Chapter18.8-魔道兵の行軍-

ノクトたち一行が、駅構内にたどり着いたとき、人々は、一斉に拍手をして歓声を上げた。ノクトたちは唖然となった。彼らはこの高架の上から、鉱山での一部始終を、固唾を呑んで見守っていたらしかった。若い母親は赤ん坊を抱きながら涙し、こどもたちははしゃいで踊るように跳ね回っていた。農夫たちは安堵の顔をして、妻や娘と抱き合っていた。老人たちは、黙ってノクトたちに手を合わせて拝んだ。その歓声は、なかなかやまなかった。

やがて、イヴァンが一行の前に歩み出て、目を潤ませながら、深々とノクトに頭を下げた。

「ヴァンアールの領民を代表いたしまして、深く御礼を申し上げます。あなた方は我々の救世主です」

そして、フィリアとローラン二人にも熱い抱擁をした。いつも冷静沈着な主人から、思いがけず感情的な抱擁に、二人も目頭が熱くなっていた。

絶望をしていた人々に、希望の火が燃えついたのだろう。300人の集団がとたんに賑やかになり、キャンプは活気だっていた。こどもたちも、はしゃいで、走り回るのをやめられなかった。アラネアはすぐにその集団に混じって、この数日、鬱屈としていた子どもたちと、おおいに騒いでいた。

ノクトたちは、すぐに、中継器の設置に取り掛かった。ノクトが目をつけておいた、非常階段脇の、崖に迫り出したポイントに、中継器は設置された。人手が多かったので、非常階段から少しせりあがったその場所へ必要な機器を引き上げるのも、すぐに片がついた。

中継器がうまく起動して、無線機が無事に電波を受信したのは昼過ぎであっただろう。

ーこちら、調査班。カルタナティカ駅より報告。ケルカノ支部、応答せよ

ーこちらケルカノ支部。調査班、無事で何よりです。昨日連絡が取れなかったので心配しましたよ

若いハンターの声が返ってきた。

ー悪いな。ちょっと電波が悪くてな

ノクトは、ケスティーナの悪魔の1件を報告した。受け答えたハンターは驚きの声を上げていた。

ーそれほど大型の野獣が生き残っていたとは…

ーああ、こちらも驚いた。とにかく、討伐は成功だ。これより、バンアール領民およそ300名がケルカノに向けて出発する。

ー了解です。こちらも受け入れの準備をします

ーところで、ルシスの救援部隊は到着したか?

ーええ、昨日遅くに。今、対策本部を新しく立ち上げているところです。こちらの通信も、新しい本部に引き継ぐ予定です

ー了解した

それからノクトは、彷徨える魔道兵の行軍についての報告を行った。できればリカルドと話をしたかったが、彼は、ルシスの救援部隊との打合せに入っているとのことだ。

まいったな…

直接軍と話すにも、リカルドがいなければパイプがない。

ーこれから、次のポイントをめざす。できればリカルドと連絡を取りたい。いつでもいいから連絡をもらえるか

ーわかりました。なるべく早く、ご連絡が取れるようにします

若いハンターの緊張した声が返ってきた。

プロンプトが、どうするの? と、聞きたげな顔で覗き込む。

「ルシスの応援部隊との協議に入ってるらしいからな…しばらくは連絡がとれないかもな」

「連絡を待つ?」

うーん…ノクトは考えて、

「いや、先に発とう。連絡がいつになるかわからない。シャンアールに駆けつけるなら早いほうがいいだろう」

プロンプトも、うなづいた。

横で聞いていたイヴァンは、幼さがにじむかわいらしい顔になって、潤んだ目をノクトに向けていた。イヴァンにとってすれば、わずか2名のハンターの応援でも、百人力のような気がしているのだろう。彼の目には、ノクトたちはもはや英雄なのだ。彼は涙をふき取って、覚悟をしたように表情を引きめた。

「このような状況で満足なお礼もお渡しできませんが…これを感謝の気持ちとして受け取っていただけませんか」

差し出されたのは剣の鞘だった。何の動物の皮だろうか…丈夫に見えるが非常に軽い。黒光りするその皮地に、細かい刺繍が縫い込まれており、ヴァンアール家の紋章、ー葡萄の蔓に、立派な巻き角を携えた雄雄しい野生のヤギの頭ーもあしらわれていた。長く大切に使い込まれいるものなのだろう。年代ものだと思うが、少しも綻んでいない。

「かなりの年代ものだな。由緒あるものじゃないのか?」

「はい。曽祖父の時代に作られたものだそうです。この旅に出るとき、早い成人の祝いとして父から受け取ったものです」

「…それは、ちょっと受け取れないぞ」

「いえ。ぜひ、受け取って欲しいのです。私はこれを受け取ったとき…父とは今生の別れかもしれないと覚悟しました。しかし…今は、もう一度父に会うつもりでいます。貴方がこれを受け取って、そしてこれが、私より一足先にシャンアールに戻ってくれれば…」

イヴァンは、祈りこめるように鞘を強く握り締めていた。

「…わかった。じゃあ、これは預かるわ」

ノクトは鞘を受け取って、レギスの剣を、今にも崩壊しそうになっていたボロボロの鞘から出し、ヴァンアールの鞘に収めた。レギスの剣は途端に輝きを増し、過去の威厳を取り戻したかのように見えた。

やはり、鞘が違うと映えるな…

「ご立派な剣ですね…それも、よほどの銘なのでしょう」

イヴァンが惚れ惚れするように言った。

「まあな…」

ちらっと、遠巻きにこちらを伺っていたフィリアのほうを見やると、フィリアはすぐに目をそらした。

「ケルカノについたら、まず、ハンター協会のリカルドに話を通してくれ」

ノクトはイヴァンに伝える。

「こっちも無線で連絡を取るつもりだが、どっちが早いかわからんからな」

「わかりました。リカルドさんですね。ケルカノには今日の夜か、遅くとも明日の朝にはたどり着けるでしょう。タルコットさん… ずうずうしいとは思いますが、どうか父をよろしくお願いします」

