Chapter 16.9 - 突然の出立 -


結局3人はランバルタを1本空けてしまった。その多くはグラディオが飲んだのだが、イグニスも、いつまでもだらだらと飲み続けていたので、相当の量を摂取していた。プロンプトだけは、早々とキャパオーバーして、酒を切り上げただが、そのときには、その色白の目の周りがすっかり赤くなっていた。

最後の一滴をグラディオが自分のカップに注いで、「ちぇっ」と舌打ちしたが、もうよほど酔いが回って、本人も眠そうだった。

イグニスがかろうじて、冷静さを保って「さあ、みんな、戻って寝よう」と呼びかけたのだが、当の本人が、車から出ようとして、転げ落ちた。

「おいおいおい・・・」助け起こそうとしたグラディオも怪しいものだった。

「これ、ちょっとやばいんじゃないのぉ」

プロンプトは真っ赤な顔だが、まだはっきりとした口調だ。

「とても、あの、避難はしごを上って、王の間まで上がれないでしょ。足、踏み外したら、シャレになんないよ?」

グラディオも、うーん、と唸る。自分だけならまだしも、この状態のイグニスを支える勇気は、さすがにない。

「もう、この辺で寝ようぜ」

「す、すまない・・・」

今にも寝落ちしそうなイグニスが、ふらふらしながらもう一度、座席に深く座り込む、と、ほとんど同時に、ドアにもたれかかっていびきが聞こえてきた。

「うわあ。イグニスが真っ先につぶれた。これ、チョー貴重映像!」

プロンプトがニヤニヤしながら、抜け目なくカメラを構えた。シャッターが連続して切られる。続いて、狭い車内から抜け出そうとするグラディオの姿を容赦なく映す。

「撮るんじゃねぇ、バカ!」

と、横になったんだか、転げ落ちたんだかわからないようすで、グラディオはそのまま駐車場の床に大の字に横になり、大きないびきを掻きはじめた。プロンプトは、噴出しながらシャッターを押し続けた。

「いい証拠写真、撮れた♪」

て、いいつつ、オレもやばいなぁ。

プロンプトは、よっこらしょ、と助手席から這い出して、ふらふらしながらなんとか、トランクから毛布を2枚ひっぱりだしてきた。一枚を、イグニスにかけてやる。

「グラディオは・・・、ま、いっか」

プロンプトは毛布を一枚もったまま、前方に止まっている別の車両のほうへ向かった。さっき、中を物色するために、鍵だけ解除してあったやつだ。

あけておいて正解!満足しながら、その後部座席にすべりこみ、ぬくぬくした毛布(若干かび臭い)に包まって、幸せな夢の中に落ちていった。


ノクトは、はっと、目を覚ました。まだ、日の傾き方からすると、朝が早い。日の出の直後か。夕飯を食べてすぐ横になって、イグニスたちが出て行ったのを見送ったまでは覚えているが・・・しかし、その後すぐに寝てしまったようだ。随分寝たおかげで、頭がすっきりしている。

部屋があんまり静かなので、他の連中は寝入っているのか・・・とそっと身を起こして見ると、そこには昨日の夕飯のときの風景と変わらず、寝袋も端っこに折りたたんだままだ。

あれ・・・こんな早くから、どこかへ行ったのか・・・?

ノクトは不思議そうにその光景を眺める。グラディオの大剣が部屋の隅に無造作に置かれているので、外に出た様子はなさそうだ。

・・・調理場かな?

喉の渇きを覚えて、ノクトはとりあえず、調理場へ向かってみることにした。

エレベーターから1階に降り立ち、建物の左翼へ向かう。ノクトにとっても、なじみのある場所だ。あの場所で、ノクトは、イグニスの試作品の味見に良く付き合わされた。王宮の廊下は、静寂に満たされていた。外から鳥のさえずりも聞こえない。建物の内部に人の気配もない。朝焼けの中に、ところどころ装飾の崩れた王宮の廊下が、沈黙したままずっと続いている。ふと、ノクトは、自分の存在感が薄れて、夢の中にいるような気分になる。昨夜見た、友の姿は幻で、自分は、実は、この廃墟を漂う幽霊ではないか・・・。

