Chapter18.5-絶望と希望の狭間4-

目の前に、テネブラエの青い花畑が広がる。

また、あの夢の続きか…

ノクトは、ルーナを探して周囲を見渡した。どこからともなく赤ん坊の元気な泣き声が聞こえてきた。あやすような女性の歌声も。

霧が晴れて、向こうのほうに女性の後姿が見える。赤ん坊を抱きかかえて、やさしく揺らしている。

ルーナ!

ノクトははっきりと呼びかけた。女性は、歌うのをやめて、ゆっくりと振り向いた。

あ…

その顔は、まさしくルナフレーナその人だった。ルーナはやさしくノクトに微笑んで、そして、赤ん坊の元気な顔を彼のほうへ向ける。

ルーナ…

ノクトは静かに彼女に寄り添って、赤ん坊を抱えるルーナを、さらにその上から自分の腕で包み込んだ。ルーナは照れるようにはにかんで、それから、赤ん坊を見つめた。ノクトも彼女のに寄り添いながら赤ん坊を見た。

幸せな、静かな時間が流れていた。

このまま、もう少し、ここに…

儚い夢だと知るノクトは、寂しげな笑みをルーナに向ける。


わああああ

歓声のような、賑やかな声がして、ノクトは目を覚ました。昨日の疲れが出たのだろう。日は高く上っていて、ハンターの半数はもうベッドから抜け出していた。プロンプトは、まだ、隣の上段のベッドに横たわっているが…その下段に眠っているはずのアラネアがいなかった。

あいつ、また、勝手にどこかに…

ノクトはため息をついて体を起こした。すぐにプロンプトを揺り起こす。

「プロンプト、起きろ。アラネアがいないぞ」

「え、え?!」

プロンプトはよく眠っていたと見えて、驚いて跳ね起きた。そして、下段のベッドを覗き込む。

「ほんとだ!」

「あの子なら、デイジーが連れて行ったよ」

近くのベッドの上でまだ眠そうにしていた男が、毛布の下から少しだけ顔を出して、教えてくれた。デイジーが一緒なら、安心だろう。ノクトたちはのろのろとベッドから這い出して、宿舎を出た。

裏手の食堂へ向かうが、アラネアたちの姿はなかった。

「赤ん坊でも見に行ったんだろ」

「あー、ありそう」

2人はとくに気にも留めずに、ゆっくりと朝食を味わった。

「ちょっと疲れたよねぇ」

プロンプトがだるそうに言う。

「今日、すぐに出発する?」

「そうだな…物資の補給をして、昼過ぎに出るか。できれば、昨日の母親の遺体を埋葬したいんだが、いいか?」

「うん!いいよ。オレも、気なってたんだ…もちろん、他にも野ざらしの遺体はたくさんあるんだけど…」

「ま、これも何かの縁だろうからな」

そのとき、また、外が騒がしくなった。そういえば、さっきも何か、歓声のようなものを聞いた気がしたが…。

ノクトたちはなんとなく興味が引かれて、食堂を出ると難民キャンプのほうへ向かった。協会の事務所の前、フェンス越しに、なにやらこどもたちが集まってきているのが見えた。

何だ・・・?

フェンスのすぐ、向こう側にデイジーと、医療チームの腕章をつけた女性の姿が見える。

「デイジー!あーちゃんみなかった?」

デイジーはなぜか目に涙をためて、盛んに手招きしてこちらに来るように身振りで訴えている。ノクトたちは何事かと思い、慌てて通用口を通り、デイジーの傍に駆け寄る。

「どうしたんだ、いったい?」

「プロンプト!写真よ、写真を撮って!」

デイジーは目を潤ませながら頼んだ。

「え、うん、いいけど?なに?」

プロンプトは慌てて、カメラを構える。その時、こどもたちがどっと笑った。その中心にレンズを向けると、アラネアが、がりがりにやせ細った男の子と2人で、なにやらアスファルトにむかって絵を描いている様子が見えた。

がおおおおお!!!

アラネアが突然怪獣の真似をして叫び、周囲の子どもたちがまた、どっと笑う。

ノクトはそっとこどもたちの間を入って、中心に近づいた。アラネアは、ろう石で絵をかいていた。こどもが群がってきて全体像が良く見えないが、中心に描かれているのは、剣を振り上げたノクトか?その横を銃を構えるプロンプトだろう。

その回りを、怪獣のようなものが取り囲んでいる。

「たくさんいたんだよ、20匹、いや、もっとかな?牙がこんななんだ」

といって、自分の大きな口を開けてみせ、牙に見立てて指を口元の前で両手をわさわさと動かす。

「そいつが、タルコットに噛み付いた!」

がおおおおお!