その顔は、領主の息子ではない、ただひとりの、父を思うこどもの顔だった。

「ああ、任せてくれ」

ノクトは、イヴァンを安心させようと余裕の微笑を向けてその肩を叩いた。

ヴァンアールの領民は、ちゃくちゃくと移動のための準備を始めていた。敷き詰められて立ていたテントは折りたたまれ、荷馬車には多くの荷物が詰まれた。気の早い一陣は、駅を出発して、その長い列が移動をはじめていた。

イヴァンは先頭集団につくべく早々と出発した。最後まで慇懃にノクトたちに頭を下げ、ノクトたちの旅の無事を祈った。ローランとフィリアは集団の最後につくべく駅に残っていた。

「この先、オレらが見てきた限りは大きな危険はないと思うが…」

「魔道兵がちらほら、いるかもだよね?」

「そうだな」

「お気遣い有難うございます!」

ローランはすっかり、ノクトとプロンプトを熟練のハンターとして敬っている様子だった。

「タルコットさんとプロンプトさんも、どうぞお気をつけて!」

敬礼をしてノクトたちを見送ってくれた。フィリアは、まだ何かいいたげな様子を見せたが、結局何も言わなかった。

アラネアは一緒に遊んでいたこどもたちに名残惜しそうに手を振り、ノクトたちと一緒に非常階段を下りた。非常階段から、沼地にうずもれるようにして息絶えた巨獣の姿が良く見えていた。

「ちょっとかわいそうだったかも…」

プロンプトが鉱山を見下ろしながら呟く。

「そうだな…」

アラネアは不思議そうな顔をして、二人が寂しげに浸っている様子を見ている。

ノクトたちは、次のポイントをブランシェル駅と見定めて、出発した。そこで中継器を設置する。目指すシャンアール城はそこから南下した位置にある。イヴァンたちが取って来た山道は、距離は近いが、途中、車両の通行が難しいらしい。一方、軍用道路なら近くまでいけそうだ。そこから先は城を崖上にのぞむ開けた土地が広がっている。うまくすると、車で崖下まで近づけるかもしれない。その先は徒歩か…

ブランシェルにつくまでに、リカルドから連絡があればいいが…

アコルド軍に飛行艇の装備はない。装甲車を動かそうと思えば、到着にはかなり時間がかかるかもしれない。イヴァンの話では、早ければもう、一両日中にシャンアールに魔道兵が到達する… 城に篭城して何日か持ちこたえれば、救援は間に合うかもしれないが…。

ぎりぎりだな…

イヴァンには強気に返事をしたものの、状況は厳しい。

今日の運転はノクトだ。イヴァンたちの話から、ここからブランシェルまでは特に異常はなかったとのことなので、3人は安堵して出発した。

「途中、工場跡によっていくぞ」

「ええと、以前、避難所になってたところだよね」

「ああ、難民の男の話だと、少なくとも数ヶ月前までは人が住んでいたらしいが…」

ヤンガの暗い話を思い出す。食料の奪い合いで争いになった武器工場…はたして、まだ生存者はいるんだろうか?

道沿いにいって駅を通り過ぎると、問題の工場らしき大きな建物がすぐに見えてきた。

あ…

3人が同時に声を漏らす。

工場の大半が、大きくえぐれるように破損しているのが、遠くからでもよく見えた。

「こりゃ…あいつの仕業か…」

工場の門はもう見る影もなくなっていて、ノクトたちはその入り口に車を止めた。

工場の一番大きな建物の壁もえぐり取られていて、破壊されて原形をとどめない中の様子が露になっていた。

「ちょっとここでまってろ…一応、中を見てくる」

「わかった」

プロンプトはアラネアが飛び出さないようにしっかりと手を握った。なにせ武器工場だ…危険な燃料が放置されているとも限りらない。

ノクトは、念のため周囲の気配にも気を配りながら、破壊された工場の中に入った。工場の中は、散乱する機械、その中には、避難民のものだろう…寝具や調理器具などの日用品も混じっていた。

うっ…

奥に足を踏み入れようとして、思わず顔を覆う。腐臭が漂っていた…よく目を凝らすと、奥の壁際の瓦礫の下に、人の四肢らしきものが見える。

生きてはいないな…

「おい!誰か、生きているか!!!」

ノクトは、念のために大きな声で呼びかけた。それから、わずかな物音がしないか耳を澄ましてみる。工場の中は静まりかえっていた。

一足遅かったか…

それでも念のため、アラネアを建物の入り口あたりまでつれてこさせた。

「アラネア…どうだ。生きているやつの気配はあるか?」

アラネアはまじめな顔をして、うーん、と唸ったが

「みんな腐ってるよ」

と、鼻をつまんで答える。

「やっぱり、そうか…」

ノクトたちはあきらめて車に戻った。再び車を発射させて、道に出る。気持ちよく晴れた空を眺めながら気分を変えようとするが、鼻についた腐臭の記憶が、なかなか離れない。

カルタナティカ駅で昼食を済ましてきてよかった…しばらく何も食べたくない気分だ。

ルームミラーを見ると、やはりげんなりしたプロンプトが、気分悪そうに窓をあけて、外を見ている。

アラネアは…ご機嫌な様子で、もう鼻歌を歌っている。

「ブランシェルまではどのくらい?」

プロンプトが聞く。気分を変えたったのだろう。

「道に問題がなければ2時間はかからないと思うが…つぎのポイントはそれよりは少し手前かもな。電波の受信状況をよく見ててくれ」

「了解。で、イヴァンたちがブランシェル駅を通過したのが4日前だっけ?そのときは、周囲に人の気配はなかったんだよね」

「まあな。一応は調査するつもりだが…今夜の泊まりもその辺かな」

日はもう、傾き始めていた。景色は変わって、木々が多くなってきた。大半はルシスで見たような、闇の下で繁茂した黒い植物。しかし、明らかに黒い植物たちは弱っているように見え、その下に緑色の芽がではじめているのが見えた。