しかし、調理場に入って見ると、そこには、4人が使用している皿、調理した形跡、かき集めた食料などが散乱しており、つい、最近まで人がいたことを示していた。

「なんだよ・・・たく、なにかのいたずらか?」

ノクトはとりあえず、手近にあった水のボトルを手にとって、飲み干した。少しかび臭いが、喉の渇きがいえた。もしかして、火を通さないとやばいやつか・・・ま、飲んでしまってはどうしようもないが。

何か、食えるものがあるかな・・・。

最近あけたと思われる缶の中に、カンパンが入っているのを見つけ、それをつまむ。

さて。近くに友が潜んでいる気配もないし、こんな早朝から外を回っているとか、もしや3人で示し合わせてハンマーヘッドへ向かってしまったとか・・・まさか武器を置いていったりはしまい。まあ、考えても仕方がないし、どうにも探しだせる気がしないので、ノクトは、どうでもよくなって、ちょっと王宮の中をふらふらして見ようと思い立った。そう思えるだけ、体力が戻ってきた証拠でもある。

近場から回って見るか。

調理場からでて、さらに奥へと進む。突き当りの扉をでると、渡り廊下にでた。例の、妙な黒っぽい植物が一面を覆っていたが、ところどころ草が浅いところを通っていくと、訓練場についた。扉は無残に破壊されていた。ここは、戦場になったのだろう・・・。

扉の残骸の隙間を縫って、中に入る。窓から光が差し込み、壁は崩壊して、一面は草に覆われ、もはや何の部屋かわからなくなっていた。それでも、草を分けて、奥の壁まで近づいて見ると、壁際に、訓練用の武具が並んでいるのが見えた。木材でできたものはほとんど朽ちていたが、金属製のものは、かろうじて原型をとどめていた。

ノクトは、原型を留めた剣をひとつひとつ手にとって見て、その中から一番まっとうな鞘を選んで、取り出した。これで、父の剣を収められそうだ。

訓練場を後にすると、一度エレベータの前まで戻り、それから右翼に向かう。右翼の3階に、父の居室、そして、自分の部屋があった。右翼のエレベーターは動かなかったが、すぐ横の階段は問題なく使用できた。3階まで上がりきって、重厚な扉を開ける。

覚悟して開いたが、父の居室は、まったく荒らされた形跡がなかった。父の書斎の机には、誇りをかぶった家族の写真が、そのまま並んでいた。ひとつひとつ、手でほこりを払う。父と母の婚礼の写真。赤子を抱く母の写真。親子3人で写った最後の写真。自分が、成人したときの写真・・・。

親子3人で写っている写真を、写真立てから抜き出した。もう、およそもろくなっていて、そのまま手に持っていてはすぐに破けてしまいそうだ。何かあるといいんだが・・・。そっと右手に包みながら、今度は自分の部屋へと向かう。

そこは、自分の部屋といっても、高校からあまり使っていない部屋だ。こちらも整然としたものだ。ここにも、ほぼ同じような家族の写真が飾られている。しかし、その中にひとつ、テネブエラで撮影されたものが混じっていた。

幼いながらに、大人びた落ち着きのあるルナフレーナと、まるで子犬のように不安な顔をした自分。

思わず、くすっ、と笑いながら、ノクトはその写真も取り出した。

この二つを本か何かに挟んでおくか・・・

自分の本棚を物色する。車やゲームの本が並ぶ中、端っこに追いやられているのは、神話の本だ。本はこの10年で概観が茶色くなっていたが、中を開くと、色鮮やかな絵柄がそのまま残っていた。

かつて、ルーナと一緒に開いた頁・・・

ノクトは、美しい絵柄のページを選んで、2枚の写真を挟み込んだ。

控え室まで戻って見たが、やはり、まだ誰の気配もなかった。戦利品の鞘に早速、父の剣を収めてみる。少し小さいが、ほどよく端がやぶけているせいで、なんとか収めることができた。背負うためのベルトは、割としっかりしている。しばらくは持ちそうだ。

それから、絵本の頁をパラパラとめぐる。挟み込んだルーナの写真・・・幼く、屈託のない彼女が微笑みかけている。

ルーナ・・・

ノクトは本と剣を抱えて、王の間へ向かった。また、玉座に座って、考えに耽りたいと思った。そのうち、やつらも戻ってくるだろう。あそこにいれば、すぐにわかるはずだ。

高く上った日が、王の間に光を差し込んでいた。遠目からみれば、凄惨な舞台とは思えない、静かな玉座。近づくとやはり、生々しい流血のあとが目に入り、一瞬、胸を押さえる。鼓動は自然と早まっていた。