きゃああ、と言って、笑いながら小さい子達が端って逃げていった。アラネアの横にいる男の子は、お腹を抱えて笑っていた。

あれ、あの坊主…

まるで折れそうな細い腕、傷だらけの足裏。…まさか、先日保護したこどもか?

「痛いぞっ!プロンプトー、助けろー!」

と、アラネアは大げさに痛がる真似をしてまた笑いを誘った。

「そこで、バーンだ!プロンプトは鉄砲を撃つんだぞ!」

バーン!アラネアは指を銃のように構えて、狙いをつける。それから次は打たれる怪獣の役…なかなか忙しい。アラネアが、ぎゃああああと断末魔を上げてアスファルトに倒れると、また、こどもたちからどっと笑い声が上がっていた。

それから、そそくさと子どもたちが列を作り始めた。なんだ?ノクトは、こどもの間から覗き込む。見ると、アラネアが、ロウ石を歯で小さく割って、こどもたちに分け与えていた。たしかロウ石は、トラヴィスから3本くらいもらっていたが、とてもこの数のこどもたちには行き渡らないだろう…そのうち、子どもたち同士が、とりあいをはじめた。

こりゃ、マズいな。

ノクトは、争いの中に割って入ろうとした。が、その時、

「こらああああ!!!!」

アラネアはびっくりするような大きな声を出した。歯をむき出して野生のような恐ろしい形相をしたので、こどもたちは、びっくりして、みな静かになった。

「ケンカをするならあげないぞ!順番に使うんだ!!」

アラネアの形相がよほど恐ろしかったのだろう。こどもたちは、ケンカはやめて、仲の良いもの同士グループをつくりながら、方々に散ってしゃがみこみ、思い思いに絵を描き始めた。アラネアも、小さくなったロウ石を持って、男の子の隣に這いつくばった。そして、再び絵を描き始めた。

アラネアと男の子はお互いに描いた絵を見て、可笑しそうに笑っている。

ノクトはそっと、こどもたちから離れて、プロンプトとデイジーのもとへ戻った。


デイジーと隣にいた女性は、感極まってお互いを抱き合うようにして泣いていた。プロンプトがつられて目を潤ませている。ノクトがやってくるのに気がつくと、医療班の女性は、デイジーからようやく離れて、涙を流しながらノクトと、プロンプトに握手を求めた。
「お二人とも、本当にありがとうございます。2度もこどもたちを救っていただいて…」
「いや、オレは何も…」
ノクトは、情熱的な握手にやや戸惑っていた。
「アラネアが見つけたんだ。プロンプトも、オレも、アラネアに言われなければ気がつかなかった」
なあ?
と言って振り向くと、プロンプトも目を潤ませながら、激しくうなづく。
「アラネアちゃんがね…」
と言い始めて、女性はまたこみ上げるものがあって、声が震えていた。
「トーマくんに赤ちゃんを見せたいって来てくれて。トーマくん、赤ちゃんを見た途端に、生き返ったみたいに笑って…」
女性はボロボロと泣く。デイジーもまた泣き始めて女性の肩を抱いた。
「そして、アラネアちゃんが外で絵を描こうって…。あんなに元気に歩き出すって思わなかった。慌てて点滴を外したわ」
デイジーも興奮した様子で続けた。
「そしたら、見て。いつの間にかこどもたちがこんなに集まって。みんなあんなに笑って…」
ノクトは、感情が高ぶっている女性たちに、やや圧倒されながらも、彼女たちの日ごろの心労を慮った。鬱屈としたキャンプで、難民たちを支えるのは、よほど心身を消耗するのだろう。誰かが癒され、再び喜びを見出す姿がは、今度は見てるものたちを癒やす。
こどもたちが夢中に絵を描くその周りで、大人たちがまた、笑顔を向けてその様子を伺っていた。軍の詰所を作るために無造作に敷き詰められたアスファルトの一画が、あっという間にこどもたちのキャンバスとなった。
この絶望的なキャンプの中に、少しずつ日が差し込むようだった。