植物の種って言うのは10年くらい生きつづけるのかな…

ノクトは、ところどころ青々としはじめた大地を眺めながら、命のしぶとさを感じた。

「ガソリンが…結構、減ってきたよね。この間の闘争のときに無駄に消費したかも…」

「一缶つんでるだろ?今夜、詰めておこう。明日は魔道兵に突っ込むことになりそうだし…」

「一缶で満タンとして…目的地まで持つかな…」

ノクトは黙った。

物資は最大往復で5日までの予定で提供されていた。食料…は抑え気味で、支援物資分もあるからなんとかなるが、ガソリンの補充は難しい…。シャンアールから直線距離で進めば間に合わない量ではないだろうが、周辺についてから隠された集落を見つけるまでには、よほど距離を食うに違いない。

「シャンアールに多少燃料があるといいんだが…」

「最悪、一度、ケルカノに戻る?ルシスの支援部隊とうまく落ち合えれば、なんとかなるかも」

「そうだな」

リカルドは、決して戻るな、と言っていたが、状況は変わったろうか。まさか、アコルド政府も、ルシスの支援部隊の目の前で、派手なことはできない気もするが。

「リカルドと連絡が取れてからだな…」

今更焦るつもりもないが、ケルカノに戻ったとしたらしばらく足止めを食らう可能性も高いだろう。ついつい、ため息が漏れる。

「あああ、ちょっと、電波弱くなってきたかも」

プロンプトが無線機を見る。

「やっぱり、駅まではいけないな…ぎりぎりの線を狙おう。プロンプト、設置できそうな場所がないか見てくれ」

ノクトは車のスピードを落とした。

ん~ プロンプトは唸りながら窓の外に目を凝らす。やはり、高架の崖下がいいとは思うが…しかし、このあたりはさらに高架が上がり、崖も険しかった。

「ああ、ねえ、あの廃屋の影とかは?」

プロンプトは、前方に見える建物を指差した。鉄塔と、配電設備のような四角い小さな建物が見えた。その周囲は、柵に覆われている。野獣や、壊れた魔道兵なら近づきにくそうだ。

「あそこにするか」

ノクトは、車を寄せた。

入り口には錠前がかけてあったが、さびていた。ペンチで軽く叩くと、抵抗なく崩れ落ちて、地面に落下した。鉄塔は、見ればその先の電線は切れてしまっていたが、まだ強固に発っていて、すぐに破損する恐れはなさそうだ。しかしその下は、ほとんどコンクリートで固められている。ノクトたちはフェンスの内側の端っこに、地面がむき出しのままになっているところを探し当てて、そこに掘削機を当てた。

「崖じゃないと楽だね!?」

プロンプトが、うはうはと、嬉しそうに掘削機を動かす。ノクトは、鉄塔に登ろうとしていたアラネアを慌てて取り押さえていた。

「あ?じゃあ、今日は一人で頼むわ」

「楽勝~!」

掘削はあっという間に終わり、プロンプトは中継器を中に押し込める。

「起動スイッチを押したらすぐに離れろよ」

「はいよ~」

ノクトはなんとしても鉄塔に登ろうとするアラネアを羽交い絞めにしながら声をかける。プロンプトがスイッチを押して、こちらに来るのが見えた。

がががががががが…

中継器は自転を始めていた。いつもよりやわらかい地面のためか、回転もスムーズだ。そして、アンテナの羽根が開き始める…

「ああああああ!!!」

3人が同時に声を上げた。

掘削した場所が、あんまりフェンスに近すぎたのだ。アンテナの羽根は、フェンスにぶち当たって止まった…

ぐぎぐぎぐぎぐぎ…

いままで聞いたことのない音を響かせながら、中継器が振動する。アンテナが無理に開こうと力をかけているようだった。

「プロンプト!お前!」

「ご、ごめん…ちょっと場所が悪かったみたいっ」

プロンプトは、青ざめて中継器を見る。

中継器は必死にまだ傘を広げようとしていた。そして…

バキバキバキ…

ついにフェンスの一部を破壊しながらアンテナが開ききった。

ぴこん、といつもの音がして、起動ランプが青くと灯る。

「なんとか、なった…?」

プロンプトは、無線機を見た。

「受信してるみたい」

ノクトは半信半疑で起動した中継器に近寄って調べてみた。起動ランプは青くと持っているが、なんとなく、怪しげに光が弱くなったり強くなったりしている。

「大丈夫かな…いつもと様子が違うぞ」

「とりあえず、通信してみるね」

ーケルカノ支部、応答願いまーす。こちら、調査班のプロンプトで~す

ーケルカノ支部です

先ほどと同じ声だ。

「よかった!ほら、大丈夫じゃない!」

プロンプトは、大げさに喜んでいる。よほど、責任を感じていたのだろう。

ー今、中継器を設置しました。ええと、ブランシェルのちょっと手前です。

ー了解です。本日2期目ですね。順調ですね。

ノクトは脇から入ってきて

ーリカルドとは連絡が取れたか?

と聞いた。

ーはい、先ほどの報告は伝えました。軍と話をつけてまた連絡するとのことです。今夜には、ご連絡できると思うのですが…

ー十分だ。助かる

ーこの後は、ブランシェル駅周辺で野営の予定です。以上でーす

アラネアも面白がって横から入り

ーアラネアだぞー

と声を出した。

あはははは。と、無線の向こうで笑っている声が聞こえた。

ーアラネアちゃん、今日も元気だね

ールーちゃんは元気か?