どうも、慣れねえな・・・

それでも、玉座に腰掛ける。

玉座というより、囚人の椅子だな、こりゃ・・・

腰掛けてしばらく、また、苦痛が蘇りそうな不安に陥る。大きく、深呼吸をして、自分に言い聞かせる。もう、終わったんだ・・・

しばらく、天井をあおりながら深呼吸を続けていると、少しずつ、心臓は落ち着きを取り戻していった。

もう一度、ゲンティアナと話ができないか。昨日はじっとここで待ち続けたが、彼女の声はもはや届かなかった。あれが、最後といっていたのだから、本当に最後なのだろう。

最後だというなら、もっと、文句を言ってやればよかった。まったく、思わせぶりなことばかり言い残しやがって・・・

気分を変えるために本を開いた。神話を読み返そうと思って、はじめの頁を開くが、またすぐに、ルナフレーナの写真を手に取り、ついつい見入ってしまう。

きっと、こいつはこんな時から、いろんなものを背負わされていたんだろう。

「・・・に比べて、お前は情けねぇ面してんな」

泣きそうな、それでいて、照れくさそうな顔をしている自分に、苦笑する。

と、その時、妙な音が耳に入って、ノクトは顔あげた。一瞬だが、遠くのほうから、獣のような唸り声が聞こえた気がした。

まさか・・・シガイ?

そうでなくとも、大型の野獣くらいはどこかで生き延びていてもおかしくはない。もうこれ以上の危険など何もないと高をくくっていたノクトは、急に緊張感が高まるのを感じた。

あいつら、まさか、何かあったのか?

ノクトは耳を済ませる。あの妙な音は、どこから来たのか。

程なくしてもう一度、唸り声が聞こえた。かなり遠いようだが、間違いない。王の間の入り口近く、音の聞こえるほうに近づいて見る。立ち止まって次の音を待つ。また、聞こえた。これは地下だ・・・避難経路を通じて響いている。


「何やってんだ、お前ら・・・」

避難経路を抜けて駐車場を出ると、ぷん、とした酒の匂いが立ち込めていた。なにせ、換気がろくに機能していない空間だ。アルコールが空気中に滞留したままになっている。

ルーフがオープンされた車の後部座席に、前後不覚で毛布に包まって眠っているイグニスが、そして、その脇で、車からはみ出すように床に大の字になっているグラディオが見えた。そのいびきは酷いもんだ。

プロンプトはどこだ・・・

「酒くせぇな・・・」顔しかめながら、どこぞにもう一人が転がっているかとあたりを見渡す。

そのとき、前方の車両からもそもそとプロンプトが抜け出してきた。

「あれ、ノクト、おはようっ!」

若干、頭痛がするのか、頭を抑えていたが、声はいたって元気だった。

「おはようじゃねえよ。なんだよこれは」

「ははははは。昨日さー、強いやつを、みんなで一本空けちゃって」

陽気なプロンプトの声が響いて、イグニスも、ようやく気がついて体を起こした。

「すまない・・・寝過ごした・・・」

盲人用の腕時計に手を触れながら、随分と日が高くなっている時間だと知る。

「いいよ。メシは適当に済ましたし。それより、イグニス顔色悪いぞ?」

「大丈夫だ・・・ただ、水が欲しい・・・」

イグニスの声は、情けないほどに掠れている。プロンプトが、昨日、酒盛りをして途中まで飲んでいた水のボトルを、助手席から拾い上げて、イグニスに渡す。ありがとう、声にならない声を出して、イグニスは一気に飲み干した。

「ちょっと飲みすぎたな・・・」

「ちょっとには、みえないぞ」

ノクトは笑いながら、グラディオの前にしゃがみこむ。ががが、と大きないびきをするたびに、ひどい酒の匂いが漂った。

「うう、こいつが一番酷い」

大げさに、顔の前で手を振ってみせる。

「ノクト、こっち、見てみなよ!」

プロンプトはトランクを開けながら、ノクトを呼んだ。

「ほら」

そこには、ノクトの希望通り、いつでも出発できるよう、必要な物資が詰め込んであった。食料だけではない。およそサバイバルに必要なものがすべてだ。しかも、グラディオのテントまで・・・。

