Chapter 16.1 -終焉-


ノクトの背中が、王宮の扉の向こうに消えた。 3人は呼吸をするのが苦しいのか、息を止めて、沸いてくるシガイに向き直った。 まだ、世界は夜の闇に閉ざされている。しかし、もうじき夜が明けるだろう。それまで、こいつらを食い止めなければいけない。

「うあああああ!!!」

突如として、声を上げ、先制攻撃を仕掛けたのはプロンプトだった。もうじき夜が明ける。そのことが意味をするのは---プロンプトは考えをとめたかった。プロンプトの声に驚いたグラィデオと、イグニスも、すぐに彼の心情を察した。2人も続いて、声を上げながら、シガイに切りかかった。誰も考えたくなかった。もうじき夜が明ける。

それをこの10年、どんなに待ち望んだことだろう。しかし、待ち望む気持ちに交錯して、まだ夜が明けてくれるな、と思う。もう、これ以上、考えたくなど無い。 プロンプトは、シガイに向けて乱射しながら、なんどもノクトの背中を思い出す。その背中を止めたかった。彼を死に追いやるのは誰か。ここでシガイにやられてしまえば・・・しかし、ノクトの声がよみがえる。「胸を張って生きろ」 むざむざとここでやられては、ノクトに顔向けできない。

再び、プロンプトに強い覚悟がみなぎり、彼の表情はいつになく鬼気迫る。激しくシガイに向かいながら、実に冷静な不思議な静けさがある。 しかし、その目からは涙が絶え間なく流れていた。 グラディオは、彼の涙に気がついて、声をかけようとしてやめ、かわりに目の前の、一番大きなシガイに向かって突き進んだ。「おおおおおおおお!!!」自分も自然と声がでる。そして自分の目にも涙が絶え間なく流れていることを知る。イグニスも、そのサングラスの下から静かに流れるものがあった。

3人はお互いに、お互いの涙に気がついていた。 イグニスはファイガを、シガイに浴びせながら、まだ、ルシス王家の魔力の存在を感じる。これが使えるうちは、まだノクトは生きているはずだ。しかし、それがなんとなろう。考えを打ち消すように、今度は剣を振るう。

いつもはまっさきに体力が尽きるプロンプトは、激しく銃を乱射し、また短剣を振り回しながら、勢いが衰えない。まだだ。まだいける。まだまだ戦える。もう少し夜が長引いても、まだまだ保てるはずだ。彼は自分の体力が続く限りは夜が続くものと思いながら、普段の疲労をとっくに通り越した限界の中で、抗う様に体を動かし続ける。「プロンプト!動けるじゃねえか!」「当然!」掛け合う、二人の声は悲痛なほどに明るかった。

はじめに空が変化したのを感じたのは、イグニスだった。彼は思わず、動きをとめ、危うくシガイの一撃をうけるところであったが、これをグラディオが防いだ。「何をぼうっとしてやがる!!」しかし、グラディオもすぐに異変に気がついた。 空は白み始めていた。ゆっくりと。シガイたちの動きが、少しずつ緩慢になっていく。プロンプトは一瞬、王宮のほうを振り向こうとして、しかし、目の前のシガイは彼に襲い掛かった。われに返って再び攻勢を強める。

「一気にいくぞ!!!」グラディオが、2人に渇を入れる。イグニスも、集中力を取り戻し、再びマジックボトルを取り上げた。まだ、魔力は十分に強かった。しかし、だんだんと弱くなることに気がつくのが怖かった。イグニスは剣に持ち替えてシガイに止めを刺した。

みるみる空は明るくなっていった。シガイは、明らかに衰えて、体の大きさも縮んでいった。3人は、立ち止まるのを恐れるように、弱ったシガイたちに次々と激しい攻撃を加え、執拗にダメージを与えて止めをさした。そして最後の1匹に、グラディオが渾身の一撃でとどめを刺したのと、日の光がまっすぐ差し込んできたのは同時だった。 光の中で、3人の激しく肩を切る息遣いが響いた。プロンプトはがっくりとひざを落とした。体力は当に限界に来ていたのだ。もう、一歩も動けないほどに全身がしびれて重い・・・。グラディオも、どっしりと階段に腰を下ろし、首をもたげる。イグニスはかろうじて立っていたが、やはり息はあがっていた。

プロンプトは、そのまま地面に倒れふすかと思いきや、思い立って王宮への階段を駆け上がろうと体を起こした。グラディオの横を駆け上がっていこうとするところへ、彼に腕をつかまれた。

「離して!!ノクトが!!」「待て!!」グラディオは凄みをつけて一喝し、それから、静かに言い直した。「・・・俺も行く。みんなで行くんだ」

「ああ、そうだな。」イグニスも、体を起こしなおした。

「わかった・・・」プロンプトも静かにグラディオが立ち上がるのを待った。

3人は押し黙ったまま、王宮の中へと入った。エレベータに乗ると、閉塞した空間に、3人の激しい鼓動がなり響いていた。駆け急ぎたい気持ちがありながら、足が重い。3人は、ゆっくりとした足取りで、王の間へ降り立った。心臓が、口から出るかと思うほどに、さらに鼓動が激しくなる。恐る恐るはじめに玉座のほうへ歩み寄ったのはプロンプトだ。3人は遠めに、絶望的な気分でゆっくりと玉座を見上げた・・・が、しかし、そこには人の姿は無かった。