ーうん、ルーちゃんも元気だよ。そうそう、トーマ君も元気だよ

アラネアは満足そうににかあっと笑った。

ーでは、夜、こちらから連絡を入れますね

と言って、無線は切れた。

「ルーて、誰だよ?」

ノクトは不思議そうに聞いた。難民キャンプの遊び仲間か誰かか?

「赤ちゃんの名前だぞ」

アラネアは自慢して言う。

「道で見つけた、赤ん坊のことか?」

プロンプトは笑いながら、

「そいや、ノクトに言ってなったっけ。あーちゃん、あの子の名付け親になったんだよ」

と説明した。

名付け親か… 

「はじめは、ルーナがいいって言ったんだけど、男の子だったから、ルーなんだ」

「そうそう。医療班の人がね、男の子だからルーナはちょっと、って言ったんだよね。だから、ルーになったの」

「なんか、いい加減だな…いいのか、それで」

その子の一生をその名前だぞ。

しかし、アラネアがその子どもの命を救ったのは間違いない。

ルーか…まあ、いい名前かもな。

ノクトは思い直した。

ノクトたちは再び車に乗り込んだ。今日は、順調な進みだ。日が落ちるまでに、ブランシェル駅につけるだろう。あたりを調査して、近くに野営する…うまくすれば駅舎もまだ、使えるかもしれない。

山のほうへ沈んでいく太陽と追いかけっこをするように車を走らせた。脇に走る高架のその先に、すぐに駅らしき建物が見えてきた。カルタナティカよりは、はるかに小さい。ほとんどの車両が通過してしまう駅だ。申し訳なさ程度の改札があるだけなのだろう。

ノクトたちは、駅へと続く階段の側に車を止めた。エレベータは…もちろん機能していない。非常階段を登って駅の上へ出る。がらん、として何もないホームに、思ったとおり、小さな改札に屋根がついているだけの小さな駅だった。申し訳程度に、水場があったが、もはや水は出なかった。

3人はせっかく上がったからと、高架からの景色を楽しんだ。ちょうど山のほうへ、太陽が隠れ始めたときだった。

うわあああ

アラネアは、熟れるような赤い色をした太陽を、嬉しそうに眺めていた。ノクトはこれから進む内陸のほうを見やった。山肌にところどころ、黒い植物が生い茂っている。あの、ひとつ山を越えたあたりに、盆地が広がり、シャンアール城とその城下町もあるはずだ。

プロンプトは夕日に向かってしきりにシャッターを切っていた。それから、タイマーを設置して、3人で夕焼けの中で写真をとった。

駅を下りる直前、ノクトはカルタナティカのほうを見てみる。かろうじて、霞むようにその先に駅のような塊が見える。もう、領民たちは移動をして、ケルカノまでかなり近くへ進んでいるはずだ…

平和な夕焼けだった。

日が落ちきる前に、と思って、駅の真下あたりにテントを張った。アラネアとプロンプトに夕飯の支度を任せて、ノクトは軍用道路の入り口を探してあたりを探索した。モゼフの説明によると、表向き、民家の建っている敷地の裏側に、その道の入り口があった。駅からはさほど離れていないところらしい…崖がそこだけ避けるようにしてあいていて、高架の下をくぐるようにして向こう側にでる…

ノクトは車をゆるゆると動かして、間もなく、大きな豪農の家、と言った感じの、塀で囲まれた民家を見つけた。軒先から中を覗くも、がらんどうとして人の気配はない。中は、かなり朽ちていて、入るのは躊躇われた。その母屋をぐるっと回ると、唐突に裏手に、整備された門が現れ、その向こうに、切り立った崖の間を広い道路が続いていた。

ここか…

日は沈んであたりが暗くなり始めていた。道路の先は今は良く見えない…

明日でいいな。

ノクトは車に乗り込んで、プロンプトたちがまつキャンプまで引き返した。

「おかえりー!道は見つかった?」

「ああ、見つけたぜ」

プロンプトたちは廃材やら木の枝を集めて、焚き火を起こしていた。焚き火にかけられたなべが、いい匂いを漂わせている。

「腹減ったな」

プロンプトはすぐに、煮込み料理を盛り付けてノクトに渡す。アラネアは我慢できなかった見えて、もう横でがっついている最中だ。みると、うまいことスプーンを使っている。さすがに熱い料理を手では食べられないのだろう。

「今日は順調だったね!」

「そうだな。リカルドからは連絡があったか?」

「ううん、まだ」

ノクトも、プロンプトも、同時に無線機に目をやる。電波は問題なく受信できているようだが、特に音声は入ってこない。

「軍との交渉が、難航しているのかもな…」

「あのグスタフ少佐って、カメリアさんと親しいんでしょ?」

「ああ…でも、カメリアが引退してから立場が難しいって、言ってたな」

3人は夕食後、久しぶりにゆっくりした時間を過ごした。ノクトとプロンプトは、無線が気になって落ち着かなかったが、コーヒーをゆっくりと飲むだけの余裕はあった。

暇を持て余したアラネアは、さかんに巨獣の真似をして、咆哮を繰り返していた。

「あーちゃん…あの野獣が気に入ったの?」

プロンプトが飽きれて言う。

「お腹すいたーって、言ってたぞ」

アラネアが言う。

「…あいつの言葉がわかったのか?」

ノクトが疑わしげな目を向ける。

「うん、お腹すいたって」

それから思い出すように首を傾げて見せて

「あとな、えええと、誰か探してたな」

「誰かって、誰だ?」

んー…とアラネアは考えて、

「ルーナみたいなやつだな。たぶん、そういうの。会いたい、会いたいって言ってた」

ノクトとプロンプトは沈黙した。

ほんとかな?

と、疑う反面、

あの野獣にも、会いたいやつがいたのか?

