Chapter 16.2 -最後の啓示-


ノクトはまどろみの中にいた。

アーデンの姿が、宇宙のうつろいの中に星屑となって消えたのを見届け、その後すぐ、自分の体もまた、星屑となって砕けたのを感じた。このとき、体に受けた聖剣の苦痛からようやく解放された。と同時に、長らく自分を押しつぶしていた重荷が-それはあまりにも重く、しかし、逃れることもできないものであったが-、それらがすべてすっと軽くなって、消えた。

長かったな・・・

もう、なすべきものはなにもない。使命も果たした。王としての務めも、父への約束も、友への期待も。

ルーナ・・・君にも報いたろうか?

肉体のないノクトに、ルナフレーナの姿が見えてくる。彼女はあの、オルティシエで目にしたドレスをまとっていた。彼女はいつもの、1点も曇りの無い笑顔を向けていた。ノクトは、自分が思わず微笑んでいるのを感じていた。もう肉体もないのに。そうだ、この姿が見たいと、それだけを願っていた。この笑顔のためなら、王になるのも悪くないと、初めて思えたんだ・・・。

ノクトは、展示されたドレスの前で、自分が誓ったことを思い出していた。

まだ、果たしていない約束があったな・・・わるいなルーナ・・・。

彼女にそのドレスを着せたかった。ノクトはその気持ちを、いま、ありありと思い出していた。あんなに苦しみを背負って、ひとりで重荷を抱えて、それでもそんなに笑っているのか。泣いてもいいんだぜ。オレは泣いたよ。こどもみたいに、な。せめて、貴方にもそうさせてやりたかった・・・。

ルナフレーナ・・・

声にならない声が響いていた。

迎えにきてはくれないのか・・・死とはこのまま、永遠の孤独なのか・・・この意識はいつ消える・・・

「ノクト」

そのとき、まどろみの中からはっきりとした声を聞いた。聞き覚えのある、女の声だった。ルーナではない・・・。

「ノクト」

はっとして、目を開ける。そのとき、再び自分の肉体を感じる。しかし、傷の痛みも重さもない、実体の感覚が薄い。そして視界に入るのは、自分が最後に果てたと思われる王の間の天井だ。

「ノクト」

ノクトは体を起こして声のするほうへ向いた。肉体はまるで少しの重さもないように動いた。そこには黒い衣をまとった見慣れた姿があった。「ゲンティアナ・・・」

ゲンティアナは、にっこりとわらって少しノクトのほうを振り返ったが、玉座からゆっくりと降りて、遠ざかっていくところだった。

「あなたはすべての務めを果たしました。私たち6神は、それぞれ欲しいものを手に入れました。」

その声はやさしくこだましていた。やはりここも、まどろみの中だ。これは幻なのだ。

「しかし、あなたは何も手にしていないわね。自分の望むものを」

「闇は・・・払われたんだろ?」

「それが、”あなた”の、のぞみ?」

ゲンティアナは足を止めてもう一度振り返り、いつものように意味深い笑みを投げかけてきた。ノクトは、彼女の問いかけに困惑して、黙った。

ゲンティアナはからかうように笑って、また、向こうを向いて、階段を降り始めた。

「これは、最後の啓示になります・・・」

「え・・・?」ノクトは思わず、声を出していた。もう、果たすべき務めなど、何もないはず。

ゲンティアナは構わず続けた。

「我々6神はみな、この長い旅を終えて眠りにつきます・・・この地上で、我々が力を貸すことは、もうありません。そして、あなたももはや、すべてのルシスの力を使い果たしました。まったくの無力です。」

ゲンティアナは、階段を降りきったところで、再び足を止め、そして、ノクトのほうに向き直った。

「あなたは与えるだけすべてのものを、我々6神と、この世界に与えた。今度はあなたは、受け取るべきでしょう。本当にささやかなものですが・・・受け取りなさい。」

ゲンティアナの笑顔は、親しい友に送るように優しかった。彼女は両腕をノクトのほうに向けていた。大切な贈り物を受け渡すかのように。その手の先から優しい光が発して、ノクトの方へ流れてくる。ノクトの体が一瞬、優しい光をまとった。そして光は消えた。

「あなたの命を生きなさい、ノクト。今度は、あなた自身のために。これは、あなたのお父様のお言葉でもあります。」

はっ、としてノクトは何かを問おうとしたが、ゲンティアナはそれを笑顔で制して、再びノクトに背を向け、遠ざかって行った。

ああ、行ってしまう。

「待ってくれ!!」

ゲンティアナのほうへ、駆けようろうとしたが、体は玉座の前から動かなかった。

「待ってくれ!!ルーナは!!」

ノクトの悲痛な気持ちが声となっていた。

ゲンティアナは背中を向けたまま、遠ざかって行きながら、振り返りもせずに答えた。

「今度こそ、迎えに行きなさい。無力となったあなたでは、時間はかかるでしょうが。」

その声には微かに笑いがこもっていた。

ノクトの中に激しい感情がわき起こった。まるで失っていた自分の感情だ。そして、それまで忘れていたいくつかの苦痛も、同時に取り戻した。そして強い衝動。彼は、希望に突き動かされていた。ルナフレーナという希望に。




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