「私、一度オルティシエに戻るわ」
ようやく泣き止んだデイジーが、決意したように言った。
「プロンプト、写真を頂戴。私、その写真を持ってオルティシエに戻る。それから、この写真を持ってヴォーグと政府に掛け合ってくる。それから、市民にも働きかけるわ。一人一人話しかけて写真を見てもらう。きっと、もっと支援が集まる。…それに、こどもたちの遊び道具も必要ね!」

プロンプトは、デイジーに連れられて事務所の方へ行ってしまった。医療班の女性は、トーマと呼ばれたこどもを連れて、病院のテントへ戻って行った。

ノクトはぼんやりフェンスに寄りかかって、飽きもせずにふさげ合うアラネアと子どもたちを見ていた。ほとんどの子が、あっという間にロウ石を使い終えてしまっていたが、こどもたちの一大作品は、それをお互い鑑賞し、ふざけ合うのに十分だった。指に残ったわずかな粉で、まだアスファルトをなぞる根気のある奴もいる。

そうさ。お前らのためだったわけだ。
ノクトは満足そうに笑う。

「よお!」

見慣れないボウズ頭の男が、通用口から出て来て、馴れ馴れしく声をかけて来た。近づいて来てその右目が潰れているのを認めると、ノクトは、あっと、驚いて声をあげた。

「マジか?ほんとに、剃ったのか?!」
リカルドは、ノクトの驚いた様子に満足して、ニヤニヤ笑っている。
「あの子に敬意を示してな。お前がくたばっても、あいつは生き残るだろうよ」
ノクトは笑った。
「それは間違いねぇわ」
リカルドはそのままノクトの隣に腰掛け、同じように、ぼんやりとこどもたちの様子を眺めた。剃られたばかりの頭は、ごつごつと形が悪いばかりか、そこだけ日焼けせずにやけに白かったので、まるでヘルメットでも被っているようだ。
ノクトは、思わず、ぷっ と吹き出す。
「あんた、なかなか色が白いんだな」
リカルドは、柄にもなく恥ずかしそうに頭を撫でた。
「こう見えても、高貴な出なんだよ。母方に貴族の血が入っててな」
「それで帝国軍にいたのか?」
ふーん、とリカルドは意味ありげにノクトの顔見て
「知ってたのか。驚かねえんだな?」
「今更、珍しくもないだろ」
リカルドは急に黙った。そらから、こどもたちの方にずっと視線を向けたまま、低くこう呟いた。
「王都の陥落に関わったと言ったら?」
ノクトも黙った。リカルドの横顔は、無表情で何の感情も見えない。
ふっ とノクトは笑った。
「嘘つけ」
ん? とリカルドは、意表を突かれたのかノクトの顔を見る。それから、悔しそうな顔をして
「つまんねえな。引っかかると思ったんだが」
と呟いた。

「引っかかるかよ」

けっ

口を尖らせて膨れる。

「オレみたいなのは口が軽くて、見たものなんでも口出さずにいられないから、軍を追い出されたのは随分昔だよ。今じゃ、ハンター歴の方が長い」
「最高ランクだろ。聞いてるよ」
ランクねぇ 
リカルドは、うんざりして言う。
「ハンターなんてのは、あんまり偉くなると政治屋と同じになる。ヴォーグを見てみろ。もうここ数年は事務所に閉じ込められて、たまに外に出れば政治家の顔ばかり拝んでるぜ。可哀想だよ。だから、オレはここが気に入ってんだ。アコルド軍もアホウばかりだが、政治家よりは100倍マシだからな」

おっと、とリカルドはワザとらしく驚いて見せて
「そういや、お前も政治家みたいなもんだったな」
ノクトは首を振った。
「よしてくれ」
「何がさ?事実だろ。お前が否定しても、周りは認めてくれねえぜ」
ケケケケ 
いつものように嫌味に笑いながら、リカルドは立ち上がった。
「じゃあな。今日は出発するのか?ま、また、明日も会えるかもな」
雑に手を振りながら、遠ざかっていった。
結局、また、説教にきたのかよ…

時折、すれ違った難民がリカルドの頭に気がついて、彼が通り過ぎてから吹き出すのが見えた。あれはあれで笑いを提供してんのか。まさか、アラネアを見習ったのかな?
ノクトは、不思議そうに彼の背中を見送った。