とも思った。

大型の野獣がほとんど生き残っていなかったルシスの状況を思うと、あの巨獣が、ベヒーモスの最後の一頭だった可能性もある。種族が息絶えて最後の一頭だったとしたら…その、孤独はいかほどのものだろうか。

ノクトは想像してみた。

会いに生きたいやつがいるっていうだけ、オレは幸せなのかもな。

8時を過ぎて、はやばやとアラネアを寝かしつけた。夜番もあったのだが、リカルドの応答が気になって、二人して夜中まで起きていた。夜11時近くなって痺れを切らしたノクトが、無線機に呼びかけてみる。

ーケルカノ支部、応答願う。こちら調査班

しかし、応答はなかった。

電波の状況には問題はないはずだ…

二人は不安な顔を見合わせたが、ほかにどうしようもなかった。結局、今日はプロンプトが先に5時間眠ることになった。ノクトは、プロンプトに運転を任せて車の中で寝ればいいだろうと思った。

しかし、朝早くから討伐作戦で消耗していたノクトは、独りになると猛烈な眠気に襲われていた。まずいな… 焚き火の側を意味もなくうろうろと歩き回って、なんとか眠気を飛ばそうとする。

今夜は咆哮が聞こえることもない…しかし、魔道兵の行軍はいつここまで到着してもおかしくはない…

ノクトは、眠気覚ましに、と思って、無線機に呼びかけた。

ーこちら調査班。ブランシェル駅下にて野営中。応答を願う。

やはり応答はない。

ダメか…

静寂の中で意識が遠のきそうだったとき…

ーったく、夜更かしてんな

という女性の声が聞こえた気がして、はっと身を起こした。

姉さん、ダメだって!! 

無線の背後で慌てる声がして、そしてノイズが入って、音は消えた。

なんだ?今のは…

聞き覚えのあるような気もするし、しかし、一瞬だったから、男女の区別もいまいちはっきりしない。

そういや、この電波は、受信しようと思えば誰でも受信できるんだよな…軍のやつでも…と思いながら、ノクトはいつの間にか意識を失っていた。


「ノクト!」

プロンプトに声をかけられて、驚いて、椅子から転げ落ちそうになっていた。

いつの間にか…空は白み始めていた。

「わりぃ・・・寝てたか」

ノクトは体を起こした。

「ノクト、少し寝なよ。ごはんできたら起こすからさぁ」

「ああ、そうするわ」

ノクトは椅子のそばに落ちていた無線機を拾った。

「昨日、応答あったの?」

「いや、なかった」

といって、すぐに無線を口に寄せて

ーこちら調査班。応答願う

…しかし、やはり応答がない。

ノクトは首を振ってテントに入った。アラネアは、まだ寝袋の中ですやすや眠っていた。その横の寝袋に入って、ノクトの意識はすぐになくなる。

外が騒がしいな… いつもの通り、プロンプトとアラネアが飯を準備しているのか…

ノクトはまだ重たい意識の中で、ああ、一緒に旅する仲間がいるのはいいもんだな…と思っていた。まだ、あの野獣の孤独が気にかかっているのだろう。ただ一人でもと、覚悟を決めて歩みだした旅だが、あんなに賑やかな仲間がいる…

あるいはプロンプトと二人きりだったら、あるいは、自分ひとりだったら…というのは、今ではとても想像がつかない。

それは不思議な感覚だった。

「ノクトー!ごはんできたぞー!」

いつものように元気なアラネアの声が聞こえてくる。ノクトは、自然と笑みを浮べていた。

しんどいけど、起きるか…

外からはまた、いい匂いがしてきた。ベヒーモスの討伐のおかげで、しばらく新鮮な煮込み料理が食べられそうだった。

少し朦朧としてたが、テントから出ると、朝日が目に飛び込むとともに、気持ちの良い空気が肺に入ってきた。プロンプトとアラネアの笑い声が賑やかだ。

手渡されたスープが、胃にしみて、五感を刺激する。大げさだが、生きている感じがする。

「ノクト、どうしたの?なんか今朝は機嫌がいいね?昨日あんまり寝てないのに」

「はあ?」

ノクトは笑いを堪えながらわざとつっけんどんに返事をした。

「いい味だな!」

アラネアが、したり顔でスープの感想を言っていた。

どこで覚えたんだか… ノクトは笑う。


結局、出発の時間になっても、無線に連絡は入らなかった。こちらからも何度か呼びかけたが、誰の応答もない。

「何かあったのかな…」

プロンプトが心配そうな顔をする。

「考えても仕方ないさ。とりえあず、先を急ごう」

今朝はプロンプトが運転に回った。軍用道路の入り口は昨日のうちにノクトが見つけておいたので、ノクトの案内で民家の庭先まで入る。ぐるっと建物を回って裏の道路へと入る。その先は…突然広々とした大きな道が続く。

崖の合間を、縫うようにして進む。大型の車両が通るように作られているのだろう。舗装の状態もまったく問題ない。等間隔で両側に街灯もならんでいる。電力がきているとは思えないが…設備としては遜色がなさそうだ。

「うまくすると補給用の拠点もあるかもしれないな」

ノクトは期待をにじませた。

「しばらく、道なり?」

「そうだな。城のちょうど近くになるまで山道だし、迷うことはないと思うが」

地図をにらみながら答える。しかし、もとより隠された場所だ。地図上にはっきりとした目印もなければ、頼りにしているのはモゼフが手書きで記しただけの点線である…

軍人だし、それなりに正確だと思いたいが…

大きな道は迷うことのない一本道だが、ところどころ農道のような分岐が見られた。

「シャンアールの手間のどこかで最後の中継器を立てよう…山の中に入ったので電波がすでに弱くなってる」

「どっか、高台で設置しないとダメだね」

ノクトは窓から外を注意深く観察した。今、道はゆるやかにのぼっているところだ。おそらくこの先の盆地に下りるために、どこかの地点で下りにかわるに違いない。

「道が下る前に設置するか…そのあたりがシャンアールのちょうど中間地点だろう」

「了解!」

軍用道路は山の中と思えないくらい綺麗に舗装されていて、車は快適に進んだ。両脇は、くたっとした黒い樹木が繁茂しており、ときどき、動物の鳴き声のようなものが聞こえた。このあたりは、野生生物が残っているらしい…