「ね?飲まずにはいられなかったんだって」

プロンプトは、いたずらな笑顔を向けていた。

ノクトは、正体なく眠り続いているグラディオのほうを見る。

ありがとな・・・。

そして、持ってきた本と、鞘の収めた父の剣を、後部座席のポケットと足元に収める。これで、準備は完了した。

こいつらの酒が抜けて・・・明日の朝には発つか。

「・・・プロンプト、明日の朝、で、いいか?」

「うん、いいよ!いつでもOK!」

「体のほうは・・・いいのか?」

イグニスが心配してみせる。しかし、その掠れきった声とふらついた様子では、まったく説得力がない。

「ま、今のお前よか、マシじゃないの?」

ノクトは笑った。


グラディオが起きてきたのは、それからさらに数時間後だ。プロンプトとノクトで、コーヒーを入れて、缶詰ですぐに食べられそうなものを、つまんで、味気ない昼食をとっている最中だった。イグニスは、まだ、何も食べたくない、と言って、情けなくコーヒーだけをすすっていた。

まだ酒臭いグラディオが、のっそりと部屋に入ってくる。

「くそ!!頭いてぇ!」

「おめざめか?」

ノクトが笑う。

「なんだよ、おめぇら、おいてきやがって。つめてぇな。」

「どうやってお前の巨体を運べって言うんだ。勘弁してくれ」

と言いながら、ノクトはコーヒーのカップをグラディオに渡してやる。

「おお、サンキュー・・・」

グラディオはどかっと、壁際に腰を下ろしてコーヒーを啜った。

「”レガシー”の破壊力はすさまじかったな・・・」

「なんかちょっと、もったいない飲み方だったけどね・・・」

プロンプトが不服そうに言う。

「グラディオががぶがぶやるんだもん。つい、みんなつられちゃったよね」

「ああ・・・」

「なんだよ。オレのせいかよ!」

酒かぁ・・・

20歳の途中からあの過酷な旅が始まって、10年閉じこもってたノクトには、酔いつぶれるほど飲んだという記憶がない。そのうち、トライしてみるか・・・ グロッキーな友人たちが、少し羨ましくもある。

「それにしても・・・酒くせぇわ」

と、ノクトが立ち上がって、思わず窓を開けた。

「すまんな・・・」

イグニスはかなり落ち込んでいるようだ。

「たまにはいいんじゃね?お前らも、気ぃ張ってたんだろ」

「お前に言われると、なんかムカつくんだよ!」

グラディオは相変わらず、素直でない。

「じゃあ、まあ、二日酔いのところ悪いけど、・・・オレら、明日の朝に、発とうと思う」

プロンプトはブイサインをした。イグニスは、微笑みかえした。グラディオは、ぷいっとそっぽを向いた、がすぐに、「お前、体力、もどったんだろうな?」

「最低でもまっとうに旅ができるくらいでないと、許さんぞ」

「その、ヘタレ具合で言うかよ・・・」

ノクトは余裕を見せて仁王立ちしながら、しんどそうなグラディオを見下ろしていた。

「ちっ!」 と、グラディオは舌打ちする。

その時、4人の耳に聞きなれない音が届いていた。・・・車の音だ。遠くのほうから近づいてくる。4人は同時に顔を上げて、それまでしんどそうだったグラディオもイグニスも、さっと体を起こした。

「おい、なんだ?」

「車だな」

4人は沈黙のまま、王の間へ向かう。崩壊した壁から、王宮の中庭が良く見渡せるからだ。ノクトが、率先して、玉座を通り越して外が見張らせる場所まで進んだ。確実に、車の駆動する音が近づいてくる。目を凝らして遠くを見ていると、やがて道の先から、一台の黒塗りのワゴン車が近づいてくるのが見えた。

「黒塗りのワゴン車が1台・・・」

と、ノクトがイグニスに分かるように説明する。

「いや・・・二台だな」とイグニスが答える。

え!と思ってみていると、確かに、そのすぐ後ろから、黒っぽいジープが現れた。さすがだな・・・

「あ、あのジープ、コル将軍のじゃない?」

「だな」

プロンプトにグラディオが同意した。

コル将軍か・・・

ノクトの心臓が、少し早くなる。会いたいような、会いたくないような、妙な気持ちだ。

やがて2台の車は中庭に止まった。中からぞろぞろと出てきたのは、総勢10人くらいのハンターたちだ。もと、警護隊か、王の剣らしき服装をした者たちも見える。それからコル将軍。