昼近く、腹を空かせたアラネアがノクトのところに来たので、アラネアを連れて食堂へ向かった。事務所を通りかかった時、中からプロンプトとデイジーが出て来た。

「ああ、ちょうどよかった!」
出会いがしら2デイジーはアラネアを抱きしめた。
「急なんだけど、すぐにオルティシエに発つのよ。あーちゃん、本当にありがとう。元気でね」
その目はもう、泣いてはおらず、力強かった。3人はそのまま、デイジーが数人のハンターたちとトラクターで出発するのを見送った。アラネアはいつまでも元気よく手を振り、デイジーも見えなくなるまで振り返していた。
「さあ、飯食ったら出発するぞ!」
アラネア、というより、しょんぼりと寂しそうなプロンプトに向けて、ノクトは渇を入れていた。


昼食を終えて、消費した物資を補充する。なんとなく、のんびりとした空気がキャンプ全体に立ち込めていて、ノクトたちの気持ちもゆったりしていた。結局、出発したのは、午後もだいぶ過ぎてからだった。今日もつい、運転席にプロンプトがついて、ノクトは、一瞬、あれ、と思ったが、疲れもあったので何も言わなかった。

ノクトたちがジープで出発するのも、難民たちのお馴染みの景色になっていた。こどもたちはアラネアの後を追って、途中までくっついてきたので、プロンプトはしばらく徐行せざる得なかった。アラネアは得意になって車の中から手を振り返す。クラクションを鳴らしながら、1kmほど進んでようやくこどもたちがバラバラと帰っていった。それでも、最後までキャンプのはずれで手を振り続けるこどもも何人かいた。

プロンプトは徐々にスピードを上げながら

「あーちゃん、人気者だよねぇ」

と感心して見せた。アラネアは、いつまでも後ろを向いてキャンプが見えなくなるまで手を振っていた。


線路の上は、今日も、疲れ果てた難民たちがぽつりぽつりと歩いている。まだ足元はしっかりしているようだ。なんとなく、ノクトは難民たちの様子に気を配った。

ここからは距離はそれほどない…もう少しだ

「今日はどのへん目標にする?」

プロンプトがスピードを上げながら聞いてくる。

「今日は、出発が遅れたからな…とりあえず、はじめのポイントが無事か、確認するか」

「そうだね。それから、お墓つくらないとね」

アラネアがやけに静かだな、と思ってみていると、今にも眠そうな顔をして、こくりこくりと舟をこいでいた。そして、崩れ落ちるようにシートの上に倒れると、そのまま丸くなって眠ってしまった。

「アラネアが寝たぞ…」

「はは。朝から大はしゃぎしてたもんねぇ」

アラネアが寝て、静かな午後となった。ノクトも、ともするとうつらうつらしそうだった。

「ノクト、ちょっと寝たら?いいよ。この次、代わる時オレも昼寝するからさ」

「ああ」

といったまま、ノクトはなんとなく薄目を開けていた。

アラネアが寝ちまったからな、オレが誰かに気がついてやらないと…

そんな気がして、外を眺める。

やがて、はじめのポイントについた。アラネアはまだ眠っていたので、二人を残してノクトだけが中継器を見に行った。無線の受信状態は問題なし。中継器も…崖下から見上げる限り異常はない。念のため、丘へ上がって周囲の状況と壊された中継器の様子も確認したが、昨日から変わりはないようだ。