大型の野獣はもうお断りだぞ…

ノクトは、野生動物の声に耳を澄ました。今のところ、特別、大型のものはいなさそうだ。

車は、やがて山のかなり高い位置まで登って、下界がよく見張らせる場所に出た。

「ちょっと止めてくれ」

「OK~!ついでに、お昼にしない?」

プロンプトは道が崖に迫り出して視界のいい場所に車を止めた。目指す盆地が、山の畝の向こうに見えた。ノクトは双眼鏡を覗く。ここからは…シャンアール城は見えない。おそらく、東の山の陰に隠れているのだろう。

「魔道兵、見える?」

「いや…そこまで盆地が良く見えないな」

プロンプトは朝のうちにあまりものでこしらえておいたサンドイッチをバスケットから取り出して、ノクトとアラネアに渡した。

そして、

「あー、山道、結構疲れる~」

と伸びをする。

「そうか?随分、道の状態がいいじゃないか」

「でもさー。カーブとかあるじゃん?やっぱり、万が一、対向車とかいたら怖いし…」

対向車… 確かにないとは言い切れないが。

ノクトはプロンプトの慎重さに呆れる。

アラネアはずっと車に乗りっぱなしで飽きていたようで、サンドイッチをほおばりながら、うろうろしている。

「アラネア、見えるところにいろよ!」

おうっ 

あんまり聞いていないようだが、一応返事をしていた。

ノクトは無線機を見た。

「ぎりぎりだな。このあたりに設置しよう」

「さすがにさ、ここまでこないよね、魔道兵?」

「しかし、野獣は生息している気配があるし…」

設置にいい場所はあるだろうか…

「あ、あそこは?」

ちょっと下った先に、駐車用のスペースが作ってあった。その端に、発電機だろうか?なにやら小さな機械のようなものが、フェンスに囲まれておいてある。フェンスの中は狭くて設置できそうもないが、その裏手の坂が、藪に囲まれて大型の野獣ならあまり近づかない場所に見えた。

ノクトたちはまた、少しだけ車を動かして設置場所まで移動した。アラネアは、車に乗りたがらなかったので、あそこまで走って来い、といったら、きゃっきゃっとはしゃぎながら走って車を追いかけてきた。

アラネアもそろそろ、じっとするのに限界だな…

「プロンプト。ここなら一人で設置できるから、アラネアとその辺うろついてこいよ」

「そうねー。じゃあ、あーちゃん、なんかさぁ、食べられるキノコとか木の実とかさがそうよ!」

アラネアはぱああっと顔を明るくして、そして斜面を飛び出していった。慌てたプロンプトが追いかけた。間もなくして、遠くのほうから足を滑らしたプロンプトの悲鳴が響いてきた。

山の中の採集といえば、アラネアにはお手の物かもしれない、と思いながら、変なものは拾ってきませんように…とノクトは祈らずにいられなかった。

ノクトは子守を押し付けてややほっとして、車の後ろから機材を降ろす。掘削機の扱いも慣れたもんだ。フェンスの裏手、落ち葉の積もった斜面に、押し当てて起動する。土が軟らかいせいか、掘削機はあっというまに必要な孔を掘り下げた。やわらかすぎて中継器が固定されるのかが心配になった。ノクトは中継器を孔に押し込んだ。やはり、土が軟らかくて倒れそうになる。いつもより掘削を深くして、ようやく孔の中に中継器が納まった。軌道スイッチを入れてそばを離れる。やわらかい土を蹴散らしながら、中継器が自転をした。あんまりやわらかいので下のほうの土が削れて中継器が傾いてきた…

やばい…

しかし、横倒しになるかという手間で中継器ははたっと位置を固定した。うまく地中まで支柱が通ったのだろう。そして、回転が終わりアンテナの羽根が広がる。

ぴこん、という音とともに、青い起動ランプが灯る。ノクトはすぐに無線に呼びかけた。

ーこちら調査班。応答求む。ブランシェルからシャンアールに向かう途中の山頂付近だ。

ー…

なんどかノイズが聞こえた気がしたが、やはり応答がなかった。

人の息遣いを聞いた気がしたが…こちらの音声は聞こえているのか?

ノクトは、不審に思う。

しかし、考えても仕方ない…進めるところ前進むしかないだろう。

ノクトは車にもどって激しくクラクションを鳴らした。プロンプトたちに戻るよう合図をする。

ひゃぁあああ

と、遠くのほうからまた間の抜けた悲鳴のようなものが響いたが、ノクトは気に留めることもなく、のんびり二人をまった。やがて、斜面の下のほうからプロンプトが這い上がってくるのが見えた。アラネアが、その脇を猛スピードで駆け抜けてノクトのところまで先に到着した。

「いっぱいとったぞ!!」

アラネアは、もっていた袋を見せる。

へえええ、何を?