「ノクト!!」プロンプトは思わず玉座のほうへ駆け出した。玉座へ続く階段をのぼると、崩れかかった台座と玉座との間に、倒れている人の姿が見えた。

「ノクト!!」今度は悲痛な叫びだった。その声を聞いて、グラディオとイグニスも階段を駆け上った。王座の前には、青ざめたノクトが苦渋の表情で倒れていた。その横には、血に染まった父王レギスの剣が横たえてあった。

「ノクトーーーー!!」プロンプトは絶叫しながら、ノクトの足元に倒れふす。そこへ多いかぶせるようにグラディオも激しい叫び声を上げて駆け寄る。グラディオももう、感情を押しとどめてはいなかった。両膝をがっくりと床につけて、激しく嗚咽しながら涙を滝のように流していた。

「そこに、ノクトが、いるのか・・・」イグニスは、泣き喚く2人の背後にそっと近づき、ノクトに触れようと手を伸ばしていた。グラディオは少しだけ冷静さを取り戻して、その手をノクトの体まで導いてやった。

「イグニス・・・ノクトは、ここだ・・・」 イグニスはグラディオに導かれるまま、そっとしゃがみこみ、そして、ノクトノ胸に触れた。血でぬれている。尋常ではない血の量だ・・・。イグニスも、もはや涙の滝を流しながら、今度はノクトの顔に触れようと震える手を上のほうへ這わせる。ノクトの首筋まで届いたとき、イグニスはびくっと、体を震わせた。

「・・・息がある。」 それは小さなつぶやきだった。プロンプトとグラディオの上げしい泣き声に欠き消されたかと思ったが、2人は同時に、ぴたっと、泣き声を止めた。

「・・・息が・・・わずかだが、あるぞ。」

イグニスは興奮を何とか抑えようと、押し殺した声を出していた。 プロンプトとグラディオは、イグニスを挟み込むように同時にノクトの体ににじり寄って、そして、3人が同時に、回復薬を手にしていた。しかし、冷静に持ち手を正しく構えていたのはやはりイグニスだ。彼は、躊躇なく、回復薬をノクトに振りかざす。薬の碧い煙が、ノクトの体に吸い寄せられ、そして消えた。青ざめた顔に、すぐに赤みがさし、ノクトが苦しそうにうめき声をもらした。

「ノクトーーーー!!!!」絶叫したのはプロンプトだけではない。グラディオもバカみたいな大きな声をあげていた。

「こいつ、生きてやがる!!!!」思わず激しくイグニスの背中をたたき付けたので、イグニスはよろめいて、危うくノクトの上に覆いかぶさるところであった。「すまん!」

「大丈夫だ。それより、どこかにノクトを移そう。王宮の寝室が使える状態ならいいんだが」

「僕見てくる!!」

プロンプトは先ほどまで感じていた疲労が嘘のように、軽い足取りであっというまに部屋を出て行った。遠くのほうから、歓喜して歌うような声が響いてきた。一方、グラディオは、ノクトの足元に座り込んだまま頭を抱えて嗚咽していた。腰が立たないように見えた。ほとんど引きつるような泣き声の中に、笑い声がわずかに混じっていた。

「悪い・・・俺は、しばらくうごけねえ・・・。ばかが!こいつ!!生きてやがる!!」 グラディオは壊れたラジオのように同じことを繰り返し、こどものように頭を抱えて泣いていた。

イグニスは、グラディオを気遣いつつ、ノクトの傷が気になっていた。ノクトの服を捲し上げて腹から胸にかけてを探る。腹の少し上に、明らかに剣で貫かれたような跡があったが、傷は、古い傷のように埋まっている。

「グラディオ・・・ちょっと見てくれないか。出血は止まっていると思うが・・・」

グラディオは、嗚咽を繰り返しながら、這いずるようにイグニスに擦り寄って、ノクトの腹を見た。生々しい、剣の跡がそこにはある。しかし、傷はもうふさがり、何年も昔のもののように見える。

「・・・ああ、傷はふさがってやがる。」

嗚咽を繰り返しながら、かろうじて声を絞った。

「レギス様の剣の傷だろう。血糊がびっしりついているぜ」

グラディオは言いながら、イグニスの右手を引いて、剣の先に触れさせた。

「奇跡なのか・・・。」イグニスは、数日前に聞かされた、ノクトに待ち受ける恐ろしい最後について思い出していた。歴代の王の剣が、彼を貫いたはずだ・・・。 イグニスは首を振った。なんでもいい。奇跡だろうがなんだろうか。ノクトは息をしているのだ。イグニスの耳には、今ではしっかりとノクトの深い呼吸が聞こえていた。

「ノクトの様子はどうだ?」 「顔色は悪くねえ。回復薬が効いているはずだ」

遠くからプロンプトが駆け上がってくる音が響いていた。

「すぐそこの、控え室のベッドが全然キレイだよ!」プロンプトの声は、もう、平常のようだった。今は、イグニスやグラディオよりもずっと落ち着いて見える。

「すぐにノクトを運ぼう!」

「そうだな・・・。」イグニスは、まだ、声が震えている自分に苦笑しながら、そばで嗚咽するグラディオの肩にそっと手を触れた。

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