「問題ないな」

「了解!」

プロンプトは再び、エンジンをかけた。

線路が道路と分かれて、高架へあがっていくころ、アラネアがようやく目を覚ました。起きたら違う景色だったので、しばし、どこにいるのかと不思議そうにしていた。

「起きたか?これから、赤ん坊の母親の墓を作るぞ」

「ハカ?」

「亡くなった人をね、土の下に埋めるんだよ」

「なんで?」

プロンプトとノクトは、うーん、と唸った。

説明が難しいな…

「ええと…お墓にはいると、たぶん、天国にいけるんじゃないかな?!」

プロンプトが苦し紛れに言う。

「外においていくと、動物が食べたりするからな。遺体が損傷するだろ」

ノクトが理路整然と説明する。

しかし、アラネアにはどちらの説明も、ぴんと来ないようだ。

「食べないのか?」

きょとんとして、アラネアが言った。

ノクトとプロンプトの間に、表現しにくい感情が横たわった。2人は、同時に、ガーディナの洞窟で見た、アラネアの前の母親であるガルラの死骸を思い出していた。

コメントしづれぇな…

ノクトは、ごほんと、咳払いをして「とにかくな、まあ、見てろ」

と言って話を切り上げた。

アラネアは、興味津々と目を輝かせて、うん! と返事をした。

「たぶん、このあたりじゃないかな…」

プロンプトは辺りの風景を見ながらスピードを落とす。日が傾いてきた。暗くなる前に埋葬してやりたい。ノクトも窓の外を目を凝らしてみる。

「アラネア、昨日の場所、わかるか?」

「赤ちゃんがいたとこ?」

「そうだ」

「あそこだよ!」

と行って、少し先を指差す。その時は、遺体はよく見えなかったが、そのまま車を進めると、確かにその先に昨日の遺体らしきものが見えてきた。およそ平らな土地だったので、プロンプトは車で遺体のほうへ近づいていき、その手前でエンジンを切った。

目は閉じているが、昨日のまま、母親は平和な顔をして横たわっていた。その腕は、まだ赤ん坊を抱えていたときの形のままだ。

無事…届けたぜ

ノクトはまた、じんわりと目頭が熱くなるのを感じていた。

「あーちゃん、あのね。大切な人が亡くなったら、お墓を作るんだよ。あの赤ちゃんにとって、大切なお母さんだったんだ。ここにお墓があったらね、赤ちゃんが大きくなって、お母さんの場所が分かる」

アラネアは、神妙な面持ちでプロンプトの説明に聞き入っていた。

「場所がわかる…」

「そう。それでお話ができる。なんとなく、お母さんがそこにいるような感じがする。寂しいときは、ここにきて、それでお母さんを感じたら、ちょっと寂しくなくなる」

ほほお… アラネアは感心して、母親の遺体を見ていた。

「じゃあ、ここに、掘るか」

ノクトは、中継器のための掘削機を持ち出した。中継器用の孔を掘るのと違って、人を埋葬しようと思えば、かなりの深さと広さを掘らねばならなかった。掘削機で土を砕いてスコップで掻きだす。ノクトが掘削機を使い、プロンプトがスコップ。そして、アラネアは素手で土の塊をせっせと運び出した。なかなかの労力だったが、アラネアも戦力になったので、1時間ほどで掘り終えただろうか。汗と土まみれになった3人は、今度は、キャンプでもらってきた遺体用の袋に、母親を包みいれた。灰色の味気ない袋であったが、直にその顔に土をかぶせるよりいいだろうと思った。

そして、プロンプトとノクトと2人で、そっと穴の中に降ろす。遺体は、思ったよりもずっと軽い…

3人は夕日に焼けながら、黙々と土をかぶせる。被せるときはあっという間だ。見る見る痛いの袋は見えなくなり、こんもりとした盛り土だができた。こころもち、スコップでたたいて固め、形を整える。

「何か、墓標が欲しいな…」

「そうねぇ」

「ボヒョウ?」

「綺麗な石とか、な。目印にするんだ」

わかった!

昼寝の効果か、アラネアはまだエネルギーがあると見えて、ぱっと駆け出すと、高架の下の岩が転がっているところへ行って、黒光りする岩をよっこらと持ち上げて戻ってきた。

「キレイなのがあったよー!」

「おう、すげーな」

アラネアが持つには随分重そうだったが、疲れきった二人は、そのままアラネアに委ねた。アラネアは、よっこらしょと、盛り土の上にその岩を放る。

どん!! と重い音がして、盛り土は若干へこんだ…

ノクトとプロンプトは苦笑して顔を見合わせた。

「随分重いの、持ってきたね…あーちゃん、すごい…」

プロンプトは改めて岩に触れてみて、その重さに驚いた。へへん、とアラネアは得意気だ。

「じゃあ、ほら、お祈りをしていくぞ。暗くなる前に寝る場所を探さないといけないからな」

「え!!今日は帰らないの?」

「そう。今日は帰らない」

昨日とあんまり距離はかわっていないがな…とノクトは苦笑した。

3人はお墓の前に跪いて胸に手を当て、しばし黙祷した。

「あー、ほんとだ!お母さんがいるね!」

アラネアが嬉々として言うので、プロンプトはぎょっとした顔で、びくっと体を震わせた。





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