ノクトは、ごくりとつばを飲み込みながら、恐る恐る袋の中身を見る。

袋の中身がばったばったと動いていた…みると、蛇のような?なまめかしい肌の長い生き物が何匹か蠢いている…

ノクトはあまりよく見ないうちに袋の口をきっとしばって、

「ああ、よくやったな」

と言ってアラネアの頭をなでた。アラネアは、満足そうに鼻をふくらませている。

つづいて、ようやくプロンプトが戻ってきた…全身泥だらけになっており、髪の毛に、木の枝やら草やらが引っかかっていた。

「ひ…ひどかった…」

プロンプトは息も絶え絶えに、とりあえず手に持っていた袋を手渡した。こっちは、見覚えのある木の実が入っていた。

「ムリ!ムリよ!!山の中であーちゃんを追いかけるなんて!!」

プロンプトは涙目でノクトに訴えた。

「ああ…ご苦労さん」

ノクトはプロンプトの顔をなるべく見ないようにした。

「疲れてるなら、運転変わるか?」

「いいよ!それより、後ろであーちゃん見ててよね!!」

プロンプトはぷんぷんしながら、運転席に入った。

ノクトは苦笑して後部座席に座る。アラネアの捕獲したものは…とりあえず、荷台にほおりこんでおいた。食えるのか…という質問に、プロンプトも首をかしげていた。

「ところで無線は?」

「中継器は機能しているが…応答はないんだ」

え? 

プロンプトはいよいよ不安な顔をしてノクトを振り向いた。

「仕方ない…ここで連絡を待っても仕方ないだろ。とりあえず、城まで行こう」

「そうだね…」

プロンプトは、しかし、明らかに気落ちしているようだった。

うまく魔道兵がたどり着く前に城に入れるといいが…

ノクトも正直不安であった。しかし、ここで城を見捨てるわけにはいかない。

プロンプトは沈黙して車を発射させた。アラネアは山での採集で満足したのか、座席で大人しくしていた。さっきのやつ、きっとおいしいぞ と盛んに進めるので、あとで料理して食おうな…と言って誤魔化した。

頂上で見渡した印象と違って、山道はなかなか距離がある。盆地まですぐ底のように見えたが、延々とうねる山道が続いていた。途中、倒木があってそれを道路わきに避けるのにまた時間がとられた。日が傾き始めて、ノクトもプロンプトも気持ちが焦ってきた。

「抜けたか!」

ついに山道を抜けて広いところへ出た。予想していた通り、シャンアール城が東のほうの崖の上にその壮言な姿を見せていた…が、様子がおかしかった。谷間に発砲音が響き、城の足元に、発砲に伴う煙が、沸き立っている。プロンプトは車を一気に加速して山道を下り、開けた台地のほうへ進める。

ちょうど、城の下に広がる台地が見渡せる場所に降り立って、車を止めた。

ノクトたちは目を見張る…台地を見渡す限りに、行軍する魔道兵の姿。

まずい…間に合わなかったか!!

ノクトは双眼鏡であたりの様子を伺った。城下町には魔道兵が入り込んで、手当たりしだい建物を破壊している様子が見えた。人気はない…おそらく残った人々は城の中に避難しているのだろう。城の周囲を魔道兵が取り囲んでいるのが見える。それを、城の上層から誰かが狙撃している。銃器の装備はそれほどないはずだ…このままでは。

「これじゃ、近づけない!ノクト、どうする?!」

「どうするって言われてもな…」

頼みのロケットランチャーは使い果たしたし…残っているのは、小銃だけか。

「火炎瓶は作れるか?」

ノクトははっとして、プロンプトに聞く。

「ガソリンで?!」

プロンプトは裏返った声を出すが、一瞬沈黙した後、

「いや、作れるな。ビンに詰めて投げ込んで、銃弾で着火をすれば…」

それから二人は黙ったまま、車の後ろに回り、水を消費した後の空のボトルをかき集め、プロンプトがそこへ予備の残り少なくなったガソリンを詰めていった。とりあえず、10数本はできただろうか…

「プロンプト…こいつらの間を縫って城の近くまでいけるか?」

「オーライ!」

プロンプトは危なげないハンドルさばきで行軍する魔道兵の間を縫って、城のたつ崖下間で近づいた。城につづく比較的なだらかな斜面に、魔道兵が這い登ろうとしているのが見えた。

あいつら、目標を定めているように見えるぞ…

ノクトは思った。

そのすぐそばに車を寄せ、ノクトは車から飛び出し、周囲の魔道兵を蹴散らす。その間にプロンプトは火炎瓶を斜面の魔道兵に投げつけながら、発砲する。

火炎瓶を投げつけながら発砲する… それが見事に、魔道兵のそばに落ちるときに発火していく様を見て、ノクトは見惚れた。とんでもない射撃の技能だな…

ノクトは小銃と剣とで時間を稼ぐために魔道兵を蹴散らすのが精一杯だ。プロンプトが用意した火炎瓶をすべて投げいいれると、周囲に異変が起こった。

なぜか…一瞬、魔道兵の動きが止まったのだ。

ノクトたちは武器な静寂に、自分たちも動きを止めた。

そして、次の瞬間、魔道兵の光る目が、一斉にノクトたちのほうを見た…日が傾いてきたこの台地の、遠くのほうまで広がっていた行軍が、その無数に光る目を、一斉にノクトたちをに向けたのだ…

「や、やばくない?!怒らした?!」

「魔道兵が怒るかよ!!はやく車に乗れ!!!」

ノクトは叫んだ。もう火炎瓶もない、これ以上の応戦も難しいだろう…ここは離脱するしかない。

プロンプトも同時に車に乗り込み、プロンプトはアクセルを全開にする。明らかに魔道兵たちはターゲットを変えて、ノクトたちの車を追いかけてきた…みれば、崖に這い登ろうとしていた連中も、向きを変えてこちらに向かってくる。

プロンプトは闇雲に台地の中を魔道兵をひき飛ばしながら走りに抜けた。しかし、行く先は見渡す限り魔道兵が、壊れかけて怪しげな動きをしながらノクトたちを待ち受けている。

「やばいよ、これ?!」

ノクトは無線機に呼びかける。

ーこちら、調査班!シャンアール近辺で魔道兵の一群と応戦中!!応援求む!!!

はははははは。

無線機の向こうから乾いた笑い声が聞こえてきた。

なんだ?

