間であったのが目指すテネブラエだが…いまの風景と地形を正確に予測できるものは誰もいない。

操縦士は、逐一、今の地形と昔の地形をにらめっこしながら慎重に進路を選んでいる。

「このあたり…集落はないな」

ノクトが眼下に広がる山野を眺めながら呟く。

「まあ、もともと、この辺には人は住んでなかったのよ。テネブラエのあたりも、大方、うちの部隊がルシスへ避難させてるしね。完全な廃墟だと思うけど」

アラネアは淡々と言う。

忘却の地… まだ、残っていればいいが。

荒涼とした大地を眺めながら、ノクトは祈るような気持ちになった。

昼近くになって、飛行艇はようやく雪山を越えた。その先は、やや茶色の地面が目立つが、ところどころに植物が繁茂する地域だ… 陸地の形をなぞると、およそ、テネブラエの位置がわかるが…そのあたりにはかつて見たような美しい深緑はない。黒々とした植物と、ところどころむき出しになった茶色の地面。ノクトたちの目指すのは、そこより手前の山脈沿いだ。

上空から見えると、テネブラエから帝都までの線路が、著しく破壊されて、分断されているのが、ここかしこに確認できた。途中、山崩れを起こして、完全に土に埋まっている箇所も見える。

「どうだ、近くに着陸できそうか?」

ノクトは操縦士の脇について、モニターの様子を伺う。

「どうでしょうね…道路も、寸断されているみたいに見えますよ。降ろせる場所が見つかっても、その先に車を進められるかどうか…」

「構わない。どの道、最後は歩きだと踏んでいたからな」

アラネア隊に物資を提供してもらったおかげで、徒歩片道5日分くらいなら進められそうだった。

「あのあたりかな…じゃあ、降下しますよ」

操縦士は、山脈の手前、開けている場所に狙いをつけて、飛行艇を降下させた。陸地に近づくにつれて、その荒廃の具合が良く分かった。確かに、帝都やテネブラエにつながっていたはずの幹線道路は軒並み分断されて見える…起伏が激しいこのあたりの土地では、土砂崩れも多かったようだ。

しかし、その一方で、一行は不思議な光景を見る。タガニア山脈の一画が、10年前とかわらないような青々とした緑を残していたのだ。

あそこか…

ノクトは胸が高鳴るのを聞いていた。

「不思議な場所があるもんね。地形の影響かしら?」

大きいアラネアも不思議そうにその光景を眺める。

「あそこが目的地なの?」

「たぶんな」

飛行艇は、その緑の残る一画につながる山すそあたりに、着陸した。もとは畑だったのだろうか?開けた平らな場所があり、その横にちょうど、車道が残っている。見たところ、山のほうへ続いているように思える…

この道だ…

ノクトたちに不思議と確信めいたものが沸き立って、思わずプロンプトもガッツポーズをしていた。

ノクトたちは車を飛行艇から下ろした。見送りに出ていたアラネアに向き合う。

「世話になったな」

「念のため言っておくけど、これは、貸しよ?」

「わーてるって。なんならイグニスに請求書を回しといてくれ」

「本気?」

アラネアが目を大きく見開いて、ノクトを見返す。

「…いや、冗談だ」

ノクトはばつが悪そうに目を伏せて首を振った。

「よねぇ?あんまり調子に乗ると、あの子達も切れちゃうわよ」

ふふふ。アラネアはおかしそうに笑う。

「まあ、せいぜい、自分の思う道を行きなさい。どうぜ、わがままに生きるなら、とことんやり抜くのね。そういうの、中途半端にするとあとがめんどくさいから」

ノクトは苦笑して、何も言わずにアラネアが飛行艇に乗り込むのを見送った。いや、それはあたっていないようであたっているかもしれなかった。アラネア隊の飛行艇は、躊躇なく離陸して、そして、ケルカノの方向へ飛び立っていった。

「さあて。いよいよ、ここまで来たね!」

プロンプトが興奮して言う。

「いっきにここまでこれるなんてさ、超ラッキーじゃない?!」

「そうだな」

アラネアはいつまでも飛行艇に手を振り続けていた。あいつの視力だと、まだ空のかなたに飛行艇が見えるのかも知れない。

「あの人もアラネアっていうんだなぁ」

ふと、アラネアは呟く。今頃になって納得がいった様子だった。

ノクトとプロンプトは顔を見合わせて笑った。大きいのと小さいの、どことなく似ている二人だと思った。

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