「あれ、半分はアラネア姉さんの部隊じゃない?本人はいないみたいだけど」

「そうだな。みんなでお迎えのようだぜ」

グラディオが横目でちらっとノクトを見やり、それからノクトをのぞく3人は、一行を出迎えるべく玉座の脇を降りていった。

「おい、いつまでそこにいるつもりだ?迎えに出んぞ」

グラディオが王の間の入り口から呼びかける。ノクトは、見晴らせる場所に留まったまま、警戒する一行が、王宮の中庭で武器を構えながら周囲の様子を伺っているのを見ていた。コル将軍が何やら指揮をして、数人が、中庭の方々に散らばっていった。残された半数が、コル将軍を先頭に王宮のほうへ上がってくるのが見えた。

「いま、いく・・・」

ノクトはのろのろと玉座のある高台から降りた。3人はとうに先に行ってしまったらしく、話す声が遠のいて、そしてエレベータの到着音とともに消えた。ノクトは、ようやく重い足を、王の間の入り口まで運んでいくところだった。

ノクトは足を止めて、はあああああ、と、深い呼吸をする。見たところ、ハンターか、王都のゆかりの者も、何人かいそうだ。

脳裏に、このまま、誰にも会わずに避難経路を降りてしまおうかと、破壊された隠し扉のほうを振り返った。いや、この10年、間違いなく人々を先導し、闇に耐えてきた将軍をねぎらわねば・・・・ノクトの足は、エレベータのほうへ2,3散歩進んだ。しかし、思い直して後にまた、数歩戻った。

その時、ふいに

「ノ、ク、ト♪」

王の間の扉の影から、プロンプトがニヤニヤと笑って顔をだした。

「プロンプト・・・お前、ずっとそこにいたのか」

「いたよぉ。いつまでも、ぐずぐずと、いったりきたりしているノクトを、こっそりみてた」

ノクトはばつが悪そうな顔をして目を背ける。

「いいんじゃないかなぁ?」

プロンプトが、軽い感じで言う。

「いいって・・・」

「そ。いいんじゃない?」

それから、いたずらっぽい目を迫るようにノクトの顔に近づけて、「・・・どうしたいの、ノクティス?」

それは、女性のような艶やかさがある呟きだった。息が顔に吹きかかり、ノクトは内心、ドキッとする。

こいつ、ゲンティアナでものりうつったかな・・・

それから、また、溜息をついて、天を仰ぎ、玉座のほうを見て、そこに、父の姿があるような気がした。

お前の命を生きろ。お前のために。

父がようやく父としてだけあって、そう、語りかけているように感じた。

ありがとよ、オヤジ・・・

「いくか」

ノクトは、ニカっと笑って、プロンプトを見た。プロンプトは普段細い目を思いっきり見開いて、満面の笑顔を浮かべていた。


グラディオとイグニスは、程なく1階に降り立った。グラディオは、ノクトを待つ、と言って残ったプロンプトの、あの、喜びに満ちた顔が気になっていた。グラディオは、何か言おうと、イグニスを見たが、何も言えずにいた。イグニスは、まるですべて見えているように、黙ってグラディオの肩を叩いた。

「行こう。将軍を待たせると悪い」

グラディオは深く溜息をつく。

「そうだな・・・」

2人がためらいがちにエレベーターをおりて、がやがやと人の気配のするエントランスに出たとき、通気口を通じて、微かなエンジン音が聞こえてきた。

あっ、と、二人は思わず足を止める。

ちょうど正面から、数人のハンターたちを連れて、コル将軍が近づいてきたときだった。

「お前ら、みんなそろってくたばったかと思ったぞ」

コル将軍は、安堵した口調で、二人に近づいてきた。

「あとの2人はどうした?」

イグニスとグラディオが沈黙しているので、いぶかしげな表情をする。しかし、さらに数歩二人に近づいて、今度は顔をしかめた。

「おい。やけに酒臭いな・・・」

「すんません!!!」

と、グラディオは突然頭を下げる。イグニスは、困ったように顎を掻きながら「・・・我々の、監督不行き届きです。あとの、2人は、その・・・逃走しました。」と、続けた。

え・・・?

コル将軍は全く理解ができず、ただ、ぽかんと、二人の顔を見ていた。
















1コメント

  • 1000 / 1000

  • ai-coaching

    2017.02.17 11:04

    はじめ、全体が10章くらいの構成をイメージしてたのに、結局、目覚めて旅立つまでに9章もかかっちゃった・・・ たぶん、これで1/3くらいか・・・。