ーご苦労さん、調査班の諸君。こちらケルカノ駐留軍。

ーこちらシャンアールだ。昨日から報告してるだろ!応援はどうなっている?!

ー応援?今から行っても間に合わないだろ?

はははははは

複数の人間の笑う声が聞こえてくる。

ー悪いが、領域外でしかも、ハンターは民間人とはみなさない。アコルド軍の保護対象外だ。高い金もらってるんだ、自分で何とかしてくれよ

はははははは

ー何を言ってる?!シャンアールには民間人もいるんだぞ?!

ノクトは思いつく限りの悪態をついた。しかし、返ってくるのは笑い声だけだった…

ノクトは、舌打ちしながら無線をきった。

「え?!どういうこと?!応援は?!」

「ーーない。ハンター協会からは応答がないんだ」

そこへ、かぶる様に他の音声が無線機に飛び込んできた。

ー…こちらケルカノ支部です!!調査班応答を!!

助かった!!

ノクトはすぐに応答する。

ーこちらシャンアールだ。魔道兵ざっと数千機に追われている。応援を頼む!!!

ー…調査班、シャンアールには…

ぷっ と、突然音声が途切れた。

な、なに?!

ノクトが慌てて無線機を見る。

「今度はどうしたの!?」

プロンプトの声も必死だ。

「無線が…電波が切れやがったぞ」

「ええ?!」

無線機を見ると受信状態が0となっている…間違いない、電波が届いていない。

ノクトの脳裏に、フェンスにぶち当たったアンテナの様子が思い出されていた…

舌打ちして無線機を荷台のほうへ投げ込む。

「ダメだ、応援はない!プロンプト、逃げ切れるか?!」

プロンプトは必死に魔道兵を蹴散らしながら、台地を進んだ。しかし、どこへ行く当てがあるわけでもない。

「どうする?!どっちにすすむ?!」

魔道兵たちは不気味に目を光らせながら、一斉にノクトたちを追う。その動きは、不完全なだが、意外と早い。

「どこでもいい!なんとか引き離せ!!」

「引きはなすったって…」

いけどもいけども、魔道兵の軍勢… プロンプトは左右にハンドルを切るが、山に囲まれた盆地だ…外に抜けていく道も見つからない…

やがて、行く先に切り立つ崖が見えてきた…

「ノクト!!行き止まりだ!!!」

プロンプトが悲痛な叫びを上げる。後方を振り返れば、大量の魔道兵が団子になってくっついてきており、とても方向を変えて切り抜ける場所がない。

「仕方ない…応戦するぞ!!」

プロンプトが崖の手前で、急ブレーキを踏む。ノクトは車を飛び出し、近場に迫る魔道兵に一撃を加えた退けた。プロンプトも運転席から飛び出して、車の天井にあがり、近づいた魔道兵から先に打ち込んでいく。

「アラネア!中に入ってろ!」

と言ったものの、アラネアもすぐに飛び出してきて、魔道兵に飛び掛った。

アラネアは、戦い方を知っているのかその首にすぐに噛みきって、驚くほどの怪力で魔道兵の頭を引きぎった。頭を失った魔道兵の胴体は、痙攣しながらその場に倒れこんだ。

やるな…

ノクトは、覚悟を決めて、アラネアの好きに任せた。

壊れかけた魔道兵の戦力はさほどでもない。数さえなければノクトたちの相手ではないだろう…しかし、いくら倒しても、無数にノクトたちをめがけて魔道兵が集まってくる。

日はもうすぐ、向こうの山に沈もうとしていた…

くそ…きりがないぞ…

ノクトは夕日に聳え立つシャンアール城を見た。城のそばには幸い、魔道兵たちの姿はなかった。軒並み、ノクトたちの車両にひきつけられたようだった。

魔道兵が認識する何かのシグナルがあるんだな…それがわかれば…

ノクトは疲労する中で、朦朧とそんなことを考えていた。

力続く限り…しかし、剣を持つ腕にも痺れを感じる。アラネアは果敢にまだ魔道兵の首を狙っていた。プロンプトの銃声も、まだ続いている。

ここで終わるわけには…

ノクトは最後の気力を振り絞る。

「ノクト!!!あれ!!!!!」

ノクトはプロンプトが指差す方向を見た…

飛行艇だ。

魔道エンジンの音を響かせながら、二隻の飛行艇がこちらに向かってきた。

「帝国軍か?!」

「ちがうよ、姉さんの船だ!!」

プロンプトが歓喜して言う。

姉さん…?

ノクトの脳裏に、昨日の深夜に無線機で一瞬聞いた女性の声を思い出していた。

でかいほうのアラネアか…?!

飛行艇は、高度を落として近づき、そして、魔道兵に砲撃を始めた。魔道兵たちは途端にノクトたちに興味を失って、砲撃された地点に向かって進み始めた。

音と、熱か…?

ノクトは魔道兵の動きをまじまじと観察する。

それでも、まだ周囲に残りノクトたちに向かってくる魔道兵も残っていた。ノクトたちは最後の力を振り絞ってそいつらの相手をしなければならなかった。

飛行艇のひとつが砲撃を止めて、ノクトたちの頭上まで飛んできた。と、その時、空中より誰かが飛び降りてくるのが見えた…

ぼがーーーーん、と激しい音を立てて、目の前の大地におりたち、周囲の魔道兵を一気に蹴散らす…

「姉さあああああああん!!!!!」

プロンプトが、歓喜して呼びかける。

「のんきねぇ、相変わらず」

大きいアラネアは、黒い兜の下から微笑んでみせる。それからノクトのほうを見て、

「やっと会えたわね、放蕩息子!」

「はあ?誰が?!」

ノクトも悪態をつきながら、力がまた沸き立つのを感じた。4人は、車の周囲の魔道兵を、一気に蹴散らしていった。

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